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ヴォルのうっかりのせいで一つの謎は解けたが、ハリーはどうしようと悩んでいた。マーミッシュ語を聞くためには水の中で聞くしかないが、卵と頭を入れるだけの広さを持つ水場が思い浮かばない。
湖……と考えて泳いだことないのに大イカが怖いな、とできれば最終手段にしたい。うーん、と唸るハリーだが、ヴォルはその件については一切発言してはならない、と約束させたことと、ハリー自身どうにかしたいという事もあって聞くことはしない。
「通常僕らはシャワーだけだからな」
バスルームなんてあるのかな、というロンにハリーは頷くしかない。シャワーだけではどれだけ水を集めても途切れ途切れにしかわからず、それどころか大音量の悲鳴のようなマーミッシュ語に耳が痛くて仕方がない。
何かいいアイデアが浮かぶまで仕方がない、とハリーはいったん考えるのを中断する。
「そうだ、ハリー。先日はどうしても来られなかった、と嘆いていたルーピンが来年の雇用についての話とかで来週来るらしい」
ふう、とため息を吐くハリーを抱きしめるヴォルはそうだそうだと切り出した。またどこに行っていたのだろう、と思うが今回の作戦について何度も協議しているらしく、その過程で聞いたという。
「脱狼薬の新薬はどうなっているのかしら」
まだあれから数回しか試行できていないのだが、それでも気になるハーマイオニーにヴォルはどうかな、と考える。
「人狼になった連中を保護する団体のおかげで被検体も集まっているらしい。トリカブトを使う事からかなり慎重だというが……。狼にまつわるものといえばあとは銀の弾丸位だが、それはさすがにまずい」
だから慎重になるのだろう、というヴォルにハーマイオニーは難しいのね、と教科書通り作るのは得意でも新たに作ることの難しさに唸る。久々にあうルーピンにハリーは嬉しくてパットフットも連れて行けるか聞いてみようか、という。そんな中、首を横に振るのはヴォルだ。
「脱狼薬の話もするだろうからスネイプが同席する可能性がある。あの二人を一緒にするとろくなことが起きないからやめておいた方がいいだろう。なに、放っておいても犬の姿で飛んでくるだろうから問題はない」
いなきゃいないでいい、とヴォルは首を振ってハリーを抱え直す。あの二人本当に相性悪いんだな、とロンは呆れた風に言って……うちの親父とマルフォイの父親の取っ組み合いを思い出して思わず遠いい目をした。
相性が合わないやつはとことん駄目だろう、といかにも自分とハリーは相性ばっちりなんです、という風にがっちりと抱きかかえるヴォルと、受け入れているハリーにハーマイオニー達はそろってはいはい、と受け流した。
どうにかいい方法、とハリーが模索していると、マクゴナガルが4年生のグリフィンドール生を一つの部屋に集めた。
「今年は三大魔法学校対抗試合もあることからクリスマスにダンスパーティーを行います。今年度のリストに書いてあったドレスローブを着て参加となります。代表選手はパートナーと共に先に躍ることが伝統できまっておりますので、そのつもりで」
パーティー用のドレスローブという言葉にロンは絶望的な顔をし、ハリーはまさかの伝統に言葉を失う。
「何を心配しているんだハリー。ハリーのパートナーは俺様以外いないだろう?」
もうずっと前から決まっていることだ、とハリーの手を握るヴォルにそれもそうか、とハリーは手を握り返す。そのことを危惧していたのかマクゴナガルは咳払いをして、一般的に、と声を上げた。
「一般的なダンスパーティーのパートナーというのは男女というのが基本となります。いかにダンブルドア校長がある意味公認されているとはいえ、新聞などにも載る可能性のある代表選手のパートナーとなれば……」
「ならばハリーをその日だけ女性にすれば問題はないという事ですね。わかります」
「ちょっとヴォル!?」
マクゴナガルの言葉を遮るヴォルにハリーは焦ったように声を上げた。わかりますってなに、わかりますって、と抗議の声を上げるもヴォルはにこりと笑うばかりでハリーを抱き寄せた。
「俺様が女装するわけには行かないが、ハリーが一時的にも女性になるのは構わないだろう?いつも愛して可愛がって喘が「ストップストップ!!ちょっと恥ずかしいこと言わないで!」何をいまさら。卒業後は俺の作った魔法薬で子供を産んで「わっわっわっ!」」
しれっと、言い出すヴォルにハリーは慌てるも両手を抑えるように抱きしめられてままならない。まだいいって言ってない!といえばいうほど墓穴を掘っていくハリーにマクゴナガルは深々とため息を吐いた。
このままでは間違いなくハリーに害が及ぶ。だがそのために伝統を……ましてや同性パートナーというものを飲み込むのは……。そう考えてどうするべきか、と悩むとぽんと肩を叩かれ、マクゴナガルは振り向いた。どこかニコニコした様子のダンブルドアにこれ以上ないほどに深々とため息を吐いて、わかりました、という。
「怪しげな魔法薬でミスターポッターが様々な意味での危険が及ばないよう、同性でのパートナーを認めましょう」
大体このままではハリーのパートナー探しは成功せず、万が一に誰かがパートナーになろうものなら呪われてしまう可能性だってある。であれば彼を宥めるよりも折れたほうが安全だ、とマクゴナガルは折れて……これで安心じゃな、というダンブルドアを思わず睨みつけた。
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