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翌朝からは予想通りスリザリンとレイブンクローからは非難めいた目を向けられ、ハッフルパフからもざわざわと囁かれる。ある程度セドリックが抑えているものの、やはり一番数が多い寮。そう全員を抑え込むのはできないうえ、逆にセドリックに対しても反発する生徒も出ている始末だ。
ヴォルが吹っ飛ばされたことを知らない生徒からはあいつがやったに違いないといわれ……事情を知らないハッフルパフの寮監スプラウト先生や難しい顔をしたレイブンクロー寮監のフリットウィック先生のあたりもほんの少し悪くなる。
「今夜ちょっと話し合いに出てくる。透明マントを着てハリーも来てほしい」
昨日の今日だが、とヴォルは自分に落とされた手紙を手にし……ひどく憎々しげな顔でジロリとダンブルドアを睨む。うん、と頷くハリーはじっとヴォルを見つめるとその頬に口付けを落とした。
「ヴォル。ヴォルには僕がいるんだから、そう思い詰めた顔をしないで」
不意打ちを突かれて目をしばたたかせるヴォルはハリーのはにかんだ笑顔にふっと笑い、抱きしめる。朝から本当にこのバカップル……そう漏れそうになるため息を飲み込み、スネイプはちらりとムーディを横目で見た。どうやら魔法の眼は別の方向を見るのに忙しいらしく、スネイプの眼に気が付いてはいないらしい。
二人が危険な男に気が付いておらず、ダンブルドアでさえ出し抜いている。このことが彼にとっては自信となり、慢心を招きやすくする。幸い、スネイプとカルカロフにとってはムーディは警戒すべき相手だと、過去の因縁から関連づくために態度が多少変わろうとも、闇祓いと対立していた関係からくるものだと、そう思うだろう。マクゴナガルに至ってはムーディが知らない相手だ。いや、かろうじて学生時代に教えを受けていたはずだが、果たしてあの男が覚えているかどうか。
バグマンはあの後、ダンブルドアから何度も話を受け……しばし固まった後ハリーに困ったことをしなければ問題はないんだな!?と確認して満足している。かつて知らずに情報を流してしまったという事で尋問されたと聞いたが、自分に興味がないこと以外への関心が酷く薄いのではないか、とスネイプはため息をついた。
マダム・マクシームは特に変わりはない。カルカロフはすっかり臆病風に吹かれているが、逃げ出そうにもすでに観測されている以上、あの闇の帝王だった青年から逃げることは不可能だ。幸い、ビクトール=クラムに人望があったようで、ダームストラング校はおとなしい。
問題は……スネイプはげんなりとした様子で自分の皿を見た。ポリジュース薬の材料が今年は盗まれ続けることが確定しており、それを怪しみながら犯人は誰かと目を光らせ、うまいこと犯人を逃し続けなければならないという事が決定していることだ。
知っているがためにダンブルドアからはこれが終わった暁には、今まで高価すぎて購入できなかった魔法薬の材料を工面する、と約束を得たため入手困難な材料のせいで研究が進まなかった魔法薬に手が届くという事がせめてもの慰めだ。盗まれたという事に気が付いてからは毎週のように在庫を確認し……発注を行い……。まだヴォルデモートのそばでスパイをしていた方がましだったのではないか、とそんな妄想さえ浮かんでしまう。非常に、非常に厄介だ。
夕方になり、透明マントを着たハリーはナギニと共にヴォルの後ろをついていく。あの魔法の眼では透明マントでさえ効果がないらしいが、代表選手になってしまったハリーが話し合いに行く姿を関係者以外に知られないようにするため、らしい。
やってきたのは必要の部屋で、ヴォルがノックをすると扉付近にいたらしいスネイプが開ける。さも当然のような態度で入るヴォルにこめかみを引きつらせるスネイプだが、閉めた扉の前に現れたハリーに、これをどうにかしろと言わんばかりに睨みつけた。そんなこと言われても無理です、と肩をすくめて見せるハリーは既に待っていた他の代表選手らに遅れてすみません、と声をかけた。
