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 リーマスに言われてシャワーを浴びたハリーは鏡に映る体をみて赤面する。
多分誰も見ないだろうと、そう思って赤い印が小ぶりな胸の間に残したままになっている。
別にすべてを消してもよかったが、それではなんとなくさみしい気がして、つい残してしまったものだ。
買ってもらった下着をつけて細いパンツを履き、シャツを着ると戸惑っているシリウスらのいるリビングへと姿を現した。

「えぇっと…あらましはあいつに聞いた…けど…ハリー、本当に…その…。」
 一応いかにも女の子と言う格好ではないが、それでも体つきが違うことはごまかしようがなく、シリウスは戸惑うように視線を上げてはどこをみればいいのかわからないようにおろおろと落ち着きなく視線動かす。
「ハリー。君に薬を飲ませたもの達は今朝魔法省のしかるべき部署のもの達が全て捕まえたんじゃ。安心するといい。」
 ぽんと、肩に手を置かれたハリーは驚いて振り向くとダンブルドアはにこりと笑い、もう大丈夫じゃと言う。
 ほっとするハリーはダンブルドアの後ろから入ってきたスネイプに目を止め色々思い出して少し視線をそらす。
「まだ調査中ではあるが、ポッターが飲まされた薬は持続性のある薬の疑いがある。長期的なものか、短時間で戻るかによっては解毒薬が変わってくる。もし飲まされた薬の効果が長期間あるいは永続的な薬の場合作る薬の材料が今すぐに手に入れることができない。」
 今調査中だ、と言うスネイプにシリウスは早くハリーを元に戻す薬を作れと睨みつける。
「なんですぐに作れないんだ。元に戻れるなら何だっていいだろ。」
「魔法薬にかんして教科書通りのものしか作ったことのないような馬鹿犬は黙っていてもらおう。もっとも、声を出せなくすると言うことで、おおよその見当はついている。ポッターが飲んだのは“人魚薬”と呼ばれている薬ではないかと思われる。」
 ばちばちと二人の間で火花が飛び交うと、すかさずルーピンがシリウスの視線をさえぎり、スネイプの言葉にそんな薬が?と首をかしげた。
 こめかみをひきつらせたスネイプの視線になんとなく気まずいハリーはとりあえずマグカップを手にとり、紅茶を飲む。

 
「…これはマグルの間で知られる童話“泡姫”あるいは“人魚姫”を元にした薬で声を奪い、姿を変えると言う。本来ならば童話と同じく3日ほどで自然に戻るそうだが…ある条件を満たした場合望んだままの姿になるそうだ。」
 飲んでいた紅茶が妙な音を立てて喉に入り、むせるハリーはいつもの不機嫌さが倍増しているスネイプの表情に目を丸くした。
 望んだ姿?まさかそんなはずはない、とうろたえるが、スネイプの次の言葉に勢いよく部屋に逃げ込むこととなった。
「条件とは想い人と想いを通じ合わせ、相愛になること。」

 ハリーが顔を真っ赤にして逃げていくのをぽかんと見送ったシリウスは機嫌が底辺にあるスネイプと、にこにこと何かに気が付いているらしいダンブルドアと、混乱する頭を支えるように抱えるルーピンとをみた。
「セブルス…それって…もしかしなくてももしかする?」
「我輩は何にも!何にも知らん!」
 うめくルーピンにスネイプは青筋を立てたまま苦々しく答える。
「もしかするとこれは…ふむ…。難儀じゃのう。」
 一人置いてけぼりのシリウスは目をしばたかせた後まさかお前か!とスネイプに詰め寄る。
「まさかハリーの想い人って…!」
「断じて違う!!」
「いや、もうむしろセブルスだったらよほどましだったよ…。」
 何がどうなっているんだろう、とうめくルーピンにスネイプの襟元に詰め寄ったシリウスは疑問符を浮かべてかたまった。
「セブルス、他に思い当たるのっていない…かなぁ。」
「ポッターは保護された場所でずっと過ごしていたから、それ以外には誰にも接触していない。」
 うーんと言うルーピンにスネイプは答えながら接触していないどころか、触ったことで殺意を向けられた、と心の中で付け足す。
 保護?捕獲?されてから昨日までどう過ごしていたのか…口が裂けても言えないと、表情に出さないよう心の奥底へとしまいこむ。
 
「それぞれ自覚はしておるのかの?」
 なんでもお見通しだと言うようなダンブルドアにスネイプは微妙な顔をして首を傾けた。

ハリーの反応…そして例のあの人の反応…。

 よくよく思い返して考えて…。

「自覚はしていないでしょう。」
「じゃろうな。では、自覚してしまう前に検査をし、ハリー次第では元に戻る準備をしたほうがよいかもしれん。」
 きっぱりと言い放つスネイプにダンブルドアは困ったような顔で髭を撫で、自覚してからはハリーが可哀そうじゃ、と呟いた。
 まったく話しについていけないシリウスはハリーを元に戻ると言うダンブルドアの言葉になんだか嫌な予感がするからと、早く戻した方がいいと賛同する。


