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それからはヴォルと相談の上、わざとハリーは一人の時間を作って過ごす。表面上では試練に向けての模索中というやつだ。そこにムーディがやってきた。試練への準備は万端かという問いかけに実際まだ模索中であるのもあって、まだですと首を振る。
「第一の試練については」
「内容はその、偶然知ってしまったので。ドラゴンを出し抜く方法ですよね。まだ僕にはそれが分からなくて」
魔法の眼でじろりと見られているとどうにも落ち着かないが、ハリーは申し訳なさそうに見える様務める。それでムーディも納得したのか、お前の特技を生かすのだ、と言い始めた。
僕の特技?と驚くハリーは一瞬獰猛な蛇使いを思い浮かべて、それじゃないと頭の中の不服そうなヴォルを消す。他に得意なこと、と考えるハリーにムーディはクィディッチがうまいそうだな、という。この人の情報ってどこから仕入れているのだろう、と考えるハリーはクィディッチとドラゴンが結びつかず……。
「あ!そうか、呼び出せばいいんだ。ありがとうございます!練習してきます」
ぽんと頭に浮かんだアイデアに、ハリーはそうかそうかと納得して満足げなムーディを置いて相方の待つ談話室へと向かった。
『ヴォル!接触してきた!のと、やっぱり僕を勝たせるためにヒント出してきたよ』
勢いよく飛びつくハリーに待っていたヴォルは地図から顔を上げてハリーを抱き留めた。そのままの流れで口づけると、興奮した様子のハリーは蛇語のまま話し出す。
『クィディッチが得意だろうと。だからアクシオで箒を呼び出せば……』
『なるほど、それはいい考えだ。だがハリー、相手は火を吐ける。十分気を付けなければならないぞ』
いつも通りのべたべたカップルに初めて見る一年生は驚き、それ以上の生徒はまた始まったよ、とうんざりするような顔をして顔を背けた。
「ハーマイオニー、アクシオの練習お願いしてもいいかな?」
「えぇいいわよ。その顔だと解決したみたいね。それにしても本当に嫌だわ。ハリーを囮にするなんて……」
呆れた風のハーマイオニーがレポートから顔を上げると、ハリーの頼みを快諾する。だが、すぐに顔をしかめると最後までは大丈夫ってヴォルは言うけれども、と眉をひそめた。
ヴォルの地図を脇からのぞき込めばムーディがいるはずの教授室にはクラウチの名前がある。本物もポリジュース薬のこともあって傍にいるのは確かだが、特殊な場所に閉じ込められているか、あるいは本当にどこか別の場所にいるのか。地図には名前が載っていない。
「しかたがない。本物の居場所がわからないのと、奴らが何をもってハリーを推すのかがまだわからない以上、気が付かないふりをするしかないんだ」
奴らのたくらみが分かればすぐにでも動けるのに、とヴォルは眉を顰め、俺様だってハリーを囮にするのは嫌だ、と抱きかかえたハリーのこめかみに口づける。
「こういうのは俺の性分ではないが仕方がない。過去にやったことも一応あるからな」
こういう我慢は苦手だ、というヴォルはハリーを抱きしめて抱きたい、と声も落とさずつぶやいた。たまたま近くに来たラベンダーらがきゃあきゃあと騒ぎ、そこからヴォルの発言が広まって……。
「時計塔の上部にいい部屋あるぞ」
誰のかわからない声がかかってハリーは顔を真っ赤にする。がばりと顔を上げたヴォルはうっとりするほどの笑みを浮かべて、試験までまだ日にちはあるな、と不穏な言葉を漏らした。必要の部屋でもいいがあそこはあそこ、とヴォルはすくっと立ち上がった。
「ちょっと待ってよヴォル!駄目だって明日授業あるから!」
「いや、もう限界だ。早速行くぞハリー」
抱き上げられたハリーが抵抗するもヴォルは易々とそれを抑え込み……穴をくぐって消えていく。あっという間の出来事に、消灯時間直前だった、とかそもそも外でそんな不埒な行為とか、誰もが思い浮かぶももうその姿はどこにもない。
「蛇様の性欲舐めてたわ」
あれはかわいそう、と誰かが呟き……勧めた生徒はこれで談話室の平和が保たれた、と天を仰ぐ。いつ帰ってくるかしら、と女子生徒が集まり……。翌日の大広間に現れた、いやに肌艶いいヴォルと、魔法薬で声は戻ったもののひどく疲れた様子のハリーに、ひそやかな黄色い声が響く。二人を見守る界隈までもが上機嫌で肌艶よくなると、マクゴナガルらは頭を抱えてしまった。
ハリーのアクシオの特訓は空き教室で行われ、いろいろ手助けしたいヴォルは蛇の姿でじっと見守る。この一年で邪魔な奴らを一網打尽できればハリーとイチャイチャできる、とぐっとこらえるヴォルはハリーが唱えたアクシオで飛んできたクッションをするりと避けてじっと見つめる。
「箒はもう少し飛んできやすいとは思うから、大丈夫だとは思うわ」
勢いよく飛んできたクッションを受け止めるハリーにハーマイオニーはばっちりだと思うけど、という。ヴォルも満足げに頷き、戻ってきたナギニをみる。
「スネイプのところで材料を物色していたらしい。あとは……屋敷しもべ妖精になにやら柔らかい食べ物を要求しているって」
「なら確実にこの城の中に本物はいるということか」
アニメーガスを解いたヴォルはナギニをねぎらい、私物が怪しいな、という。残念ながらムーディの私物は元闇払いという事もあって、気難しいものが多いらしく、屋敷しもべ妖精だけでなくナギニ達も入れないらしい。
とりあえずは静観するしかないだろう、という事になりファイアーボルトをどこに保存しておくのがいいのかという話に代わっていく。
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