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 鰓昆布の時間は1時間ジャストという事もあり、開始の音ともにハリーはそれを飲み込み、水の中へと潜っていく。首元がちりちりと痛んだため手を置いてみれば鰓ができている。いざとなったら泡頭呪文、と準備しながら思い切って口を開いて水を飲む。

 飲み込んだ水が首元から吐き出され……手足にも鰓ができたのを確認してハリーは泳ぎだした。ヴォルと特訓したおかげもあって面白いぐらいにぐいぐいと進む。耳を澄ませば歌声が聞こえてきて、その音を頼りに進んでいく。途中、グリンデローの生息地があり、ハリーは杖を振って強引に突破していく。それにしても数が多い、とレラシオを唱えて弱った隙にさらに奥へと潜る。

「この課題なら見られると思って来たら本当に見られたわ」
 突然声が聞こえて振り向くと半透明のマートルがふわふわと漂っていた。え、もしかしてホグワーツの下水……と考えるハリーにマートルはけらけらと笑い、汚水とは別の下水から来たのよ、とハリーの思考を見透かすように答える。

「あたしだってちゃんと選んで通っているのよ。それに、あなた達が通って行ったあの大きなパイプ。あんな感じのもあるの」
 それぐらい考えているわよ、と笑うマートルにそういえば蛇口から出てきたこともあったんだ、とハリーは思い出し……そうだねと喋れないために笑って頷く。もうすぐあいつらの住処よ、と手を振るマートルと別れ、歌の方へと進んでいく。


 だんだんと追ってきたり潜んでいたりするグリンデローの数も減り、代わりに銛を持った人影が見えてきた。一般的な人魚なんてものとは程遠い外見の彼らがマーピープルというものなのだろう、とハリーはそれに近づいていった。昔、マグルの学校で見た半魚人のマスコットを思い出し、人魚じゃなくてそれだ、と尾びれを動かすかられを見る。
 じろじろ見るのは失礼と思いながら、向こうにとっても足が分かれていて、灰色っぽくない肌をした自分らを珍し気にみる視線もあり、お互いの姿を見つめあう。やがて歌の中に半分の時が過ぎた、というフレーズが聞こえてハリーは大きく手足を動かした。

 見えてきたのは棒のようなものに縛られてぐったりとする4人の人影だった。ロン、ハーマイオニー、チョウ、見知らぬ幼い少女。フラーにとって大切なのはこの少女……風貌からきっと妹だろう。それがなんだかつんと澄ましている彼女がかわいらしいと思えてハリーはロンの縄を持ってきたナイフで切り離した。

 もう水面に戻ればいいのだが、あまりにも皆が遅すぎるのが気になり、ハリーは早く行けというマーピープルを無視してじっと来た道を見る。そこにセドリックが泡頭呪文を使ってやってきた。待っているハリーに気が付くも青白い顔のチョウを見て、縄を切ると上がっていく。せっつくマーピープルではあるがハリーとしては女の子をここに残るのも、とロンを抱えながら考える。

 そこにやってきたのは頭がサメになっている……おそらくはクラムだ。先に来てまごまごしているハリーに気が付いた様子だが、ハーマイオニーを見て急いで近づき……杖を取り出すもサメの頭ではよく見えないらしい。さっと近づくハリーがナイフを渡すと、クラムはそれを受けとり、何とか縄を切る。
 
 ここにいても邪魔だと考えたのか、ハーマイオニーを抱えて浮上していく。ちらりとロンを見るハリーだが、大丈夫だよね、と再び顔を向ける。


 フラーが来ない。いくらなんでも遅すぎる、とちらりと防水を施した腕時計を見た。やはりもう時間がない。素早くフラーの妹に近づき、一息に縄を切ると自分の人質だけつれて行けと、銛が突き出された。
 言ってしまうと自分の勝敗はあまり興味がなく、今回は結局偽ムーディの力を借りてしまった分ここに最初に来ただけでハリーは満足だった。だから待っていたのだが、ここに少女一人を置いていくなんてとんでもないことだ。
 杖をマーピープルに向けて威嚇しながらロンと少女を抱えて浮上していく。息が苦しい、と鰓昆布の効果がきれてきたことを実感し……泡頭呪文を使って残りの距離を泳ぎ切り……。
 ぷはっと顔を出せばロンと少女にかけられた魔法も解除されたのか、目を覚ましてロンと少女が驚いたように顔を見合わせた。