 部屋に駆け込んだハリーは顔を真っ赤にしてタオルケットに頭を突っ込んで足をばたつかせた。
「(絶対にありえない!!!だってあれだよ。例のあの人だよ!?僕がそんなあんな奴を…それにヴォルデモートが僕の事を…絶対あり得ない!!)」
 混乱するハリーは違う違うと必死に否定する。
ちらりとトランクに目をうつしてその中に入れたものを考え、そろりとタオルケットから顔を出した。
「ハリー?」
「はいっ!!!!!!…わっ!」
 部屋に聞こえた声に驚いたハリーは思わず大きな声で返事をして振り向こうとして寝台から転がり落ちた。
「大丈夫かいハリー?ごめんねびっくりした?一応ノックしてから声をかけたんだけど…」
 入って来たルーピンは床に転がり落ちたハリーを助け起こして謝るとハリーの首元に目をとめた。
「そのペンダント…。」
 転んだ拍子に滑り出たあの赤いペンダントに気がついたルーピンの言葉に、ハリーはあわててペンダントを握りしめる。
 つけてもらってから自分で外したくなくてずっとつけたままのペンダント。
離れたらどうなるか、とヴォルデモートに言われていたが、どうやらまったく呪いもなにも掛けられていないようで、ひんやりとした宝石が胸元に揺れていた。
 そこであれ?それじゃあなんでこれを僕の首にかけてくれたんだろう、と混乱と共に顔が赤くなっていく。
「もしかして…アレキサンドライト?」
 以前見た時は緑だったペンダントにルーピンはもしかして、と言うと言われたハリーはきょとんと眼をしばたかせた。
 ちゃんとした名前のある宝石だったことにどこで手に入れたんだろう、と言うのとやっぱりなんでこれを呪いのグッズだみたいなこといってくれたのか、と先ほど否定していた考えが頭をよぎりあわわわ、と混乱する。
 そんなハリーの様子にあまり踏み込んだ質問をすると可哀そうだ、と声に出さないように息をつく。
「ハリー、お腹すいてないかい?ご飯どうする?部屋で食べるかい?」
「えっと…その…へっ部屋で食べてもいいかな。」
 とりあえず、と先ほどの行動には触れずに声をかけるルーピンに、ハリーはスネイプやシリウスの事を思い浮かべて部屋にいたいと答えた。
 スネイプとダンブルドアはハリーが飲まされた薬が何かを調査するためすでにこの家にはいないが、ルーピンはちょっと待っててと声をかけると部屋を出た。


 翌日、ハリーは聖マンゴ魔法疾患障害病院へあの捕まった犯人らの使った魔法薬とそのほか体の不調がないかを検査にしやってきた。
 検査を終えたハリーとは別室で付き添いで来ていたルーピンと、解毒薬のためにきたスネイプがヒーラーから検査の結果を聞いていた。
「犯人らの証言などからやはり“人魚薬”と呼ばれる薬が使われたようです。それと…薬の効果である通り、彼は条件を満たしているらしく、姿が少女で固定されています。なので、元に戻すならば性別を“男にする薬”が有効となるでしょう。」
 検査結果、懸念していた魔法薬が使われていたとそう告げるヒーラーにスネイプは厄介なことになった、と考える。
 ルーピンもまた、条件を満たしている、と言うことでどうしたものかとため息をついた。
 それと、とハリーが案内されてくるとヒーラーは本人も知っといた方がいいという。

「人魚薬の効果で完全に体が女性になっている影響でしょう。非常に言いにくいですが、男に戻る場合、今の状態では戻れないでしょう。まだ初期ですが、新たな命が宿っています。」
 ヒーラーの言葉に内心うめくスネイプと、うすうす感づいてはいたがハリー達がまさか本当にそんな関係だったなんて、と固まるルーピンと…言われたことが一瞬理解できなかったハリーにヒーラーはですから、と繰り返した。
「この薬の使用例が少ないことと、条件を満たすことが少ないこと、また男性から女性になるということが症例的にも今のところ報告がないことから要因は断定できませんが、おそらくは条件である想い人と相愛関係になると言うことで、通常よりも相性がいいのでしょう。期間から考えて…薬を飲んですぐに条件を満たしていた可能性がありますね。」
 淡々と説明するヒーラーにハリーは顔が真っ赤になっていくのを自覚しつつ、元に戻るか、それとも…と考えたところで頭から煙が吹き出る。
 ひとまずはゆっくり考えた方がいい、とヒーラーに促されて3人はついていけなかったシリウスと、結果を聞きに来たダンブルドアの待つブラック家の屋敷へと帰って行った。


