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「必要の部屋ってこんなに便利なのね」
 これなら特訓大丈夫そう、というのはハーマイオニーだ。先日の夜、ヴォルに必要の部屋に連れてこられたハリーだが、ハッとしたように顔を上げてここだよと声を上げたのだった。すぐに納得したヴォルと共に本や巨大な水槽を確認し……ぽんと出てきた寝台に連れ込まれた。
 水槽とそれにともなう図鑑や本などを興味深げに見るロンは食べ物は出てこないのか、とがっかりする。

「そこらへんは魔法でも出てこないのと同じく、食べ物に関してはだめらしい。ただ、水などに関してはどういうわけか無限だ。とりあえず……ハーマイオニーとロンは何か使えそうな魔法などを探してほしい。ハリーは俺と泡頭の魔法の特訓と水中での移動の練習をしよう」

 食べ物はまた後で考えるとして、とヴォルの指示に任せてとハーマイオニーとロンは頷く。僕の課題なのになんかごめんね、というハリーだがうらやましがっていたロンはまっさきに首を振った。

「こんな無茶苦茶な代表選手に選ばれたハリーの助けになるなら、ちっとも苦じゃないよ!それに、第1の課題ではその……手伝えなかったから、今度こそ助けになりたいんだ」
 ぜひ手伝わせて、というロンにハーマイオニーは嬉しそうに笑い、さぁ探しましょうと本棚に向かい合った。ヴォルはハリーと共に水槽に入り、泡頭の呪文を教える。

「呪文自体はそう難しくないだろうけど、常に呼吸できるように空気が変わらなければやがて呼吸ができなくなる。無意識下でも問題なく呼吸ができる様に新鮮な空気が来るようにしなければならない。そのために習得に時間がかかる、と言われている」
 使えるようになればとても便利なんだが、というヴォルにハリーは頷き、特訓が始まった。


 魔法の習得の合間にヴォルが泡頭を唱えて、ハリーは泳ぐ練習を行う。ヴォルの魔法によって水の流れが生まれ、水槽の中を泳ぐことができる。1時間泳ぎ続けるというのはさすがに難しく、ハリーはすっかりばててしまい、ぐったりとソファーにもたれていた。

「うーん、グリンデローにはレラシオがいいみたい。あ!そういえば去年の授業で指が脆いってルーピン先生が言っていたやつだ!」
「呼吸に関してはやっぱり泡頭が一番いいみたいね。何か他の方法で水に潜れないか探ってみたほうがいいかもしれないわね。泡頭の呪文は便利だそうだから練習するのはとてもいいことだけど」
 試験で勉強したかいがあった!と喜ぶロンにハーマイオニーは頷きながら微笑み、魔法を自由に使える様に何かいい方法はないかしらという。さすがにヴォルが魔法をかけるわけにもいかず、何か別の方法か、と4人で頭を悩ませた。

「魔法薬……は難しいな。あるにはあるが、1時間で戻れるのかというのと、魔法薬の場合水で呼吸は可能でもそのあとすぐ解除しなければ危険な風に融通が利かないことが多い。それに、熟成期間がかかるなどいろいろ問題がある。作るなら今すぐに作りたいが、そもそも材料がな……。セブ……スネイプに作らせるのはさすがにまずいだろう。偽物に勘付かれかねない」

 何か思い当たったのか唸るヴォルだが、やめた方がいいだろうと首を振る。それもそうだと頷くハリーはじっとヴォルを見つめた。どしたハリー、と抱き寄せるヴォルの動きは自然で、もはやハーマイオニーらは何も突っ込まない。

「前も少し話していたけど、ヴォルって基本名前で呼ぶよね。名字で呼ぶのはダンブルドア校長ぐらいで。ちょっと気になったんだけど、クラウチJr.はなんて呼んでいたんだろうって」
 ほかに苗字呼び、と考えてかつての時代のしもべらを呼ぶ時を思い浮かべる。ヴォルもまたそういえばそうだなと考え……俺様より上の世代は苗字だな、という。

