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肌艶よく上機嫌なヴォルと、肌艶はいいものの顔を赤くしたハリーが並んでいる姿に、昨晩の二人を見ていた生徒は訳知り顔で頷く。ロンとハーマイオニーは何やら恥ずかしがってしまい、目をそらしあった。そこに梟便の時間となって日刊予言者新聞が降ってきて……えぇ!?という声が上がる。
「あぁ、そうだ。ルビウスの半巨人のことすっかり忘れていた」
あぁそれか、というヴォルに新聞に目を通していたハーマイオニーはなんてこと、と息をのみ、かたくなに視線を合わせようとしていなかったロンと顔を見合わせた。ロンも驚いており、何があったんだい?とヴォルとハリーを見る。
「昨日の晩、外であのボーバトン校の校長を口説いていたルビウスが自分の種族をうっかり漏らしたんだ。フランスがどういう国柄なのかは正直知らない。あのフラーという女子生徒がウィーラの祖母を持つというのであれば、混血等は比較的おおらかなのか、それとも偏見はある中でそういった恋愛がある気質なのか。もっとも、フリットウィックのように小鬼の血が入っている者も一応いるにはいる。かつての小鬼の反乱などを思えば、完全に友好的に思われているか否かは不明だ。だがいつの時代でも巨人だけはダメなんだ」
あのマダムが校長にまで登れたのはイギリスよりはましなのかもしれないが、というヴォルにハリーはポカンとして、ハーマイオニーを見る。彼女は本で巨人のことを知ってはいるが、どういうものかの生の声は知らない。それゆえに二人そろってロンを見た。
「あー……。巨人はその、狂暴なんだ。とにかく喧嘩や暴力が好きで、闇に所属していた」
「そういうのが得意な配下を送り、俺様の支配下に置いたのだ。だから余計に巨人はイギリスでは特に嫌悪される。学校にそんなのがいたとあっては……」
巨人はとにかく危険なものなんだ、というロンにヴォルは頷き、かつて支配下に置いていたという。そうそう、と頷くロンにハーマイオニーはまじまじとヴォルを見た。
「割と今更な気がしてきたわ」
来年には人狼症の教員が入ることは確定していて、スクイブの人も働いており、ケンタウルスらもいる。かつては三つ首のフラッフィーなどもいて……今さらどうとも思わないかもしれない、とハーマイオニーは新聞を投げ出した。
ハリーが周囲を見ればむしろあれで普通の魔法使いだったらそれの方が驚き、という声や、どおりで危険な魔法生物連れてくるわけだ、とか……。でしょうね、という声が上がっていて、予想と違う反応にロンとハリーそしてヴォルの3人は顔を見合わせた。
去年……いや、一応今年の話だ。そこでヴォルが言っていた、恐れるぐらいなら学べと言う言葉を思い出したらしい生徒はむしろどこの血も入っていない方が怖いわ、という声とともに新聞がめくられ、興味がもてそうな記事を探す。
騒ぐのは本人や外部の魔法使いらくらいで、年々変なのが出ているために生徒らの適応能力は類を見ないほどに上がっている、とヴォルはくつくつと笑う。それを見たほかの寮生からはそもそも闇の帝王の息子がいる時点で、半巨人程度怖くないんだよなぁ、という視線を向けられているのは本の知らぬところであったりもする。
これ以上の危険人物はもういないだろう、と生徒らの関心は早くも薄れ、家族から来たらしい梟便に冷静な返答を書き、返事待ちをしていた梟に持たせた。
世間を騒がせようとしたらしいスキーターは目論見が外れて目をしばたたかせる。じゃあ、と翌日クリスマスパーティーで同性のパートナーを選び、そのパートナーが闇の帝王の息子だという噂がというゴシップを流すも、発行前に冷や汗を流すファッジとルシウスによって阻止されたのは……後日部下である当人からの報告を受けたヴォルのみが知ることとなった。
半巨人というのが知られ、落ち込むハグリッドのところに、なんで俺様がやつの尻を蹴り上げねばならんのだ、とぶつぶつ文句を言うヴォルを先頭に尋ねる。
ぐずぐずと泣いているハグリッドに気が付かないやつはいない、ときっぱり言い放つ。
「その図体と、危険な生物ばかり選ぶ馬鹿げた行動で、骨太らせ呪文を掛けられただの、肥大化の魔法薬を被っただの、そんな子供の考える浅はかな間違いを抱く愚か者がいるわけないだろう」
