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「それで、策を練らねばならんの」
 話は戻るのじゃが、というダンブルドアに、もっと早く軌道修正してくださいとマクゴナガルはため息をこぼした。
「俺様が提案できるのは一つはこのまま奴を捕まえて、すべて吐かせること。もっとも、本物の命はまぁ低いだろう。もう一つは……本当はハリーを危険な目に合わせるなど言語道断なのだが、このまま競技を行う。そのうえで……確か過去の資料によれば最後は競争系の種目が多い傾向があり、点数による優劣ではなかったはずだ。であればその時にまた別の策を講じるとして、そのまま行うのだ。そして、今回の首謀者どもを一網打尽にする」

 本当にハリーは出したくはないがな、というヴォルにずっと黙っていたクラウチはそれならばゴブレットの制約には引っかからないだろうという。
「詳細は言えないが、確かにその傾向が強い。最後の種目に関しては十二分に協議することとして、あれの……息子の性格を鑑みれば嵌められたように見せかける方がいいだろう」
 あのきりっとしていた風貌はどこに行ったのか、うつむき加減のクラウチにヴォルは頷く。それでなるほどと頷いたのはセドリックだ。相手を油断させるためにもわざと泳がせた方がその背景にいる人物らも捕まえられるだろう。だが、それには……。

「きっとハリーが不正をしたと学校中が騒ぐんじゃないのか。それに、聞いた話ではこれは予言者新聞にも載るという話だ。全然知らない人から……悪意とか向けられるんじゃないかって僕は思うんだけど。ハリー大丈夫かい?」
 僕らはここで共有したから大丈夫だけども、というセドリックにスネイプは仕方あるまいという。既に胃に高負荷がかかっている、という顔でヴォルを見る。

「各校生徒においてはそれぞれバレぬよう、怪しまれぬようもっともらしいことを言って宥めてくれればいい。ホグワーツは……その嫌がらせをするであろう生徒らのケアと、保護に全力を注がねばならない」
「えぇそうですわねセブルス。可能な限りは抑えますが……例年のことを思えばあまり効果はないでしょう。薬の準備等はお願いしますわね。こちらはポピーに常に医務室が使える様に進言しておきます」
 もう慣れた、という寮監二人のげんなりとした顔にセドリックはハッフルパフの生徒らには抑えるよう十分言っておきますという。今からスリザリンとレイブンクローあたりの生徒が医務室通いになる未来が見えた気がした。

「僕は大丈夫だよヴォル。でも多分ハーマイオニーにはばれると思うから、協力を仰ぐためにも話していいかな。ロンは……呪い系がよく効いてしまうから……。我慢する」
「あぁそうだなハリー。それがいい。だが忘れないでくれ。俺様が一番ハリーのことを思っているし、この案を考えたのは俺様だという事を理解している。ダンブルドア、これで奴らが一掃できた暁には俺様とハリーが住む家を用意しろ。いいな」
 がんばるよ、と瞳を強く輝かせるハリーに自然な動作でヴォルは口づけ、至近距離で見つめあう。じろりと目だけを動かしダンブルドアを睨むヴォルに、ダンブルドアはわかったとニコニコ微笑みながらうなずく。
 そろそろムーディが戻ってくるかもしれないとヴォルは蛇になり、ハリーの服に潜り込む。また会議はおって話すこととなり、あまりの展開についていけていなかったバグマンはあとで説明しようとダンブルドアは代表選手らに戻るよう伝える。


 誰もいない廊下を歩くセドリックはとんだ一年になりそうだな、と隣を歩くハリーに声をかけた。ヴォルは周囲を警戒してか、蛇のままハリーの服の中に潜んでいる。

「本当に。そうだ、ヴォルにも言うけど、ちゃんと僕が向き合って競技に出るから、過度な助言とかはもらうつもりはないよ。僕はちょっと状況が違うけど、正々堂々頑張ろう」
 きっぱり言い切るハリーに服の中のヴォルは何か言いたげに身動ぐ。セドリックはそうか、と笑い、じっとハリーを見た。

「三大魔法学校対抗試合で成果を出せるぐらいじゃないと相方に追い付けないってことかな?」
「そう!ヴォルはいらないっていうかもしれないけど、やっぱり胸張って一緒にいたいから。それに、もしヴォルが暴れたら僕が抑える。そのためにはヴォルの実力に近づかなきゃ」
 セドリックの言葉にヴォルはどういうことだと首を傾げ、ハリーの言葉に悶える。今すぐ戻って抱きしめてキスして潰したい。落ち着てヴォル、と宥めるハリーだが、ヴォルが大興奮中であることはなんとなく伝わり……顔を赤らめる。