「フラーがなかなか来なくて。さぁロン、彼女を連れて戻るの手伝って」
「君まさか歌を真に受けて、英雄気取りで待っていたわけじゃないよな」
 わかったよと言いながら信じられないぜ、というロンにヴォルと見た過去の死因、君見たことあるかい?とハリーは顔をしかめて寒さで震える少女を連れてスタート地点へと向かう。ここまでの距離泳ぎ終わったならボートぐらい出してくれればいいのに、と顔をしかめるハリーにヴォルの悪い教育が出ている、とロンは茶化すのをやめて少女を助けて泳いでいった。
 戻ってきたロンを見たムーディはどこか舌打ちをしようなそんな顔をし……あと少しというところで3人まとめて水から浮き上がったことに目を丸くした。ふわふわと引き寄せられる間にびしょびしょだった3人の服は乾いていき……ガブリエール!と人を押しのけて進み出てきたフラーが飛んできた少女を抱きしめた。

 ほら、あの歌を信じた人他にもいたじゃないか、とロンを見るハリーに、ロンは悪かったよと肩をすくめ……ありがとうと抱きしめてきたフラーに目を丸くする。ハリーまでも抱きしめられ頬にキスを受けると、どこからかピリピリとした視線が飛んできた。
 これは間違いなく相方だ、とハリーが思うと同時に後ろから抱きしめられ、思わず笑いをこぼす。ただいまヴォル、と体をひねって頬に口付ければピリピリはすぐに離散し、心配したぞとハリーの唇を覆う。
 グリンデローの猛攻に負けてしまったらしいフラーは妹を助けに行けなかったことが本当に怖かったらしく、妹を何度も抱きしめ、ここにいるというのを確かめるようにこめかみや頬に絶え間なくキスを落とす。
 まぁ確かにどんなに魔法がかけられているとはいえ、タイミング悪く魔法が解けてしまったりでもしたら、と考えたロンはキスされた頬を軽く押さえて頷いた。

 マーピープルとダンブルドアが悲鳴のような声で会話しているのが聞こえ、ヴォルは呆れたようにため息を吐き……そんな優しいハリーだからこそ、俺様は今ここにいる、とハリーを抱きしめて再び唇を奪った。

「ヴォル、あの言葉わかるの?」
「喋りたくはないが一応は。ただ、奴らは一定の場所にしかいないのと、そもそも水の中にいる奴らは戦力にならんだろう、と全くの無駄になっていた」
 あの言語は水の中だと喋りづらいし、地上だと喉に来る、とため息交じりにこたえるヴォルにハリーは笑ってそうだ、と耳元に顔を寄せる。

『ホグワーツの屋敷しもべ妖精にドビーがいたよ。今回の鰓昆布もムーディがヴォルから託されたと、そういって渡されたって。今夜談話室に来るよう言ったからいいスパイになると思うよ』
 耳元でパーセルタングを使うハリーにヴォルはニヤリと笑い、それはいい人材だ、と頷いた。男同時でイチャイチャする二人をフラーの妹ガブリエルは不思議そうに見て、姉を見上げる。さぁね、と肩をすくめるフラーは妹の無事を確かめて、どの男性陣にも見せない自然な笑みを浮かべた。
 マーピープルの女長がハリーがどうして遅れたのか、それを語ったらしく協議の末得点がでたとバグマンが拡張した声を張り上げた。

「水の中でぐったりした人を見れば、魔法がかかっていたって聞いても放っておけないよ。僕は一時間きっかり時間があったから……」
 僕は置いていくことなんてできない、というハリーに半ば呆れた風のロンとハーマイオニーだが、ハリーらしいわね、とヴォルに撫でられるハリーを見る。こんな彼だからこそ、闇の帝王はこうなったのだろう。
 
 




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