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 図書館でハリーとハーマイオニーが課題に取り組んでいると、そこに遅れてヴォルがやってくる。いつもの光景だったが、そこにナギニがやってきた。

『ご主人様、あっちで少し会話したいってえーっとクラム?とかいうダームストラング校の子が何か話したいみたいだけど』
 あっち、というナギニが示す方向をハリーとヴォルが見れば本棚の影に隠れるようにクラムが慌てて背を向けて立っている。なんだろう?と首をかしげるハリーに敵対している風ではないけど、とヴォルが立ち上がって傍に行く。
 ブルガリア語なのか英語ではない会話をする二人だったが、あぁと頷くヴォルがハリーを呼ぶ。なんだろう、とハーマイオニーと顔を見合わせるハリーだが、ヴォルに呼ばれている以上すぐ行かねばと立ち上がって呼ばれるままに近くに行く。

「ちょっと席外そう」
 ハリーの手を引いて遠ざかると、本棚の影でハリーに口づけた。んっ、と自然に目を閉じるハリーに嬉しくなるヴォルだが、一目ぼれだそうだ、と唇を離しながら唐突に呟いた。

「え?もしかして……え!?」
「どうやらワールドカップでちらりと見て、なんとなく頭の片隅にあったのがここに来て再会して……という事らしい」
 あのクラムがハーマイオニーに、と親友の恋路にハリーは思わず顔を赤くして、嬉しそうに笑い……ロンはどうするのかな、とつぶやいた。あぁ、負けだなあれは、とヴォルが答えていると、何の話だ?とようやくやってきたロンに二人そろって振り向いた。

「あー……。直接見たほうが早いだろう」
 シレンシオ、と唱えるヴォルはなになに、と魔法をかけられたロンを引っ張り、ハーマイオニーらがいる席が見える位置まで移動する。
 
 こっそり見ることにドキドキしながらついて行くハリーも本棚の影から顔をのぞかせると、緊張した様子のクラムが座ったままだったハーマイオニーよりさらに姿勢を低く……片膝をついたクラムが手を差し出す。真っ赤になったハーマイオニーが恥ずかしそうにしつつ、迷うように視線をさまよわせた後、私でよければとその手を取った。

 嬉しそうに深く息を吐き、小さくガッツポーズをとるクラムと、初めてそういう誘いをされたらしく恥ずかしがるハーマイオニーという光景にハリーは思わず口に手を当てて、ちらりと石化したロンを見た。ヴォルもロンを見ていて、クラムが立ち去ったのを確認し……もう少し時間を置くかとまた別の本棚の影へと移動する。

「どうやらクラムのひとめぼれは成功したみたいだな」
 どこかO脚風に見えていたクラムが足取りも軽く、嬉しそうに図書室を去っていくのを見て、たまたま近くにいたらしいジニーがハーマイオニーに声をかけて一緒に盛り上がる。

「もしかしてこのまま付き合うとかするのかな」
 ハリーのつぶやきに壊れた人形のようにぎこちなく動くロンは、ふらふらと図書室を去っていった。
「ハーマイオニーがその気があれば付き合うんじゃないのか?まぁあの調子だと、そのまま付き合いそうだな」
 この一年間だけでも乗り切ればきっとそのまま長く続きそうだ、というヴォルの分析に、そういうもんなんだ、と幼い頃からがんじがらめな蛇の執着で固められているハリーは新鮮なものを見るかのように呟いた。

「ロンもさっさと誘えばよかっただろうに。あれはまたこじれるぞ」
「だろうねぇ。ロン、クラムのファンだっただけに愛憎渦巻いてそう」
 やれやれ、とため息をこぼすヴォルにハリーは本当に、と肩をすくめて見せる。
 
 そろそろいいだろうとハーマイオニーに元に行けば、ハリー達が席を外したことに先に言ってよとヴォルを軽く睨む。本当に驚いたんだから、というハーマイオニーはまだ嬉しそうで、何か考えている。

「この髪の毛、どうにかしなきゃ」
 確かまっすぐに伸ばす魔法薬があったと思うから……とブツブツと考え始めるハーマイオニーにいつも朝自分の髪と格闘しているハリーはなにそれ、と顔を上げた。
「ハリー。俺はこのほわほわとした髪も好きなんだが」
 ハリーはこのままでいい、と抱き寄せるヴォルは髪に口づけるように、ハリーの頭に口付けを落とす。でも、というハリーだが、ヴォルに口付けられると、ヴォルがそういうなら、と口を閉ざした。


 ロンの落ち込みは予想以上で、その晩は放心状態で寝台に座ったまま朝を迎えたほどだ。すっかりいつもの調子に戻ったハーマイオニーに対し、ロンはどこかとげとげとした様子でふるまい、なんなのよ!とハーマイオニーを怒らせる。思わず間に入ろうとするハリーだが、ヴォルがやんわりと止め、見守ろうという。

「こればかりは二人の問題だハリー。俺たちはそっと見守ろう」
 口出しは無用だろうというヴォルにハリーは不安げにしつつ、そうだねと頷く。その後……パーバティの妹であるパドマとともにクリスマスパーティーに出ることになったと、誰と行くのかというルームメイトとの話の中、ブスっとした様子でロンが答えた。ハーマイオニーとはあれ以来まともな会話をしていない。
 
 




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