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悩んだ末にホグワーツにやって…悲鳴が聞こえて何事かと顔を上げたその時に探しに来ていた少女が宙を舞うのにぎょっとなった。
周囲に生徒がいるとかそんなことはどうでもよくアニメーガスの状態から戻り、浮遊呪文を唱えると同時に宙に浮き、減速したハリーを抱きとめた。
とりあえず、ダンブルドアが入ってきてほしくないと4階の必要の部屋へと向かうと、生徒たちの間を歩き、後ろ手に鍵をかけたところでずっと自分を見つめている腕の中の少女を見下ろした。
嬉しさなのか、驚いたからなのか、涙が頬を伝うのを見ると同時に震える唇をふさぐ。
逢わなかった時間を埋めるかのような口づけにハリーは腕をまわしてすがりつくと、ハリーの手からアレキサンドライトがこぼれおちた。
部屋にある寝台にハリーを下ろしたヴォルデモートは初めて会った夏と違ってちょっと女らしくなったハリーを見て、頬を撫でる。そのまま手を下っていくとお腹に触れるところで戸惑うように手を止めた。
「ヴォルデモートの子だよ。本当はちょっと心細かった。」
戸惑う手に手を重ねてそっと押しあてるハリーは会いたかったと再び涙を流す。
掴まれた手越しに胎動を感じてヴォルデモートは顔を伏せる。
反応がわからず首をかしげるハリーは抱き寄せられ、肩口に顔をうずめるヴォルデモートに驚きながらくすりと笑って頭を抱きしめた。
「うん。ヴォルの子。」
「具合など悪くなっていないか?」
抱きしめ返されたことが嬉しくて笑うハリーを覗き込むヴォルデモートは静かにハリーを押し倒す。
元気だよ、と返すハリーに少しほっとすると体重をかけないようにしながらハリーにのしかかる。
再会に喜んでいたハリーはどうしたの?と小首を傾げ…逃げればよかったと後悔することとなった。
眠るハリーの胸元に直したペンダントをつけると、ヴォルデモートはもう一度ハリーのお腹に手を当てた。
散々命を奪って来た自分が親になる…しかも当然ではあるが父親に。
父親、と考えていやな顔を思い出すヴォルデモートは俺様は違うと自分に言い聞かせるように呟いた。
俺様は違うんだ、ともう一度呟くと気持ちよさそうに眠るハリーの頬を撫でてぐっすりと眠りについた。
突然現れた侵入者にハリーが連れられ、丸一日どこかの部屋に閉じこもったことに学校内ではあれが相手らしいというささやきがあっという間に広まった。
もう我輩は知らないと部屋に戻ったスネイプはニコニコとやってきたダンブルドアをキッと睨みつける。
そんなスネイプの威嚇にも動じないダンブルドアは有無を言わさない口調で着いてくるようにと言うと、ひょうひょうとした足取りで必要の部屋へとやってきた。
「トム、久しぶりじゃのう。」
ノックもせずにあけるダンブルドアになんで巻き込まれなければならないんだ、とスネイプはいらいらと続く。
天幕が降ろされた寝台で誰かが起き上がり、ごそごそという音が聞こえると中からヴォルデモートが不機嫌さを顔に張りつかせて出てきた。
「ノックもしないとはな。」
「ノックをしたと思ったんじゃが…忘れていたかの。」
黒いローブ姿で対応するヴォルデモートにダンブルドアは涼しげな顔で嘘を言うと、ハリーは眠っているんじゃろう?と静かな天幕を見る。
ずるりと寝台の下から大きな蛇が顔をのぞかせると、ヴォルデモートに何かを言われ、寝台へと入っていく。
「単刀直入に聞くんじゃが…まずおぬしが心配していることじゃが、ハリーは大丈夫じゃ。健康的な食事をとっておるし、何より今はトム、お前さんがそばにいるのじゃから精神的にも健康的じゃ。メローピー=ゴーントのように衰弱しておるわけじゃあない。」
そこはわしが保証しよう、というダンブルドアにスネイプは何の話だと内心首をかしげ、ヴォルデモートを見た。
心配事が図星だったのか、それとも触れてほしくないところだったのか、威圧感が増すヴォルデモートにダンブルドアはもう一度大丈夫じゃとゆっくりいう。
「それと今後の事じゃが…。ハリーのそばにいたいじゃろう?こそこそとしていてはハリーが悲しむじゃろうし…。」
「何か妙案でもあると言うのか。ダンブルドア。」
そばにいたいことなどは一切否定しないヴォルデモートは不機嫌そうな顔のままどうせ碌な話じゃないとダンブルドアに促す。
「俺様はあのマグルの…あの男と違って母子をほおって逃げることはしない。あの男と違ってな。」
ヴォルデモートはダンブルドアの手紙の、父親と同じく逃げるのかと、母子を捨てるのかと散々書いてあった内容を思い出し、この狸爺と睨みつける赤い目を細めた。
なんとなく話の内容から察したスネイプはだから来たのかと、というか最初逃げたのは誰だとダンブルドアから一歩引いたところで見守ることとした。
「なに、難しい話じゃない。ヴォルデモートが復活したことと、子を授かったことを堂々と公表すればいいんじゃ。」
名案じゃろう?というダンブルドアにスネイプとヴォルデモートはほぼ同時にガクッと体を揺らした。
「そうじゃな…ちゃんとハリーとの子だと公表するんじゃ。当然反発するものが出てくるじゃろう。そこで、誓いの魔法を立てたというんじゃ。つい最近までホグワーツに出入りしていた記者がおったから…彼女に書いてもらえばいい。」
「そういうことか…。ダンブルドア。あの魔法薬の誘拐事件に巻き込まれた被害者としてハリーの名を出し、人魚薬の効果と俺様との関係をかき、こうなったと。俺様がハリーと誓いの魔法を立てたことで引き離すことができなくなるようにしむける…そういうわけだな。」
名案じゃろう?と繰り返すダンブルドアにスネイプはあの記者が書きそうな内容を思い浮かべて、完全に泥をかぶせる気だとヴォルデモートを試しているのかと納得する。
世界広しと言えども、あんなに残虐の限りをした闇の帝王を手玉にとり、世間の目を欺くための大芝居というかなんというかを考えるとは…大賢者じゃなくて、貴方も十分悪人だ、とスネイプは上司に恵まれない、と天井を見上げてなげいた。
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