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 そしてマクゴナガルに先導されながら大広間に入れば拍手が沸き起こり……あぁそうか、あいつのパートナーはあれしかいないか、と小さなどよめきが生まれる。ヴォルの堂々とした姿にハリーは安心するとボーバトン校やダームストラング校の好奇の視線をものともせず、壇上へと上がっていく。そこにはパーシーがいて、ハリーはきょとんと眼をしばたたかせた。

「今日はその、クラウチさんが体調不良で……」
 だから代理で来た、というパーシーはクラウチの罪を知ってからどこか歯切れが悪い。そうなんだ、というハリーは周囲を見回して……小さく手を振るルーピンを見つける。シリウスもまた許されたらしく、ピシッとしたドレスローブに身を包み……ハリーのパートナーに絶句していた。
 その隣では半透明なジェームズがいて、同じように絶句し、少し離れたところに居るリリーは隣にいるスネイプに笑いかけている。そのスネイプはといえばヴォルの姿を見ていつもの青白いような顔が更に色を失い、もしかして魂飛んでいるのでは?という佇まいでリリーのまぶしい笑顔にも気が付いていない様子だ。

 それはそうとして、ともう一度ルーピンに視線をうつせば、鮮やかなピンク色の短い髪を立てたトンクスという女性が、フラーたちとは少し違った様相で……とてもトンクスらしいと言えるような、そんなドレスに身を包んでとてもうれしそうに微笑んでいる。

「うまくいきそうだね」
「あぁ、外堀はもう埋まっているから、後は奴の気をどう変えるか……それに尽きるだろう」
 最近自分の周りで恋の花が咲いている、となんだかうれしくなったハリーが笑うとヴォルは人目を気にせず、かわいい、とそういってハリーに口づける。どこかで悲鳴が上がったが、もとよりハリーしか視界に入らないヴォルは気にならず、ハリーもまたヴォルの正装に気を取られていて、周りの反応など気にも留めていない。

 ホグワーツ勢としては見慣れた光景だが、クリスマスパーティーでは知らない人もそれなりにいて……何なんだあの二人は、と伝統あるはずのダンスパートナーに同性を選んでいるイレギュラー枠のハリーに視線が集まる。
 メニューを読み上げればいいらしい、とヴォルはちらりとハーマイオニーを見てからハリーにディナーを選んでもらう。うわーすごい、と今までにない給仕方法に驚き、それじゃあどうしよう、と真剣に悩むハリーをヴォルはじっと見つめ、視界の端でげんなりしている配下を見た。

 スネイプとカルカロフは共に、ヴォルデモート時代の姿に似た格好を前に生きた心地がしないのだろう。そして、とムーディに目を移せばもうどう反応すればいいのかわからない、という風に途方に暮れていて、どこか目が虚ろだ。
 バクマンは元々ヴォルデモートが何を着ていようが気にならなかったのだろう。満面の笑みを浮かべるヴォルにヴォルデモートとしての姿を知っているマクゴナガルが黙り、ダンブルドアは愉快そうに笑っている。

 それが一番腹が立つ、とヴォルは緊張して話が浮ついているクラムとハーマイオニーを見て、ロンより似合いそうな気もしないでもない、とそう考えて……いやハーマイオニーの性格だったらロンの方が気を遣わずに済みそうだな、と勝手なことを思い浮かべる。

 ロンは、と目で探せばパートナーになってくれた少女には大変失礼な態度でぶすっと顔をしかめている。1年生のころにそんなんじゃだめだぞ、とまだごく普通の少年だったころに注意したはずだが覚えていないのか、と呆れて……隣にいるパートナー以外のことを頭から追い出した。


 普段食べないような料理に舌鼓を打ち、さぁいよいよダンスの時間だという事になって、ハリーは緊張したように手を握り締める。その手を包むようにするヴォルは俺様に任せておくといい、と耳元で囁いた。

「足踏んだらごめんね」
「ハリーに踏まれても痛くはない。それに、俺様がリードするのだ。大丈夫、俺にその身をゆだねて俺様の眼だけを見つめていればいい」
 ハリーはただ音楽と俺様だけを感じていればいいんだ、とごく自然な流れでハリーの腰を支え、その手を取った。服装的にまさかとは思ったけど、やっぱりそうよね、そうだとおもった、とほっとするような声がホグワーツの生徒から囁かれるのはもう気にしない。

「ヴォルってどこでこういう所作を覚えたの?」
「大人になるには色々覚えねばならないことも多いのだ。まぁ……ルシウスの父アブラクサスとか、あそこらへんに教えを請うたな。確か……奴とはほとんど被っていないのだが、何事も人脈は便利なもので、紹介されたのだ」

 スリザリンの正当な血をひく俺様にとってマナーは身につけねばならぬものだったからな、とハリーを抱きかかえてくるりと回る。そうすると本来は女性の方のスカートがふわりとして優雅なところだが、まるでハリーを包むようにヴォルの広がった裾がふわりと闇のようにまとわりついた。ヴォルがハリーを密着するように抱きかかえて上からのぞき込めば身長差もあって、ハリーの姿はすっぽりと埋まってしまう。

 緑色の瞳が見つめる先は赤い瞳で、一度合ってしまえばもう逸らせない。どろりとした独占欲と、支配欲と、情熱的な愛がその赤い瞳の奥で燃え上がり、ちらちらとその顔をのぞかせる。
 両親を殺し、世界を恐怖に陥れた闇の帝王が、同性の自分を欲している。そのことがこれ以上ない高揚感を生み出し、ハリーの自己評価をも確たるものにする……そのことが嬉しくてハリーは思わず口角を上げた。

「俺様はハリーのものだ」
「僕はヴォルの物だ」
 ハリーの眼から感情を感じ取ったヴォルが耳元で囁くと、ハリーもまた囁き返す。きらびやかな会場も、生演奏も……目の前の瞳に比べたら些細なものに感じて、二人は踊りながら二人だけの世界にいた。
 
 




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