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翌日以降の闇の魔術に対する防衛術の授業はどこかピリピリとしていて、ヴォルは注意深くそれを観察する。あの第2の課題でヴォルが人質に選ばれなかったことが、それほど計画に響いているのか。それとも何か別のことか。
「それにしても……ヒントはハリーが聞いた予言……が正しければそれしかないのよね」
課題を片そうと図書館で机を囲んでいるとハーマイオニーは何がしたいのかしら、と首を傾げた。ヴォルはとっくに終えていたため、ハリーの課題をのぞき込み、誤字を指摘する。
「俺様の魂を集めているというのはわかるが……」
それをどうするというのだ、とヴォルは首をかしげて虫よけの香をつつく。ハリーを害そうとしているのではなく、それに付随するヴォルを狙っているのか。
「分霊箱を元に戻す方法ってあるの?」
集めるという事はそこからヴォルデモートを作ることができのか、そう問いかけるハリーに戻す方法はあるにはあるが……と珍しくヴォルは口を濁す。ん?と首をかしげるハリーにため息をこぼし、やるはずがないという。
「戻す方法は良心の呵責らしい。かつての俺様にそんな心はないし、あってあの所業ならやるはずがない」
誰よりも俺がよくわかっている、と言い放つヴォルに3人はあー、とそろって納得し、ますますわからないわねという。本当に反省しているのであれば……もう少し悪びれていてもいいはずが、ハリーが許していることもあって本当に反省しているのか?と疑問に思うこともしばしばだ。
「器を壊せば分霊箱の中の魂も同時に壊れるといわれている。したがって……その器ごとどうにかするか、あるいは日記の様に外部からの供給を受けて実体化を果たすか……。とはいえやはり器が重要のはずだ」
詳しくは思い出せないが、というヴォルはどこで分霊箱についての知識を得たのだったか、と思い出そうとするがぴんと来ない。うーんと唸っているとポンという音ともにドビーがやってきた。
第2の課題が終わったその日の晩、約束通りドビーが談話室にやってきた。誰かのペットに影響があったらと虫よけの香を焚いていないが、ハリーは地図を真ん中に置き、自分ら以外の名前がないかを常に監視し、ドビーにこれまでの経緯を訪ねた。
クラウチ家に仕えていた屋敷しもべ妖精ウィンキーはあの後、クラウチ家への財産の押収として一時期魔法省に拘束され……クラウチの指示のもと自分が知っていることをすべて語ったという。そのあと、ウィンキーは一時期アズカバンに入れられ、そして服を渡されて路頭に迷っていたらしい。それを聞いたハーマイオニーはなんてことと憤慨し、さぁ続けてと前のめりになって話を聞いた。
たまたまドビーと出会い……ドビーは名案だと思いついてホグワーツにウィンキーと共に来たらしい。彼女は今ひどく落ち込んでいて、バタービールの飲み過ぎによるアルコール依存症だという。
「ならばドビー、そのウィンキーをムーディの部屋担当にした方がいい。勝手な掃除は嫌がるだろうが、彼女としても仕事をしなければ周囲の屋敷しもべ妖精らの眼があるだろう。おそらくは屋敷しもべ妖精の掃除を遠慮しているか拒否しているかしているはずだ。ちがうか?」
ヴォルのどこか楽しげでいて、支配者のような尊大な様子にハーマイオニーは眉を顰めるがすぐに意図をくみ取って信じられない、と首を振る。ハリーもヴォルと同じことを思いついていたため、それがいいよ、と後押しをする。
「ムーディはきっと姿が見えないことに対してはすごく嫌がるだろうか……掃除するときは必ず姿を現したほうがいいと思うよ。本来は嫌だろうけど……あのムーディに対しては隠れる方が無礼だからね」
ぐいぐいと押しだすハリーにハーマイオニーとロンは視線を交わえ……偽ムーディに対してどこか同情の念を浮かべた。ドビーは二人の思惑などつゆ知らず、それは名案ですと頷いた。
これで彼女がどこか上の空であっても、他の屋敷しもべ妖精らには見えないところかつ、彼女も彼女で仕事しているというていが守られる。早速そのようにいたしましょう、とドビーは大きな目を更にキラキラとさせる。違うんだ、その二人は偽ムーディに対し、かつてお坊ちゃまと呼んでいた屋敷しもべ妖精を傍に置くことで、ただただストレスを与えたいだけなんだ、とロンは本当に似てきたなー、と英雄と闇の帝王を見る。
もう魔法界はいろいろな意味でだめかもしれない、とため息をついた。
その後、ドビーには極秘だというミッションを与えて跳ねまわるドビーとはそこで別れた。その結果報告だろうと現れたドビーを見ればまさにその通りで、トランクの一つに彼が入るのを目撃したという。
「粥をもって入っていった教授は空の器と、何かを握って出てきておりました。ただ、鍵は彼が所有しておりまして、開ける手段はそれしかないとドビーは感じました」
ウィンキーを送ることで屋敷しもべ妖精に対する警戒を少し緩めさせ……ウィンキーの代わりにドビーが赴き、そして決定的な瞬間を見たのだ。ヴォルの作戦通りに行ったことに対し、ハリーはさすがヴォルと関心の眼を輝かせ……闇の帝王の手口を垣間見た二人は本当にハリーがいてくれてよかったと最近見え隠れする闇の気配に頷きあう。
「一応このことはダンブルドアにも報告を。後は奴が誰かと通信しているさまでも見られればいいのだが……」
何をたくらんでいるのか、それが分からない以上まだ手出しはできない。ドビーもまだ探るというが、もしかしたら部屋以外で何かを行っているのかもしれない。無理しないでね、というハリーにドビーは感激し、それではと消える。
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