バカバカしい、ときっぱり言い放つヴォルに、こっそり悪質な太らせ魔法でもかかったのかと思っていた、とハリーにこぼしていたロンはうぐっ、とうめき声をあげた。子供、ってここは学校よ?と呆れるハーマイオニーにハリーは笑い、ヴォルは気まずそうに眼をそらす。
「来年からは人狼も来る。それはもう世の中に広まっているし、元凶悪犯罪者と思われていたが、そもそも学校の備品を破壊するなど危険な行動ばかりしていたバカが、罰としてここにいるのは知られているんだ。半巨人がいる程度で怯えるのはとんでもない臆病者か、バカだけだろう」
まったく、とため息を吐くヴォルに黙って聞いていたパッドフットは抗議するように足をばたつかせた。文句を言いたそうだが、パーティーで特別にアニメ―ガスを解くことを許可されていた分、今日は一日犬の姿だ。
「そういえばこの新聞手にしたマルフォイたちがにやにやしていたけど、やらかしそうだね」
「そうだ、後で今さっきのヴォルの言葉をあいつが近くにいるときに繰り返してみるってどうだろう。顔真っ赤にして怒りそうだ」
やりかねない、というハリーにロンはいいことを思いついたと目を輝かせる。バカなこと言ってないで、とため息を吐くハーマイオニーだが、きらきらした目をするロンを見て、好きにしなさいよ、と目をそらす。
「それは面白そうだ。ルビウス。昼には顔を出せ。絶対だ。でなければ……アクロマンチュラの巣を焼き払う。あぁそうだ。あのお前が買っていた最初のが死んだら問答無用で燃やすからな?あれは父には従うだろうが、それがいなくなれば好き勝手行動する」
問答無用だ、というヴォルにハグリッドはダメだ、と顔を上げる。だが、ヴォルの睨む様な眼にしおしおと座り込み、俺が説得すると口を重くした。
「だめだ。お前がもってきた奴とその番はともかく、虫はフェロモンで統制を図る。そして、それはお前が親となったアラコグとやらはともかく、その下にとっては従うべき個体はアラコグであり、それが死ねば各々が縄張りを作るために散る。あの数ではそもそも互いに争うのは見えているのと、ケンタウルスらだけでなくユニコーンなどにも当然危険が及ぶ。この森に作れるコロニーは一つだけだ」
だめだ、と首を縦に振らないヴォルにだけども、ともごもごいうだけでハグリッドは口をつぐんだ。ハーマイオニーは本で勉強したのか、そうねとヴォルに賛同した。
「ハグリッド。もしも生徒が死んでしまったらどうするの?あふれて出てしまったアクロマンチュラが食べてしまったら。今度こそハグリッドは犯罪者になるわ。それに、ハグリッドを信頼してくれたダンブルドア校長まで信頼を失うのよ」
だめよ、というハーマイオニーにハッとするハグリッドはわかった、と重々しく口を開いた。あと1,2年したら、というハグリッドに俺様が直々に処分してやる、と引き受ける。
「でも半巨人は……」
「何度も言わせるな。昼、大広間に、来い」
いい加減うるさいぞ、といらだつヴォルの言葉にハグリッドは思わず姿勢を正す。ヴォルとハグリッドのやり取りを見ていたパッドフットはこいつもこういう配慮ができるのか、と闇の帝王だった青年を見た。
確かに、知っているヴォルデモートとはまるで違う。だが、とハリーとヴォルの間に体を入れて威嚇する。大事な、大事な名づけ子にこれ以上毒牙を掛けるわけには行かない。断じて。絶対に。そう思ってハリーとヴォルの間に空間を作ろうとハリーを押して……どこかに腰を打ったらしいハリーが痛い!と声を上げた。
「あぁハリー。昨日はあまりの可愛さに抑えが効かなかった」
腰、大丈夫かい?と問いかけるヴォルに、大丈夫だけど、と今度はハリーが顔を真っ赤にしてもごもごと答える。じろりと見るハーマイオニーに、今回はちゃんと室内だ、とヴォルは問題はないと答えて……石化したパッドフットをどかしてハリーを抱き寄せた。
「それにハグリッド……半巨人よりもやばいのいる気がするんだけど……」
だから気にしなくても、とぼそりとつぶやくロンにハグリッドはヴォルを見て、そうかもしんねぇ、とようやく笑って見せた。
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