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そしていよいよ第一の試練当日になり、ハリーは緊張した顔でヴォルにぎゅっと抱きついた。大丈夫だ、とこめかみに口付けハリーの唇に触れるだけを繰り返すヴォルはさぁ行こうと促す。授業が早めに終わった後、試練があるという事でまずは授業を受けねばならない。
よりによって魔法史の授業という事に少しうんざりするハリーだが、隣に座ったヴォルが何かの魔法を唱えるとハリーを自分に向かせて朝の挨拶のようなキスではない、深い口づけをし始めた。
「待って、皆に見られるのは」
「大丈夫だハリー。認識阻害の魔法と、こちらの音が聞こえないようにする魔法を唱えた。だからいま俺様らに気が付く生徒はいない」
本当は授業を抜け出したいんだ、というヴォルにハリーは顔を赤らめ、箒に乗るからダメ、とつぶやく。そうだな、と笑うヴォルは緊張解れるまでこうしていよう、と唇を合わせて囁いた。
「無事できるかな」
「大丈夫だハリー。何せハリーは暴走した俺の杖を押し返して直前呪文を吐き出させることができるんだ。つまりは俺様ヴォルデモートと同等あるいはそれを上回る力を持っている可能性がある」
だから安心すると言い、と微笑むヴォルにハリーはえ?と驚く。いつだって自分はヴォルを守るために全力ではあったがそんな力があるなんて自覚はない。
「ほかならぬ俺自身が認めているんだ。もっと自信をもってもいい。いやむしろ、俺が暴走してもハリーが止められる、というのを態度でも示していければ馬鹿なやつも減るだろう。だからもっと胸を張るといい」
額を突き合わせるヴォルにハリーは少し顔を赤くして、わかったと頷く。その後、授業が終わる鐘が鳴るまで二人は午後のことも忘れて口付け合った。
唇が赤くなっているハリーとヴォルに授業を受けていたグリフィンドール生らはそろって大きなため息を吐き、隣にいたロンとハーマイオニーは呆れたように顔を見合わせて首を振る。
昼食をとるハリーにマクゴナガルがやってきて、準備をという。
「ハリー大丈夫だ」
ぎゅっと手を握るヴォルにハリーは力強く頷き、わかりました、とついて行く。
「いいですね?ベストを尽くすのですよ。うまくいかなくても誰も責めたりはしません。ただ、無茶をしてあなたの相方を刺激しないように」
無茶はしないこと、と繰り返し言うマクゴナガルにハリーは小さく笑って、しませんと返した。やがて見えてきたのは大きなテントで、代表選手は中にと案内される。中にはセドリックたちがすでにいて、各々準備をしている風だ。
ハリーが中に入ると入口は閉められ、ここ最近どこでも嗅ぐようになった虫よけの薬の匂いが充満している以外に、緊張というものが満ち溢れているのが分かる。
3人は自ら名乗ったがために覚悟もできているのだろうが、ハリーは違う。ただ、これを機にヴォルと自分を脅かす厄介な勢力を一網打尽にして……二人でゆっくり過ごしたい、という思いからこの囮作戦について覚悟ができている。
「よし、よぉし、それではこの袋から順番に引いてもらおう」
ルード=バクマンも緊張した様子で袋を振り、レディーファストだといってフラーから引くように差し出した。緊張で青ざめていたフラーは震えながらも、取り出したドラゴンの動く人形を慌てた様子もなく、粛々と受け止めている風に見えるのはやはり試練の中身を知っているからだろう。
クラムも同じで、むっつりとした顔のまま動く番号を首に着けたドラゴンを見つめ……セドリックも大きく息を吐きながらドラゴンを手にする。どんどんと消えていく選択肢でハリーはやっぱり、とため息を吐いてハンガリー=ホーンテール種の人形を手にした。なんでいつもくじ運は最悪なんだろう、と運のなさに嘆くが、一応対策はしたから後はなるようになれ、と杖を握り締める。
「さぁてじゃあまずはセドリック、君から中へ。ハリー、ちょっといいかな」
にこやかに頷くバクマンはハリーを呼ぶとテントの外へと連れだした。今回について対策はしたか、何かあればそう言っていいんだぞ、と囁くように訪ねてくるのに、ハリーは首を傾げてたぶん大丈夫です、と答えるしかない。
「あ、ヴォルのことを心配しているなら大丈夫です。ちゃんと試練の時は手を出さないって約束しましたから」
「あーまぁそれも心配ではあるんだが……。まぁなんだ、約束ってまさかあの、彼がそれを守ると?」
まぁそれもそうなんだがえーっと、と歯に何か挟まったかのような煮え切らない反応にハリーは首をかしげる以外思いつかない。それでも、と顔を上げた。
「ヴォルは僕との約束は絶対に守ります。安心してください」
自分への自信をつけるためにも、ヴォル抜きでもできるところをみせないと、と張り切るハリーにバクマンは何か声を掛けようとして、セドリックが入場したらしい歓声に行かねば、と走り去っていく。何がしたいんだろう?と首を更にひねると、かさかさという音に振り向いた。
『あの人、小鬼と何やら揉めていたわ。お金がどうとか、賭けをしようとか』
『まさか僕、彼の賭けの対象にされている?』
やってきたナギニがご主人様の代わりに来た。とハリーの腕に巻き付き、一緒にテントに入る。こそこそと教えてくれた内容に、ハリーは顔をしかめてあの人元スポーツマンじゃないのか、と呆れたように返す。
あの調子じゃ、“ぎゃんぶる?依存症”とかいうやつじゃないかしら、とナギニは考えながら返し……聞こえるドラゴンの雄たけびにびっくりして思わず身構える。
『大丈夫だよ。今セドリックの試練が終わったみたい。ナギニのおかげで少し緊張解れたかも。ありがとう』
続いてフラーがテントから出ていくのを見てハリーは順番待つのって緊張するよね、とナギニを撫でた。えぇほんとうに、と返すナギニはそのあとクラムが消えていくのを見るとハリーの首に巻き付き、頑張ってね、と額を突き合わせた。
『うん。行ってくるよ。ナギニも客席で見ていて』
じゃ、と自分を呼ぶ声とホイッスルに立ち上がり、テントを出ていく。クィディッチ以上の歓声にハリーは一瞬驚きながらも中に入り、ドラゴンを見つめた。
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