「例えばグリンデルバルドはゲラートというのが名前だったはずだ。あとはあの時代について調べた際にスキャマンダーという学者だとか……やはり上の世代は苗字だな。あとはオリオン=ブラックが確か3学年ほど下にいたことと、マルフォイの一族がちょうど間で……アブラクサス=マルフォイとは10年ほど離れていたと記憶している」

 基本的に年上には苗字で読んでいた、というヴォルになるほど、と3人は頷き……マグル出身のハーマイオニーとハリーは死喰い人って言っても結局学校のサークルみたいなものだったのね、と視線でやり取りする。
 世界を震撼し、恐怖に陥れた一団の認識としてはかなりのマイルドすぎるものだが、そのサークル主ともいえる頭がこれだもの、とハリーを抱きかかえたヴォルを見た。やったことなどが全く持って迷惑極まりないことではあるが、現在は隙あらばハリーの体に巻き付き自分の証を刻む蛇でしかない。

「何と呼んでいたか……。あれも俺と同じく父親の名前を付けられるという不愉快極まりなく、個別の名前を考えるのを放棄した怠惰の証であることから嫌っていたな。バーティだったとは思うぞ。屋敷しもべ妖精がそう呼んでいたとかで」
 ベラと同じく愛称で呼んでいた気がする、とヴォルは思い出し、そうだそうだと一人納得して……にやりと笑う。あ、これは偽ムーディをいじめるネタを思いついたな、と直感し……ほっておくことにする。


 そうこうしているうちに日は経ち、練習するハリーに並行して他の方法を探るもなかなかいい案は見つからない。泡頭は30分は維持できるようにはなったが、他の魔法を放ちすぎると切れてしまう。少しでも早く泳いで振り切るしかないかもしれない、と最近のハリー達は泳ぎ方の指南書を読んでた。

「ネビルが見せてくれた薬草学にあったのが一番有力候補かな」
 ぐったりとするロンにハーマイオニーもそうね、と図鑑を呼び寄せて開く。そこには鰓昆布という水の中での行動が可能になる薬草が記載されていた。スネイプのところにあるにはあるんだがな、というヴォルに昆布なんて食べられるのか、と顔をしかめるロン。これなら一時間は有効なのよね、というハーマイオニーに少し考えるハリー。

「ねぇヴォル。このまま泳ぐ練習はしておいて……完全にお手上げ状態っていう風を装っていたら何か動きがあるんじゃないかな。第2の課題クリアできないことには仕方ないんだし」
 ここ最近動きのない偽ムーディを動かすために、わざとそう振る舞うのはどうだろう、とハリーが提案をする。えぇ!と驚くロンとハーマイオニーだが、珍しくヴォルがそれも手かもしれない、とハリーの提案を視野に入れる様子を見せた。

「正直このまま放置でもいいが、動きがなさすぎる。クラウチJr.らが何を目的としているのかがいまだにわからないのが気持ち悪い」
 ハリーを囮にすることになった元凶らただじゃすまない、と怒りの炎をゆらりと目の奥に立ち昇らせるヴォルにハリーも僕も気味が悪くて、という。当事者となる二人の意見にハーマイオニーもそうよね、といいロンも何がしたいのかと腕を組んだ。

「ヴォルにも言われたけど、こういう魔法は練度が大事だから、今から頑張っても仕方がないんだって。本当は僕の力を試したいけど……」
「こういう持久力を求められる系はどうしようもない。あとはあれがどうにか出しゃばってくるだろう」
 こればかりは仕方がない、というヴォルにハリーは少し浮かない顔で頷く。それに対し、にやりと笑うヴォルは蛇語で何かをハリーに告げ……顔を真っ赤にしたハリーがそれじゃない!と怒ったように言い……。なんとなく何を言ったか察したロンはすっかり慣れた様子で二人を置いて、片していた課題を仕上げた。

 
 




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