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 1分オーバーのセドリックに並ぶ得点となり、フラーとクラム、それにセドリックは改めてハリーを見つめ、3人で目配せをして笑いあう。鰓昆布という手段を使用したが、彼自身の力で得点を伸ばすハリーの実力に、さすが闇の帝王を抑えるだけはあると。

 相も変わらずどこでもいちゃつくハリーと闇の帝王。そして今回ばかりは役に立ったムーディ。体調不良が治ったのか、どこか残念な目をムーディに向けるクラウチ氏。6月に行われる最後の課題に何が起きるのか、とスネイプはため息を吐き、なんで今日は犬の儘なのかと嘆くシリウスを遠くに見る。

 最近、どこかに出かけたというダンブルドアが異様なまでに機嫌がいいのと、先日の新聞でファッジが胃潰瘍でしばし休暇を取とることになったことが繋がっている気がしてならない。絶対何かやったな、と長年培われてきた勘が警鐘を鳴らしている。
 
 来年、辞表を出してここから出てしまおうか。そう考えるスネイプだが、いつから見ていたのか。逃がさぬ、とにたりと笑う悪童の眼に休職しなければならないほどの病気にでもかからないだろうか、と真剣に考え始める。そんなスネイプを今度は咎めるようにマクゴナガルが見て……誰も味方はいないのか、と天を仰いだ。


 5月まで第3の課題は伏せられるという事で……ちらりと5人はクィディッチ競技場に視線を向けた。一年間使えないことになっているクィディッチ競技場。まだ解禁されていないことと、今回使わなかったことからここを使うんだろうな、と選手とヴォルは過去の課題を思い浮かべた。
 しゅるりと蛇になったヴォルを連れて、代表選手は一度こちらへと言われるがままに設置されたテントへと向かう。きついほどに虫よけの煙が焚かれていることからさぞあの記者は悔しがっていることだろう。

 クラウチ氏、バグマン、トンクスとスネイプ、マクゴナガルに3人の校長と犬。それだけが集められた中にヴォルが素早く変身を解く。ダンブルドアはまだ喋ってはならぬと手を上げ……スネイプに目配せをする。

「マフリアート」
 スネイプが唱えるとダンブルドアはその手を下し、いよいよじゃ、と口を開いた。

「ハリー、鰓昆布はどのようにして用意したのか、聞いてもいいじゃろうか」
 確認をせねば、というダンブルドアにハリーは頷き、図書館での経緯を話す。ドビーが来て渡したこと。彼によれば、人質に選ばれたヴォルが自分では渡せないからとムーディに託し……そこからドビーに渡ったという。

「ドビーを雇ってくださってありがとうございます」
「彼の自由な行動が今後の屋敷しもべ妖精に対する認識と、彼らの考えを変えるかもしれぬと、そうおもったのまでじゃ」
 ニコニコと微笑むハリーにダンブルドアも茶目っ気のある眼差しで答え……スネイプへと視線を移す。スネイプは察しの通り、先日ポリジュースの材料が盗まれたと同時に鰓昆布が一つなくなったことを認めた。

「今回の試練は自分が一番大切に思う人を助ける、でしたよね。ヴォルが外れたのは……」
 やはり無防備にさせるわけにいかなかったというわけでもないだろう、ということとドビーの言う通りなのかもしれない。そう思って尋ねればダンブルドアはその通りと頷く。

「ドビーが言う通り、君たちは互いが互いの命そのものじゃ。そしてこの大会において命そのものを差し出せとすることはできない。よって、命の次に大切な人である親友が選ばれたというわけじゃ。もっとも、同列のハーマイオニー=グレンジャーは他の選手の人質に選ばれたがため、ロナルド=ウィーズリーが呼び出されたのじゃ」

 そう言い切るダンブルドアにハリーはほっとして……ぐいっと向けられるがままにヴォルの少し荒々しいともいえる口付けを受ける。本当にこいつらは、と杖を振って犬……シリウスを地面に叩きつけたスネイプは大きくため息を吐いた。


 最初こそ眉をひそめていたフラーたちだが、もう慣れたもので動物同士の求愛行動を見たような目で見て、第3の課題をどうするのかと問いかける。

「詳しいことは規定の通り一か月前の告知となるが……試験をずらすこととする。6月24日が本来の日ではあるが……5月24日に行うと、そう宣告することとなった」
 もちろん、例外を作ることはないとクラウチは続ける。それをバグマンが引き継ぎ、クラムとフラー、セドリックに袋を差し出した。

「4月24日にミスターセルパンとミスターポッター、君たちだけに試練を言い渡す。その間3人は一時的に別室に行ってもらうことになった」
 これで規定は守られる、というバグマンに3人はすぐにわかって髪を引き抜き、袋にそれぞれ入れる。すっかり弱腰になっているカルカロフを無視したクラムが自分が最も信用できて、最も優れていると思う男子生徒を候補にあげます、と申し出る。マダム・マクシームも同様に女子生徒から選ぶといって……セドリックになりすます予定のヴォルを見た。

「告知日はハリーがセドリックに、俺がハリーになろう。そのうえで、極秘として課題テストに選ばれた中身が異なる生徒として顔合わせを行えば……怪しまれることはないだろう。そして当日はその二人と俺とハリーで執り行うという事だな」
 その方が誤魔化しやすい、というヴォルにダンブルドアは頷き……もうポリジュースはたくさんだ、と半ばキレているスネイプを見る。

「セブルス、材料はこちらで用意しよう。だから彼が盗む分については手を付けぬよう」
 ニコニコと微笑むダンブルドアにスネイプは何も言えず……噴き出したヴォルを睨みつけた。珍しく笑っている、とセドリックが見ているとヴォルはくつくつと邪悪さをはらんだ笑い声をあげる。

「あー……多分……盗まれていることに気が付きながらも首を傾げつつせっせせっせと材料を補充している……まぬけな教員と思われているのかと思うと嗤えてしょうがない、っていう事だと思います。僕の感想じゃないですよ!ヴォルの代弁です!!」
 僕がそう思っているわけじゃない、とハリーは怒りの形相になったスネイプに怒ったように言い、ヴォルが肯定するようにハリーを抱きしめる。魂の双子とはよく言うが、この二人の場合双子どころじゃない気がする、とマクゴナガルはため息をついて今回の計画を思い浮かべた。

 予想通りハリーが課題をクリアするために必要なサポートをムーディは行っている。ということはやはり狙いはハリーなのだ。だがその狙いは何なのか。不気味なほど沈黙している闇の勢力に心配は尽きない。
 ここに代表選手とその関係者以外がいてはムーディとスキーターに怪しまれるかもしれない、と先に出されたハリー達は各々の居場所にむかい、城に入ったところでヴォルも元に戻る。

「なんだか本当に大変なことになったね」
 疲れた、とヴォルに寄りかかるハリーにセドリックは笑い、ヴォルがお疲れさまと横抱きに抱き上げた。恥ずかしい、と慌てるハリーだが、ヴォルが宥めるように抱きしめている手でリズムをとるとそのままうとうととし始め、眠りに落ちていく。

「本当に君たちは何というか」
 仲良しで済ませていいのかな、とセドリックはハリーを抱え直すヴォルに少し呆れたようにつぶやき、さぁなと返してどこぞに飛んでいくヴォルを見送った。
 
 




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