「それじゃあ。ヴォルにはハリーの体、大事にするようにって伝えておいてくれ」
 僕はここでと別れるセドリックに襟元から顔をのぞかせたヴォルはわかっているばかりに小さくうなずいた。どこかでムーディと遭遇する可能性も考え、足早にハリーは寮に戻り……割れんばかりの歓声で持って迎えられる。もみくちゃになる前に素早く服から出たヴォルはハーマイオニーを探すと手招きをして部屋の隅へと行く。

 手筈通りハーマイオニーに作戦を伝えると、そんなのだめよと声を上げた。俺とてほかに策があればそれをする、と答えるヴォルにハーマイオニーはため息をこぼした。このままでは何度も同じことが起きる。だからこその策だが、ヴォルが大暴れしないかが不安だ。

「だがこれで一掃できるのであれば、今後のことを考えずに済むのは正直助かる。それに、ハリーもまた俺様の隣にいるのに自信をつけたいと。そう言ってくれた。ロンは呪いの類に非常に弱い。安全のためにも今回の話は内緒にして欲しい」
 あの夢のこともあり、警戒するヴォルに一理あるけどやっぱり無謀よ、とハーマイオニーは困惑気だ。こればかりはハリーが了承したのだから、と発案者でありながら難しい顔をするヴォルに、ハーマイオニーはあきらめるようにわかったわと返した。
 ロンについてはそもそも知らなければ呪いをかけられるようなこともないだろう、とハーマイオニーも納得するようにして……今のロンを思い浮かべて大きなため息を吐いた。

「種目については通常通り行い……最後の種目がタイムを競うような競争物であればいい案がある。ロンは……この話が出てからよくわからないが嫉妬のような、劣等感のようなものをたびたび感じてきた。何を言っても無駄だろう。あちらからこちらに歩み寄らねば今後もずっとこの繰り返しになるだろうからな」
 ハリーのためにも案はある、というヴォルはハーマイオニーのため息から今のロンを想像し、無駄だと首を振った。こればかりはどうにもならない、というヴォルはハリーをそっと見る。僕が入れたわけじゃない、というハリーは本心からの言葉だ。それと同時に、誰かが入れたに違いないという姿勢を見せることで偽ムーディにこちらが正体に気が付いているという事を勘付かせないための策でもある。

 長年ヴォルと一緒にいるハリーにとっては説明などなくともヴォルの考えることはわかっており、事前の打ち合わせがなくともハリーはどうふるまえばいいのか、ヴォルの案を聞いたときから考えていた。だからハリーは自分じゃないと声を上げ、誰かが入れたんだと一生懸命声を上げる。
 嫌な視線も、好機の視線も……ハリーは目をつぶる。危害を加えるような生徒がいないのだから、こんなの気にしなくても大丈夫。そう思ってヴォルに視線を送ると、ヴォルもハリーがどう考えているのか、手に取るようにわかり自然と近づいてハリーの名前を入れ奴を見つけたら八つ裂きにしてやる、とハリーに囁いた。

「ヴォルじゃないのかい?」
「俺は吹っ飛ばされたとおりだからな。ハリーが入れてないというのであれば俺はそれを信じる。犯人を見つけた証には……何か動物に変えてはく製にしてしまおう」
 上がった疑念の声にヴォルはハリーを見つめたまま見ていただろうと言い、ハリーを抱きしめる。ヴォルの宣言にヒヤッとしたものがグリフィンドールの談話室に流れ……そろそろ寝ようとヴォルはハリーを促した。

 部屋に行けば談話室にいなかったロンがいて……睨む様なそんな目でハリーを見る。ヴォルのそばにいることで何度も経験した嫉妬の眼。ハリーは寄り添うヴォルの手を握り、だから僕が入れたわけじゃないと声を上げた。

「誰も言わないからさ、どうやって出し抜いたんだい?それともスナッフルズに頼んだんじゃないのか?」
「スナッフルズは特定の場所と時間でしかアニメーガスを解いてはいけないって、夏休み前に言われていたじゃないか。それに、ヴォルが反対するだろうにそんなこと勝手にするような人じゃない」
 出たかったんだろう、というロンは不正の方法を教えて欲しいと言う。だから僕じゃない。誰かが勝手に入れたんだ、とハリーは声を上げる。

「ハリー、ロンに何を言っても全部ひがみにしか聞こえないから、相手にするだけ無駄だ。僕のハリーにそんなことを言うのであればハリーに近づかないでくれ。酷く不快だ」
 ハリー、こっちにおいでとハリーを引き寄せるヴォルはきっぱりロンにそういうと天蓋をひいた。ほっとするハリーを抱きしめ、口づける。わかってくれるかな、とつぶやくハリーにヴォルはそうだといいな、と隙間なく抱きしめあい……眠りに落ちていった。
 
 




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