 椅子に座ったハリーはぐるぐるとさまざまな考えが頭をめぐり、頭の中の混乱を落ちつけようとする。
何も知らないシリウスはあまりの事に言葉を失い、混乱しているハリーを凝視する。
ふむ、と考えるダンブルドアはハリーはどうしたいんじゃ?と声をかけた。
「どう…するか…」
 混乱の中からようやく返答するハリーは無意識に自分のお腹をなでる。
いくら薬の効果で女の子になってあぁなってこうなったとはいえ、自分の気持ちにすらまだはっきりしていないのに、とハリーは考えていた。
「そっそんなハリー!もちろん元に戻りたいよな!」
 焦ったようにハリーに確認を取るシリウスはだってそうだろう?という。
もともとハリーも戻りたいと考えていたが、薬の条件やこの状況でどっちがいいかのかわからない。
「元に戻りたいのならば早く決断すべきだが…。」
「ハリー、これはハリーにしか決められないことじゃ。もし、もしもその想いをたいせつにしたいというのならばできる限りのサポートはするつもりじゃ。」
 苦々しいスネイプにダンブルドアもハリーはどうしたい?という。
思わず黙るハリーは考えさせてください、と席を立ち部屋へと戻る。

「それで…ハリーの想い人って…。誰なんだ?その…相手と言うか…。」
 衝撃から未だ完全に戻っていないシリウスは誰も何も言わないが、3人が3人共にハリーの想い人を知っている様子に少しむっとしながら尋ねると、どうしたものかと3人は顔を見合わせた。
「セブルス、リーマスちょっとよいかの。」
 手招きをするダンブルドアに怪訝な顔のシリウスをしり目に集まるとさて、とダンブルドアがきりだした。
「ハリーの想い人じゃが…。」
「我輩は関わりあいたくはないと先に申しあげておきますぞ。」
「本当に何が何だか…。」
 あの二人の事についてはもう関わり合いたくないと言うスネイプに、人の気持ちってわけがわからないと困り果てたルーピン。
 うーむと考えるダンブルドアは一つ大きくうなづいた。
「ハリーがどちらを選ぶにせよ、この事はわしが大丈夫と言うまで他言は無用じゃ。」
 でなければ納得するように説明するのが難しいだろう、とダンブルドアはいつものようにちゃめっけのある目で二人をみて、悶々とするシリウスに目を移した。
「ハリーが落ち着くまで内緒じゃ。それと、ハリーがどちらを選ぶことじゃが、ハリーがどちらを選んでも責めたり、無理にハリーの道を誘導するのはなしじゃ。これはハリーが決めねばならぬことじゃからの。」
「でっでも今後のハリーに関わることを…その…。まだハリーは未成年だ。今後一生を決めることを任せるのは…。」
 ダンブルドアの言葉に明らかに不機嫌な顔をするシリウスはこんなことをハリー一人に決めさせるのは、と口ごもる。

 大体、とシリウスは続けた。
「ハリーの想い人ってどれだけ自分勝手なんだ!ハリーが未成年だっていうのわかった上で手を出すなんて。おいスニベルス!せめてそいつに連絡ぐらい入れろよ!一発ぶん殴ってやる。」
 シリウスの言葉に相手が誰だかわかるルーピンとスネイプはまぁ正論だ、と頷く。
 大体、年齢が半世紀も違うし、世間的には真逆の存在だし、かたや愛情もなにも知らないし、大体ハリーが男だって言うのはよく知っているはずだし…。
上げてみると本当になにがどうなっているんだ、と考える。
「常時連絡が取れる相手ではないため、いつになるかわからないが…必ず話すつもりではある。それと、どうなるかはわからないが…殴るのだけは諦めたほうが賢明だろう。」
「うん。連絡はセブルスの…と言うか相手の都合まかせになるしかないね。それと、ちょっと無理だと思うなー。いろんな意味でハリーを悲しませたくないから…それは諦めて。」
「そうじゃな。連絡のタイミングはセブルスに任せよう。それと…リーマスの言うとおり、ハリーが悲しむじゃろうから手を出すのは諦めたほうがいいじゃろう。」
 やめた方がいいと言うスネイプにルーピンもまた反対し、ダンブルドアもいつもの穏やかな顔で頷きながらやめた方が賢明じゃ、と言う。
 目をしばたかせるシリウスはますます意味がわからないと首をかしげた。
とりあえず、とダンブルドアは本人からなにか話が出るまでこの件は静かに見守っておこう、とダンブルドアはシリウスにくぎを刺す。
悶々とするシリウスだが、ダンブルドアに絶対じゃぞ、と言われてしまうと口を噤まずにはいられない。



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