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 ルシウスからセブルスがあのことで報告があると言うことを聞き、あの英雄がどうなったのかを聞く機会だろうと、呼び出す。
 そろそろ動き出そうとしていたこともあったヴォルデモートは呼び出しに応じる部下の言葉に思考が止まる。
「もう一度いえ。セブルス。」
「ハリー・ポッターの件ですが、人魚薬という薬の影響で女性に姿が固定され、予定日は6月ごろとなります。」
 影で顔が隠れ気味の帝王にスネイプはもう一度告げるとヴォルデモートの動きを待った。
いつまでも返事がないことに意を決してもう一度口を開く。
「人魚薬の効果として相性がいい相手と巡り合った場合に本来3日ほどで効果が切れて元に戻れるのが、人魚姫が永遠に人間になるのと同じく変わった姿に固定される作用があります。今回は女性になったと言うことで…。」
「俺様の…だと?」
 人魚薬の説明をするスネイプに心当たりしかないヴォルデモートは赤い目をしばたかせた。
「3日という期限がありますので…その間にポッターに誰かほかの人物が接触していれば別かとおもいますが。」
「それはない。」
 余計なことは言うまいと決めていたスネイプはやな予感がする、とヴォルデモートの動きを見つめる。
 ハリーを掴まえて連れてきてから自分が見張る中でスネイプと接触した以外一歩も外を出ていないのだからそれだけは断言できると、きっぱりと否定するヴォルデモートは湧きあがる様々な感情と思考にいったん落ち着こうと額に手を当てる。
 これは一体何かの冗談なのか、それともダンブルドアの策略なのか…そもそもなぜハリー・ポッターは男に戻らず産むことを選んだのか…。
 最後の晩の事を思い出し、ちらりとサイドテーブルの上に放置していた黒い布を見る。
「わかった。さがれ。」
「はい。あぁ、ダンブルドアよりポッターの相手が不明だが私が保護したということで、もしも連絡が取れたならばこの手紙を渡すようにと。こちらに置いておきますので。」
 ヴォルデモートの言葉に早く下がりたいスネイプはダンブルドアに頼まれた手紙を思い出し、それをそばにいたナギニへと渡す。
 今度こそ下がるスネイプはとりあえずルーピンらに報告しておくか、と音を立てないよう大きくため息を吐き、早々に立ち去った。
 残されたヴォルデモートは布に手を伸ばすと、迷った挙句それを手に取る。
「俺様の…だと?」
 呟くヴォルデモートに近付くナギニは咥えた手紙を届けると、どうするのかと主人を見上げた。
ダンブルドアの手紙と聞いてどうせ相手が誰かわかっているのだろうと、眉間にしわを寄せたヴォルデモートはそれを手に取る。
 羊皮紙を開いたヴォルデモートは全身から不機嫌なオーラを出すとあの糞爺が、と手紙を握りつぶした。


 3人でそろってハグリッドの小屋へとやって来たハリー達は繋がれた黒い犬に目を止め、元気?と呼びかける。
「ダンブルドア校長から預かったこのパッドフットはちーっと元気すぎるが、ハリーが来るとこんなに喜んで…。飼い主とは知り合いだったのか?」
「あー…まぁうん。知り合い。」
 ハリーに飛びついちゃあ危ねぇから、と柵で仕切られた先からくぅんと啼く姿にそろそろ戻してあげてもいいじゃないかなと、あの首輪を見る。
 ちらりと見えるハリーのペンダントに唸るが、それでもこの扱いはひどい、とパッドフットは鼻を鳴らしてハリーに前脚を伸ばす。
 仕方ないわよ、とその脚を押しとどめるハーマイオニーはそうだ、とハグリッドのロックケーキを押しやってハリーと呼ぶ。
 その声で何を話そうとしていたか思い出したハリーはパッドフットと共に隔離されたファングをみつめてからハグリッドを振り仰ぐ。
「そうだハグリッド。あのね、やっと連絡つながって…。報告できたって。」
 今朝スネイプが言っていたと言うハリーにハグリッドはそれはよかったとロンの背中をたたく。
 ハリーの体はたたいちゃいかんというハグリッドにロンはロックケーキにぶつけた鼻を抑えて固まった犬をちらりと見る。

「ただ、びっくりしちゃってどうするかとかそういう話が聞けなかったって…。」
「でも進歩よね。ダンブルドア先生はなんて言ってるの?」
 誰もが恐れる闇の帝王がびっくりというのにハーマイオニーは一応人の子だったのね、と心の中で呟き、何もかもを知っていそうな大魔法使いを思い浮かべる。
「うーんとね…。彼は家庭環境がいろいろあれで、家庭と言うのを知らないのと父親っていうワードに動揺するから十中八九逃げるって。だから…一応想定の範囲内。ついでに、スネイプが持っていったっていう手紙…ダンブルドア先生の事だから絶対トラウマをわざと逆なでしているんじゃないかな…。」
 とりあえず、これで考えてくれるんだというのが嬉しい。
唸るパッドフットにハーマイオニーはまぁまぁというと、嬉しそうなハリーを見る。
どういう判断をするかは定かではないが、それでも悪い方向じゃななさそうね、と紅茶を飲んだ。


