------------



 ドラゴンの足元には卵があり、そこに一つだけ輝く卵がある。どうやらそれをとってくるようで、ハリーはこの作戦がうまくいきますように、と杖を振り上げた。

「アクシオ!僕のファイアーボルト!」
 そう唱えると観客席の中には何も起きないじゃないか、と揶揄する声が上がるもすぐにモガモガという音に代わる。あぁヴォルやらかしている……と少し嬉しくなるハリーは風を切る音に振り向きながら箒をキャッチし、そのまま飛び乗った。

 そのままドラゴンの手が届かないところにとどまり、時折フェイントをかけるように下降するそぶりを見せて爪を避け、また上昇して、と繰り返すと明らかにいらいらした様子のドラゴンが体を起こし、前脚を持ち上げる。まだ、まだもう少し、と焦らすと炎を吐かれるがそれをブラッジャーの要領でよけて今度は大きく円を描く。
 そうするとドラゴンは更に苛立ち、完全に後ろ足で立ち上がって大きく息を吸い込んだ。いまだ、と急降下をして金のスニッチを握るように金の卵を手に取る。
 そのまま急上昇をすればドラゴンはまだ怒っていたが、試練的には終了の用でチャーリーたちが急いでドラゴンを抑えるべく呪文を唱えた。

 バチン、という音ともに気絶したドラゴンにぎょっとするチャーリーたちは卵を呼び寄せて守ると客席にいる黒髪の青年を仰ぎ見た。やっぱりあの青年……ただものじゃない、と冷や汗をかいてすぐにドラゴンの状態を確認する。
 ハリーへの歓声がヴォルの失神呪文のせいでどこか迷子になったような何とも言えない声になるが、箒から降りたハリーはそこに興味がない。自分で考えた作戦でドラゴンを出し抜いたことが嬉しくてテントへと戻っていった。
 あまりにも早かったのか、セドリックらは金の卵を手に戻ってきたハリーに驚き、意外と君は手ごわいかもしれないと笑う。
 そこにハーマイオニーとヴォルがやってきて……はらはらしたわ、とハーマイオニーに抱きつかれる。

「ハリー、よくやった」
 すごい飛びっぷりだった、と微笑むヴォルにハリーは一瞬見とれて……ほら、とハーマイオニーに押し出されたハリーはヴォルに飛びついた。その拍子に卵が落ちてパカリと開く。耳をつんざくような叫び声が上がって、落としたハリーはまさか壊れたのでは、と顔を青ざめ……。

「あぁ、マーミッシュ語か」
 相変わらずうるさい、というヴォルのつぶやきに4人の代表選手の眼が集まる。
「え?あ……」
 杖を振って卵を閉じたヴォルは自分の失言に気が付き、ハリーのじっと、とした目に思わず本当にすまない、と生きてきた人生の中で初めてのような謝罪の言葉を吐く。次の試練の案内に来たバクマン達の前で4人に無言で詰められ地べたに座る、ヴォルデモート本人だという青年に目を白黒させることとなった。

 何があったか説明はしないものの、何かやらかしたな、と4人の無言の圧に反省しているかのように俯くヴォルをスネイプは見て……謝罪する口があったのだなと妙なところに関心を抱く。
 第2の課題はその卵の秘密を解いて準備をすること、とバクマンの説明を受けるもすでに4人はその秘密の一端であるものを知ってしまった。2月までの期間をみっちり練習に費やせるという点ではある意味僥倖か、とどんよりと落ち込んでいる様子の青年を見て……点数を聞きに行く。


「ヴォル?」
「うっかり口が滑りました」
 ハリーの声にかの闇の帝王が叱られた犬以上の落ち込み様でいるなんて、この一連の騒動を仕組んだ相手も相手で気の毒だわ、とハーマイオニーは今日何度目になるかわからないほどに呆れる。そこにロンがやってきて、ハリーはどうしたのかと振り向いた。

「あの、この前談話室で囮がどうとか聞こえて……。その、なんというか。ぼ、僕はずっと一緒にいたのにハリーのこと信じてなくて。でも試練がこんなに危険だってわかったのと、いろいろ考えたんだ。少し考えればハリーがそんなこと望んでないのに……」
 もじもじとしながら、立ち上がってハリーを後ろから抱きしめる先ほどのヴォル以上に小さくなりつつ、ロンは自分の気持ちをまとめながら話し出す。

「またハリーが注目されている、と思って……。ごめん、僕嫉妬したんだ。君には最高のパートナーがいて……中身あれだけど、その、なんていえばいいんだろう。とにかく、僕は嫉妬してその、目をそらしたんだ。だからごめん、ハリー」
 うまく言葉にできない、というロンの謝罪にじっと聞いていたハリーは大きく息を吐くとじゃあ許す、と笑う。ありがとう!と声を上げるロンはハリーの手を取り握り締めると点数を聞きに行こう、と促した。

「あーもう、ほんとバカよね、ロンってば」
 いつもの4人に戻れてよかった、と喜ぶハーマイオニーは泣いて、慌てた風にロンがあたふたとした後袖でハーマイオニーの顔を拭く。もう何するの、と少し怒った風のハーマイオニーだが、すぐに笑っていきましょう、と促した。

「ねぇヴォル、時折思うんだけど……」
「奇遇だな、俺もそう思う」
 お互い気が付いてないみたい、と顔を見合わせて……二人の後を追う。
 
 
 ちょうど点数が出そろったと、バクマンの声が響き、各々の結果を発表していった。岩を犬に変えたセドリック、誘惑して混乱させたフラー。結膜炎の呪いを使って目くらましをさせた結果、本物の卵をドラゴンが踏んでしまうアクシデントが起きたために減点されたクラム。
 そして……一番速いタイムでドラゴンを傷つけることなくクリアした最年少のハリー。本気での勝負の結果、年上の3人に、クラムに並んでの最高点にやった、とハリーは喜んで……もう怒ってないよ、と振り向きざまにヴォルに口づける。

 あぁもうだめ、我慢できない、と不穏なことを呟いたヴォルに、そうだハリー、と瓶を手に振り向いたハーマイオニーらの前からすでにハリーごと消えていた。

「ハリーのご両親とシリウスもばっちり見ていたわよ、って言おうと思ったんだけど……」
「なんか黒い霧を飛ばしながら飛んでいったみたい」
 ハリーの金の卵を託されたのか、ロンはピカピカな卵を抱えてあっちの方と示す。

 夕食時に戻ってきた肌艶いいヴォルと、疲れた様子のハリーに蛇と獅子の寮監は深々とため息を吐いた。翌朝に玄関扉を開いたフィルチがケンタウルスらからの苦情の矢文を見つけ、野外では禁止!とヴォルに減点と罰則が言い渡される。
 怒ったマクゴナガルによる玄関先での処罰に、ハリーは顔を真っ赤にして陰に隠れた。ベインやフェイレンツェなどケンタウルスらにも聞かれていたことと、試練の後誘拐されたハリーがどこで何をしていたのかまで一瞬で広まってしまい、身を小さくするしかない。
 ダンブルドアだけは楽しげに笑っているが、正体を知る面々にとっては本当に奴なのか、とズキズキする頭を抱えたのであった。ムーディまでもがどこか放心状態だった理由は正体に気が付いている面々だけがその理由を知っていたが、他の生徒らは一体どうしたのかと首をかしげる。
 息子のそんな姿にクラウチ氏はなんだか哀れに思えてきて、父としてどうしてしっかり見ていなかったのか、と頭を抱えた。
 
 




≪Back Next≫
戻る