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透明マントを着て、ハリーを案内するヴォルは左右反対に手袋をした魔法使いの絵の前に行き、パイン・フレッシュと合言葉をのべた。パカリと開いた扉にハリーは物珍し気に見回して……ヴォルと共に服を脱いで入っていく。
中に入ればその広さと豪華さに驚き、備え付けの蛇口をひねってみる。すると泡が大量に出てきて、ハリーはただひたすらに驚くしかない。
「無駄に豪華だよな」
監督生になったからのご褒美にしては行きすぎだ、と呆れるヴォルは元々孤児院にいたというだけはあって、感覚はハリーに近いらしい。ごほうびにこんな豪華なお風呂があります!と言われても、正直嬉しくはない。
「さぁハリー。卵をもって一緒に潜るんだ」
呼吸は俺が魔法をかける、とヴォルが促しハリーは卵をもってお湯の中へと潜った。顔の周りに泡のようなものができ、それのおかげか呼吸ができる。
「そのまま開ければわかるはずだ」
さぁと促されてハリーが卵を開くとあの時聞こえたような叫びではなく、歌声が聞こえ始めた。じっと聞いてその意味を考える。歌が聞こえる場所というからには水の中だということ。これはヴォルと一緒に過去のを調べた時にホグワーツ限定らしいが過去にもあった課題だ。
制限時間は一時間。そのあいだでマーピープルを探し、何かを返してもらわねばならないという。
「水の中を一時間……。ヴォル、この魔法僕覚えられるかな」
卵を入れたまま顔を水面から出て、ヴォルにあの泡のような魔法と問いかける。それに対しヴォルはどうかな、と珍しく難しい顔をした。
「覚えること自体は可能だろう。だけど、おそらくは泳ぎながらそれを維持し続けなければならない。それに、あそこにはグリンデローもいるはずだ。この泡頭の魔法を一時間維持しつつ泳いでなおかつ魔法でグリンデローを撃退する……。はっきり言ってハリーには難しいだろう」
この課題だけはこないで欲しい、と思ったがとヴォルはどうするべきかと腕を組んだ。ヴォルに指摘され、少なくとも2つの魔法を同時に扱う必要があることと、慣れない水泳にハリーはがくりと落ち込んだ。一応それを練習しながら他の方法を探そう、と言ってもう一度確認するために潜ろうと促した。
4回は繰り返し聞いた後、これ以上はのぼせる、と水面から顔を出し……ハリーは驚いて転びかけ、ヴォルが抱き留める。
「あらー。やっぱりみたことあるとおもった!あなた、トム=リドルかその息子でしょ!」
前にトイレで会った時からずっと考えていたの、というマートルはヴォルに抱き留められたハリーと、うんざりした顔のヴォルを見てふわふわ漂いながら一人頷く。あぁやっぱり来た、とため息を吐くヴォルの様子から、彼女がヴォルの言う覗きの常習犯、とハリーは納得した。
「んー。でもその反応からして、リドルでしょ。なんでまだその年齢か……あら、前より若い気がするわ」
やっぱり、とマートルは不思議そうな顔をしつつ、にやにやと笑いながらやっぱりあんたってハンサムなのよねー、とトム=リドルの顔を懐かしむ。でも色が違う気がするのよねーと言っているあたり確信はないらしい。
「監督生らが入っているときに覗いているんだこの女は」
「失礼ね!ちゃんと見ないようにはしているわよ?偶然目に入るだけで」
キャハハハ、と笑うマートルに対し、俺様の失態ではあるが、と小声になるヴォルにハリーはため息しか出ない。いまだ抱きしめているヴォルと、抱きかかえられているハリーを見たマートルはははん?といってまた笑う。
「そういう関係なのね。ばっちり首の後ろに印があるじゃない」
ほらここ、と幽霊の冷たい手で首の後ろをつつく。その冷たさと、何より印という言葉に顔を赤くし、ひゃぁと浴室に声を響かせ、ヴォルに縋り付いた。
「んもう、こんなところでいちゃついて」
こんなにいちゃつくカップル、なかなか見ないのよ?と楽しんでいる様子にヴォルはただため息しか出ず、出るからあっちを向け、と睨みつけた。ハリーを抱えたまま湯から上がり、シャワーで泡を流してハリーと自分の水を飛ばす。さらに服を呼び寄せてさっと着替えを済ませた。
「あーあ。ざんねーん」
ふーん、とマートルは蛇口の中へと消えていく。あぁもうびっくりした、とほっと息を吐くハリーにヴォルも心なしかぐったりしている。透明マントを羽織り、寮に戻ろうと階段を並んで歩く。
「あれが出るのを知ってから使っていなかった。監督生になってこの豪華さに辟易してはいたが、寮のシャワーを使えばうっとおしがられるのが分かっていたからしばらく使っていたんだが……。そこであれが出てきてな……。それからは消灯後に寮のシャワーだ」
さすがに俺様とてそこまで図太くはない、と締めくくるヴォルにハリーは小さく笑いをこぼす。
「じゃあ……僕だけがヴォルの裸を毎日みているんだね」
そう呟いて……ハリーは自分の失言にはっと顔を赤らめた。ついでにこの後のことを想像して内心焦る。はたと立ち止まったヴォルに慌てるも、そのまま必要の部屋へとヴォルはハリーを連れて飛んでいく。
透明マントで姿を消しつつ飛んでいく二人を、ちょうど魔法薬の材料を手にしたムーディが魔法の眼でそれを見て……思わずバイコーンの角を落とした。カランとなるにハッとしてそれを拾い上げ……何の音だとやってきたフィルチをごまかした。
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