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日に日に疲れで隈が酷いことになっているムーディに、さすがにこれはとハーマイオニーとロンは同情し……元凶であるカップルを見る。素知らぬ顔をしているヴォルと、ウィンキー元気になっているといいな、というハリー。危害を加えようとしてくる相手とはいえ……ほんとうに良くも悪くも……似たものカップル、と小さくため息がこぼれる。
ハリーの影響でかつての闇の帝王よりも大分マイルドになっているようなヴォルと、その代わりに容赦のなさが移っているハリー。
これからも魔法界は安泰ね、そうだね、と授業に集中する。今日の授業は少し変わって、記憶についての授業だ。このように、と杖をこめかみに当て、慎重に引き出すときらきらとしたものが抜き出てくる。
「記憶を映す、あるいはそもそも記憶そのものを抜き出すことができる。とはいえ、他人が行うのは要領を誤りうっかり命を奪うこともあるため、面白半分で行うような愚か者は即刻退学となるだろう。こればかりは知らなければならないが、使うことは厳禁とする。この靄状のものは非常に高価なペンシーブと呼ばれる道具を使う事で追体験することもできる」
慎重にきらきらとしたものを頭に戻すムーディの説明はわかりやすいが、何を思っての授業か、それをわかりかねてハリーは首を傾げた。
記憶についての説明が終わり、魔法の道具についての説明が始まる。一通り終えたころに授業が終わり……ロンが先週のレポートのことで呼び止められる。
「記憶の靄っていうけど……」
「闇の魔術とは異なるものではあるが……まぁ知っておいて問題はないだろう」
何なんだろう、というハリーにヴォルも肩をすくめて見せ、遅れてきたロンを迎える。思いっきり書き間違えてた、とがっくりするロンにだから見返しなさいって言ったじゃない、とハーマイオニーがたしなめ、大広間へと歩いていく。
「そうだ、記憶の靄って長さで大きさ変わったりするのかな。ほら、僕らはまだ14年だけど、ヴォルのだとどうなるのかなって」
君のはとんでもなく大きくなりそうだ、と言い出したロンにヴォルもそりゃあおおきいだろうな、と特に興味もなく返す。どれくらいの大きさになるか気になるから見せて、とせがむロンにヴォルの眉間にしわが寄り……大きくため息を吐くと写しだから時間かかるぞ、と言ってこめかみに杖を当てる。少し時間をかけるとゆっくりと引き出し、こんなものか、と水晶ほどの大きさの靄を取り出した。
「すごい……。これがヴォルの人生分なんだ」
「全部じゃない。さすがに本格的に勢力を集めて行動を開始したあたりからいままでの記憶だ」
写しだから細部まで入っていないが、とそういって杖を振ろうとし、ビニール状のものでガバリと掴んだロンを見る。
「何をしているんだロン!」
反射的に腕をつかむもヴォルの記憶の写しを入れたビニールが窓から飛び出し、梟がそれを掴んでいく。やられた、と大きく息を吐くヴォルはぼんやりした様子のロンをみると思いっきり頭を叩いた。
「痛っ!!!え?あれ?え?」
「インペリオだ。ロンが呪いやら何やらに弱いの忘れていた。嫌な予感がしたことからヴォルデモート時代のはほぼ省略し、ほとんどハリーの記憶だからそこまでのダメージではないが……」
きょとんとした余裕で周囲を見渡すロンにヴォルは再び大きく息を吐き、ほとんどハリーに関するのろけだという。まさかロンがやられるとは、と驚くハリーだがヴォルの言葉に顔を赤らめ、すごく恥ずかしんだけど、と頬をかいた。
あなたって本当に、とハーマイオニーに詰められるロンは小さく縮こまり、ハリーとヴォルは口をはさむ間がないとそれを見守る。すっかりぺしょぺしょになったロンに追撃することができず、鼻息も荒く特訓よと息巻いているハーマイオニーに死なない程度にという言葉をかけるしかできなかった。
「ヴォルなら追撃するかと思った」
「以前の俺様なら磔か死かどちらかだろう。今回は俺も油断していたことだ。それにハリー。これで一生ロンはハーマイオニーに頭が上がらなくなった。今後、あの二人の痴話げんかも減ることになるだろう」
意外、というハリーにヴォルは微笑むと上下関係がはっきりするといろいろと楽だ、と一人満足げに頷いている。そういうものなのかな、と思うもそっか、と何となく自分とヴォルの関係を見てちょっと違うけれども僕がヴォルの手綱にぎっていると上機嫌になる。
「ロンはちょっと頼りないナイトだがな」
ハリーの考えていることが伝わり、ヴォルはニヤリと笑う。僕のナイトより強いナイトはいないからね、とハリーは笑い返した。当然だ、とハリーを抱き寄せて口づけるヴォルに、怒りのボルテージを下げたハーマイオニーとロンは砂糖を吐き出したいような顔で顔を見合わせ、先行きましょう、と歩き出す。
おいていくわよ二人とも、と廊下の角を曲がるところで声をかけ、はっとなったハリーが慌てて走り出し、ヴォルはちらりと梟が飛んでいった空を見る。あんなものどうする気なのだろうか、と首をかしげてハリーを余裕で追い抜いていく。
その晩の大広間ではムーディがやけに上機嫌だが、ヴォルから情報を受けていたスネイプはどこか憐れむような目を向ける。あの調子では大半がハリーに対する記憶だというのは確認していないのだろう。
ということはヴォルデモートの記憶にある何かが必要なのではなく、“ヴォルデモートの記憶”そのものが必要だったのだろう。だが、そんなものどうするというのか。
まったくわからん、と首をかしげるスネイプは目前に迫った第3の課題に向け、何か見落としはないかと思考を巡らせる。なにか、とてつもなく馬鹿げたことが起きそうな、そんな気がしてやはりホグワーツから離れてしまおうか、と遠いい目をし……視界の端にマクゴナガルを映した。なにか、と振り向くとにこりと微笑まれる。
“逃がしませんよ、セブルス”
そういわれた気がして思わず天を仰ぐ。来年からはルーピンが来るという事はあのバカ犬も近くに来る可能性が大きい。精神的なリラックス方法を探すべきか、とスネイプは大きく息を吐いた。
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