------------
事情を知るメンバーが危惧した通りハリーの周辺ではハリーが目立ちたいからだとか、不正を働いたという声がどこかしこから聞こえ、加担したのではとヴォルへの非難の眼も増えていく。
ロンもまた離れたままで、誰もがハリーやヴォルの思惑に気が付いた風ではない。ナギニからムーディがまんまと魔法薬の倉庫から盗みを行っているという報告を聞き、疑いは確認となりクラウチを守る闇払いもまた情報を連携されて強固なものとなる。
特に派手な髪色の女性……ニンファドーラ=トンクズという女性が姿を変えながら警護を続けていた。
「七変化ってなに?」
クラウチが来ていなくとも話し合いなどで見慣れない人を見ていたハリーに、ナギニが同じ匂いなのに違う見た目だと言ったのがきっかけでヴォルが口走った言葉に首をかしげる。どうやらすべてそのトンクスという女性らしいが、同じ姿でいることが少なく訳が分からない。
「俺様のパーセルタングを理解できるという体質と似たように、その血族に伝わる特殊な体質だ。自分で姿形を変えることができる能力で、俺も見るのは初めてだな」
魔法使いには極まれにそういう血で伝えられる力があるんだ、というヴォルにハリーはなるほど、と頷く。根本的に姿が変わっているらしく、ムーディも特に怪しんでいる様子はない。
そこに何やらバッヂをつけた生徒がハリーを指さし何かを見せつけてくる。スリザリンの誰かが作ったという変なバッヂを見かけたヴォルは杖を振って、そこに書かれていた文字が着けていた生徒の声を模倣して叫び出すように呪いをかける。
汚いぞポッターと罵る声が廊下中に響き渡り、慌てて何とか音を小さくしようとして、ヴォルがわざと箱いっぱいのそれらを同じように音量を最大にあげた。そうなると慌てたのはそれらを身に着けていた生徒で、音を下げようとするも脳を揺らすほどの大音量に頭をふらつかせ、何事かと出てきた教師にこっぴどく怒られる。セドリックを応援する声も大音量で流れ、たまたまセドリックを応援する文字用にしていたバッヂと、ハリーを罵る文字用にしていたバッヂを律儀に2つ着けていた生徒はその間に挟まれ、ノックアウトされたようにその場に倒れていた。
バッヂが出回って二日。一斉に行われたヴォルからの反撃を事前に聞いていたらしいフレッドとジョージが耳栓を売り出し……あっという間に完売する。試供品としてもらっていたハーマイオニーとハリーは何ともなく、ナギニやクルックシャンクスの耳を保護する魔法をかけていたがために影響はない。だが、それ以外の生徒やペットは相次いで体調不良になるものが続出し、ハリーを貶めるバッヂはあっという間に姿を消した。
「相手の手を逆手にとって反撃するなんて……」
性格悪い、と思わず心の中で呟くハーマイオニーになんとなく察したハリーが笑う。ロンは兄から購入したのか同じように耳栓をしていて……ハリーと目が合うとふいッと逸らした。
「マグルの拷問で実際にあるものだ。大音量の音を聞かせて精神を狂わせるらしい」
うるさいのが難点だ、と悪びれもしないヴォルにハリーは呆れつつ、そういうことも勉強していたんだ、と妙な関心をしてしまう。てっきりマグルの物は嫌煙して調べていないものかと思った、というハリーに拷問などはマグルの方が詳しい、とヴォルは肩をすくめて見せる。
「魔法や魔法薬がないからかしら」
闇の魔法からの観点なんて考えたこともないハーマイオニーは意外とちゃんと学生していたかつての闇の帝王の青年期を思い浮かべた。なんとなく友人というものはいなかった気がして、きっと夏休み以外は城にいたんじゃないかしら、とヴォルを見る。
「そうだハリー、ルビウス……ハグリッドが透明マントをもって夕食後家に来て欲しいそうだ。あいつは何も知らないから、もしかしたら何か手助けしようというやつかもしれない」
ハリーとヴォルは四六時中くっついているわけではなく、いつも通りハリーとハーマイオニーは一緒に行動しつつ、ヴォルは単独で出歩くこともある。その道中で会ったらしく、ハリーはわかったと頷いた。
『それにしても、まだあの記者いるの?』
ひそひそと、二人だけが分かるパーセルタングで尋ねるハリーに、きょろりとあたりを見たヴォルは虫が一匹歩いているだけの壁を見て、まぁいるなという。
ハリーが代表になってから杖を確認するためオリンバンダーが来て……その時にリータ=スキーターという変な女性記者にインタビューを受けた。全く答えていない言葉を書き連ね、まるでハリー一人がホグワーツの代表であるかのような記事を書いた迷惑記者。
最初に気が付いたのはクルックシャンクスで、そこからナギニに情報が行き、彼女がコガネムシのアニメ―ガスであることを知ったのだ。それ以後、秘密の会話をする時は彼女が見えないようにほとんど唇が触れるような距離でパーセルタングを使うか、虫よけの薬を周囲にまいた状態で話すようにしている。
初めて薬を使った時は物陰で咳き込む声が聞こえて、本当にいたんだとハリーとハーマイオニーは顔を見合わせてしまった。それ以降ヴォルの助言があったのか、記者を入れたくない教授や、校長室では常時虫よけの薬が入り口や窓辺に焚かれている。
それを思い出したところでオリンバンダーとのやりとりをハリーは思い出していた。フラーは本当にヴィーラの血をひいていて、おばあさんの髪が芯に使われている杖を使っているという。きっと魅了とか得意な杖なんだろうな、と考えるハリーにそれじゃあ次と順番が回ってきて……。
調べた後にあれは今も仲がいいのか?と小声で尋ねてきたので、付き合っていますと素直に答えた。そうか、と言って杖から出した花束をハリーに渡してくれ、不思議な縁だがそれで平和になるというのならばと意味ありげに微笑まれた。
売った相手と杖は忘れないという事は一年生になる前からヴォルの正体を知っていたことになるオリンバンダーはハリーが元気にしていることと、噂からすっかり安心しているらしい。花束は顔をしかめたヴォルが杖を振ると、不思議なことにそれらはアクセサリーに姿を変え、ますますヴォルの眉間にしわが寄ることとなった。
|