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「あらあら、あんなに見つめあっているのに誰にもぶつからないなんて、よほどうまいのね。ねぇ、ジェームズ」
 小さくなんて躍っていない二人なのに誰にもぶつかっていない。周囲が避けているかと思いきや、そんなに慣れていないためにそんな芸当できそうにもなく、ハリー達以外ではぶつかる寸前になっている姿もちらほらある。

「ダンスは貴族のたしなみなんだって言って柱にぶつかったジェームズ聞こえてる?いらないリフトアップをしたせいで私が転んでひざをすりむくことになったジェームズ」
 下手って言いたいわけじゃないのよ、散々な目にあわされたって言いたいだけ、というリリーによくも僕の息子を、と息巻いていたジェームズが動かなくなる。あーと思い出した様子のシリウスとリーマスは遠くを見つめ……リーマスはトンクスに誘われてダンスをしにフロアへと入っていった。

 残されたシリウスは夫婦には触れないでおこう、と決めて……かつてのヴォルデモートの姿がちらつくヴォルを睨みつける。ベストを着ているし、中はパンツスタイルではあるが羽織っている上着のせいでヴォルデモートの服装にしか見えず……無意識に身構えてしまう。

「前にあった時よりも近づいている気がする……」
 間近で見たわけでもないし、おとなしく立っているだけなんてことはなかったためにおそらくは、だが首から上を除けばほぼあの男だ。そしてそれが大事な名づけ子と楽し気にダンスをしているわけで……。意味が分からない、とシリウスは考えることを放棄した。

 唸るだけでダンスに参加しない数か月前までお尋ね者だったシリウスだが、今は無罪というのが広まったわけで……。ブラック家の当主であり、ルックスも良く、年上の男ということで、興味津々なフリーの女子生徒らの視線がちらちらと向く。


 2曲続けて踊ったハリーとヴォルはさすがに疲れた、とロンがいる脇のテーブルに移動し、ヴォルが飲み物を取りに行く。そこにあー暑い、と休憩しにハーマイオニーが一人でやってきた。

「今ビクトールが飲み物を取りに行っているの」
 僕はヴォルが、と笑顔になるハリーにハーマイオニーも上機嫌で笑う。

「ビクトールだって?君、いつの間にあんなダームストラング校の奴と仲良くなったんだい?」
 突然聞こえた声にハリーとハーマイオニーは驚き、ふてくされた様子のロンを見る。パドマは残念なものを見る目でロンを見てから、他の男子生徒に誘われるがままに席を立ってしまった。
 残されたロンはまったく気にしていないようで……クラムより先に戻ってきたヴォルがやはり残念なものを見る目でロンを見る。

「ロン、一学年の時に忠告したが、一生独身だぞ」
 本当にわからないやつだなぁ、とため息を吐くとハリーに飲み物を渡す。ありがとう、と受け取ったハリーはロンとハーマイオニーを見てうーん、と首をかしげる。もともとハリーにはヴォルがいたため異性の親友、という感覚でしかないハーマイオニーだが、ロンはそうじゃないのだろうか、と。

「他の女子生徒とは普通なのに、なんでロンはハーマイオニーになるとあぁなるんだろう」
 やっぱり親友だから?というハリーにヴォルはさてな、と肩をすくめて見せ、にらみ合う二人に視線を移す。

「そうだな……これは……早めにあれを完成させて、とっととロンに」
「そんな気配がしたので、試作品持ってきたぜ」
「つんつんしたいロニー坊や。とりあえずこれでも飲んで落ち着いて」

 ロンはなぁ、というヴォルの両脇からまるで生えるように出てきたフレッドとジョージに思わずハリーは飛び上がり、ヴォルに抱き着く。ハリーを驚かせたとしてイラっとしたのも一瞬で、すぐに上機嫌でハリーを抱きしめ返すヴォルはさすがだな、とそれだけつぶやいた。

「別に僕は喉なんて乾いて」
「まぁまぁ。あがり症の弟の為に、わざわざその緊張を打ち消す……そんな画期的なものを開発しただけさ」
「きっとダンスパーティーで緊張して踊れもしない弟を思うと不憫で不憫で」
「このラムネを食べればその緊張もなくなるだろうって持ってきたというのに」

 がしっとつかむジョージにフレッドもまた嘆くように口を開き……余計なお世話だ!と怒るロンが勢いのままフレッドが差し出したグラスだけ飲んでラムネを拒否する。残念だ、とそういって立ち去る二人だが、ハリーとヴォルに向かってウィンクしていく姿に二人は察する。警戒心があるようでないロンにため息が出てしまう。

「見違えるほどきれいでびっくりしたなんて言えるわけないじゃないか!」
 グラスをおくロンにハーマイオニーが驚き、え?とぽかんとする。

「でもいつものハーマイオニーの髪型のほうがらしいし、そっちの方が」
 そこまで言ってからロンは自分の口を塞ぎ、目をしばたたかせた。

「え?ちょっとまってなんで。そんな。頭で思っていることが何で口に」
 あぁそうじゃなくて、なんだこれ、と慌てるロンにハリーは相方を見上げる。これってそういう効果の悪戯グッズ?という視線にヴォルはあべこべになるの面白いだろう?という。

「心の中でいつもグダグダしているだけの奴にとってはとっても効果的なジョークアイテムだろう?」
 楽し気に笑うヴォルにハリーはやれやれとため息を吐く。そうこうしている間にロンは席を立ち、口を抑えたまま走り去る。ハーマイオニーは顔を赤くして、何がどうなっているの?と混乱しているらしかった。
 そこにどうにかいろんな人を振り切ってきたであろうクラムがきて……どうしたんだ?と眉を顰める。
 
 




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