「さて、集まってもらったのは他でもない。5人での話し合いの末、方針を固めたため、集まってももらったんじゃ。まずは基本的な方針について、クラウチ氏から説明を聞くように」
こんなところに呼び出して申し訳ない、と言いながらダンブルドアは3校長と実行委員の2人と共に決めたことがあると声を上げる。この部屋はムーディであってものぞき見できない様になっている、というダンブルドアにヴォルはちらりとハリーを見た。
「今回、ゴブレットについては錯乱魔法をかけられたことで、本来ありえないはずの誰もいない枠を設けられた。そのために今はしかるべき部署にて修理を試みている。だが、魔法道具による成約は正常に機能しているという見解から、ハリー=ポッターは4枠目の選手として出場することは免れない」
息子のことがあってなのか、昨日の今日というのに3年間放浪してきたんですか?と聞きたくなるほど憔悴した様子でクラウチは口を開く。今日はあの護衛の女性も一緒のようで、ヴォルを興味深げに見ている。どうやら彼がどうしてここにいるのか、という風だが、ハリーとつないでいる手を見て、口をつぐんでいるようだ。
「詳細は競技そのものへの不平等を招かないためにも明かせないが、最後の種目は過去にあったように競争となる。第一の課題、第二の課題についてはミスターポッターも同様に行うが、ミスターポッターを代表選手にしなければならなかったことから、何か罠を仕掛けている可能性を考えた。第三の課題だけは、公式記録にも残ることからも、他代表選手に危険がない様策を講じることとする」
それ以外についてはこれまで通り、本人は否定しているが出場することになった異例の4人目の代表として接してほしい。そう締めくくるクラウチにセドリックは気づかわし気にハリーをちらりと見た。第三の課題だけは仕方ないが、それ以外で誰にも負けないよう頑張ろう、とやる気を出すハリーに、今回は極力手を貸さないが必要な時はいつでも俺様を頼るといい、とヴォルはハリーを抱きしめている。
「ハリー、君もいやいやながら出場することになった、という体を見せねばならんが、大丈夫かな?」
うんざりするスネイプらと違い、ニコニコと微笑むダンブルドアにそう問いかけられ、ハリーはヴォルを見た後、はいと頷いた。
「大丈夫です。ヴォルと僕の将来がかかっていますし、何より……誰になんと言われようと、思われようとも……僕を信じてくれる人がいるってわかっていますから」
だから、演技することも問題ない、と言い切るハリーにさすが俺様のハリーとヴォルが額に口づける。この人たちいつもこうですか、とセドリックに尋ねるフラーに、セドリックは苦笑いして頷いた。クラムはクラムで噂どまりだったカルカロフの死喰い人が肯定され、ヴォルと共にやんわり距離をとっている。もしかしたら家族の誰かが死喰い人の被害にあっているのかもしれない、とハリーはヴォルの手を握る。
「それではそのようにしましょう。いやはや、すでに訳が分からない事態になってしまったが、とにかく競技は続行という事で。うん、これはまた不思議な状態だ」
何とも不思議だ、というバグマンは先ほどからヴォルの方は見ないようにしている。状況を理解したうえで危険なものから離れておこうという意図を感じ、ハリーはむっとして……ヴォルを見た。どうした?と口づけるヴォルにハリーは顔を赤らめて何でもない、とプイっと顔を背ける。
あぁもうこのバカップルが、と顔をひき戻すヴォルとハリーのやり取りに、思わず心の中で呟くスネイプは正規の選手らに目を移した。
彼らは彼らで切り分けているようで、きっとうまくいくだろう。とりあえず2つの試練は彼らもポッターも実力でどうにかしてもらうしかない、とスネイプはそれよりもあの馬鹿の牽制で出てくるだろうけが人にため息を吐いた。
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