 ようやくルーピンがホグズミードにやってくると、パッドフットは首輪をつけたままそちらに移ることとなった。
「セブルスから聞いたよ。どういう行動をとるかわからないから…何かあったらヘドウィグを飛ばしてくれたらこの縄といてあげるから。」
 というルーピンはこの縄、と部屋の柱にしっかりと結ばれた太い鎖を示す。
 その鎖が続く先にはハリーに近付こうとして長さが足りずに恨めしげな眼でルーピンを見つめているパッドフットことシリウスの姿があった。
「ごめんねシリウス。でも…多分彼とあったら…お互い…というかシリウスがただじゃすまされないだろうなって。そうなったらとっても悲しいから…」
 だからもう少しそのままでいてね、というハリーにルーピンもシリウスの頭を撫でながらそうだね、という。
 縄を解けば一目散にハリーに駆けつけるであろうシリウスはぶすっとしながら鼻を鳴らして伏せをする。
 
 
「それにしても…ハリーの予想した通り逃げたわね。」
 ルーピンが淹れた紅茶を飲むハーマイオニーはやれやれとため息をついた。
 スネイプがもう一度向かったところ、すでに引き払った後で…ルシウスに聞いたところえっと驚いていたらしい。
「本当になんというか…。イメージとかけ離れていて怖いとか最近なくなって来た。」
 あはははと笑うロンは逃げたと言うハーマイオニーの言葉に反応して、立ち上がったシリウスをみる。
「復活した時は怖かったけど…だんだん何が怖かったんだろうって思うぐらいには僕もマヒして来たよ。」
 だよね、と笑い返すハリーはちょっと長くなった髪を手にとり、少し切ろうかなとウェーブがかった髪を撫でつけた。
「それにしても大分女の子の姿に順応してきたんだねハリー。せっかくだしもう少し髪を伸ばしてみたらどうかい?」
 同室の友人らによって髪をセットされているのか、ピン留めで止めている髪型に似合ってるよとルーピンが笑いかける。
 そうかなとはにかむハリーはどうしようかな、とお腹を軽くなでる。

 隠しようもなくなったところで、ハリーがあの魔法薬で女の子になったことに加えて、紆余曲折あって子供を授かっていると言う話が学校内に広まると、ちらちらとした視線を多く感じるようになっていた。
「仕方ないよ。普通学生で妊娠なんて…。しかもハリーは男の子だっていうの知っているからなおさらね。」
 ため息を吐くハリーにハーマイオニーは仕方ないわ、というと雪景色になった外を見た。
 危ないからしばらくはルーピン先生のところもいかない方がいいかしら、とハグリッドが残したソリの跡に目を移す。
 もうすぐ冬休みね、と考えるハーマイオニーは足元気をつけてね、と階段を下りる。

「誰かそれ止めて!!」

 突然聞こえた声にはっとなって身をかがめるハーマイオニーは頭上を飛んでいく花火に誰なのよと呆れる。
 外は雪だと言うのに何を思ったのか、火なしで着火する花火を運んでいたらしく、あっちこっちに悲鳴が聞こえる。
 ブツッという音が聞こえると同時にハリーのあっという声が聞こえてハーマイオニーは後ろにいたハリーを振り向いた。
 避けた際に胸元からこぼれ出たあのペンダントの鎖が切れて宙を舞う。
とっさに手を伸ばしたハリーは何とかそれをキャッチして青ざめた。
< ハーマイオニーとロンが手を伸ばすが、焦ったあまり手が宙をかき、ハリーの体が宙に投げ出された。
 誰かの悲鳴が聞こえてとっさにお腹をかばうハリーはギュっと目をつぶる。

 ふわりと浮く感覚に誰かの魔法が間に合ったのかなと考えるが、誰かの腕に抱きとめられてゆっくりと目を開く。
「うそ…。」
 黒いローブ姿の男に抱きとめられたハリーは自分が今進行形で宙に浮いていることと、周囲に学友がいることも忘れてフードから覗く赤い目にくぎ付けになった。
 無言呪文で浮いている男は周囲の声に舌打ちをすると、そのまま4階まで上がり唖然とする生徒たちを無視して黒いローブを翻しながら突然現れた扉に驚くこともなくそのままその中へと消えていく。
 落ちるハリーにとっさに浮遊呪文をかけようとしていたスネイプはハリーを抱きとめた男の姿に思わず杖を取り落とす。
 何があったのかを聞いてくるルシウスの問いかけをかわし、何とかコンタクトが取れないか、怪しまれないレベルで探っていた我輩の努力を返せ、と心の中で悪態をついてしまった。




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