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 そして時間は過ぎていき、発表を控えた晩さん会の時間となった。ブスっとしたスナッフルズはやってきた生徒やとやりあったのか毛並みがぼさぼさになっている。
「ホグワーツは誰になるんだろう」
 上級生で分かるのは戦ったことのあるセドリックやクィディッチの先輩であるアンジェリーナ達ぐらいで、あとはわからない。そういうハリーに楽しければいいんじゃないのか、とロンは肩をすくめ、グリフィンドールから……アンジェリーナあたりが行くといいなという。誰もが上の空で食事をし、その時を待つ。
 やがて金の皿がきれいになるとダンブルドアが立ち上がった。

「さて、ゴブレットはもう候補者を決めた様じゃ。選ばれたものはこの奥の小部屋で指示を待つように。さぁもうあと一分ほどじゃ」
 そういってかぼちゃのランタン以外の明かりをすべて消し、青白い炎を載せたゴブレットを見つめる。ぶわりと赤い炎になると何かを吐き出し、それをダンブルドアが手に取る。

「ダームストラング校からはビクトール=クラム!」
 はっきりとした言葉で告げられた名に歓声が響きわたり、さすがだという声が上がる。その中をいつも通りの様子で立って歩いていくクラムが小部屋に消えるころ、再び炎が上がりダンブルドアがまたそれを掴む。

「ボーバトン校からはフラー=デラクール!」
 立ち上がったのはヴォルがヴィーラの血をひいていると言っていた生徒で、当然よ、と自信満々な顔で立ち上がり歩いていく。クラムのように同じ学校の生徒からの歓声が割れんばかりという事はなく、選ばれずに泣いている生徒もいた。

「ホグワーツからはセドリック=ディゴリー!」
 高々と読み上げられたホグワーツ代表に、ハッフルパフからは歓声が上がる。足早にいくセドリックを拍手で送り……。


「ゴブレットの炎が消えない」
 緊張をはらんだ声でヴォルが呟くと同時にゴブレットは再び赤く燃え上がり、そして消える。手に取ったダンブルドアは信じられないように目を見開き、警戒する目をしたヴォルを見て、きょとんとした様子のハリーに目を移す。

「ハリー=ポッター」
 読み上げられた名にハリーが驚くと同時に何かが服の中に潜り込む。
『ハリー、行くしかない』
 シュー、と蛇語で話すヴォルにハリーはぎこちなくうなずき、促されるままに小部屋に向かう。痛いほどの視線に何がどうなっているんだ、と考えるが今はヴォルの言う通りに動いた方がいいと急いで小部屋に入った。

 中で手持無沙汰にしていた3人の生徒はハリーが入ってきたことに何か伝言があるのかと尋ねた。大広間からは何か騒々しい声が聞こえ、ダンブルドアやマクゴナガル、スネイプからムーディまでもがやってきて、ひどく怒った様子のカルカロフとマクシーム、そしてひどく不機嫌な様子のクラウチとどこか面白そうなそんな様子のバグマンが続く。

「ホグワーツから2名だなんて!!規定違反だ!」
 わめくカルカロフにマクシームも大きな体を更に膨らませて憤慨する。どうすれば、と身を縮ませるハリーだが、手に毛の感触を覚え足元を見下ろした。どこか気づかわし気な様子のスナッフルズに一息ついて、僕は入れていませんと声を上げた。

「明らかにゴブレットの様子がおかしかった。アラスター、誰か細工をしたやもしれん。外部からの侵入などがないのか、アーガスと共に見回ってきてはくれんかな」
 この場においてバグマンは仕方ないが、これ以上怒りを抱えたものの正体を広めるわけには行かん、とダンブルドアはムーディに指示を出す。錯乱魔法でもかけられていたのかもしれない、と引き受けてムーディは小部屋を出ていく。さて、と向き直ったダンブルドアはいつの間にかハリーの隣に立っていた青年に目を向けた。

「ダンブルドア!!さんざん俺様が忠告したのにこのざまか!魔法道具による制約は覆すことなどできん!そこにいるバカ犬もなぜ防げなかった!!揃いも揃って……この愚か者め!!」
 びりびりとした圧をまき散らしながら怒鳴る赤目の青年……ヴォルに人となりを知っているはずのセドリックでさえ本能的な冷や汗を覚える。初めての人は更に感じるだろうと考え……セドリックは酷く蒼い顔をしたスネイプとカルカロフに目を止めた。

「わしとて万全は尽くした。じゃが、まさかこのような手段とは。それと、ゴブレットを調べたところやはりおぬしの名前も入れられていたようじゃ」
「俺が目を離したのはほんの3分だ!どうしてもその……手洗いをだな。巡回中のムーディがその間傍にいたが……まさかムーディがやったというのか?そんな馬鹿な話が」 「言い訳など聞きたくはない。犬ならそこらへんでして来い!!だが、やはりあれが……。説明の時間が惜しいな」
 犬の姿から人の姿に戻ったシリウスに、それまで表情があまり変わらなかったクラウチは驚き、バグマンはあんぐりと口を開けた。何が起きているのか、マクシームは警戒するようにフラーをすぐ守れる体制をとり、カルカロフは近づいてきたヴォルを不審げに見る。シリウスはできるか!と返し、マクゴナガルがそんなことした暁には毛を全部そり落としますという。  ぱっと動いたヴォルの手がカルカロフの左腕を掴むと、なんだといぶかしむカルカロフは突然襲い掛かってきた痛みに思わず呻き、その場に崩れ落ちる。

「お前への説明はこれで十分だろう。かつて、ポッター家を襲撃したヴォルデモートはハリーの母であるリリー=ポッターのかけた魔法により赤子の姿となった。そして、そこの爺によって俺様はハリーと共に育てられ、そしてここに戻ってから記憶を取り戻してきた」
 めんどうな、というヴォルが急に語り始めた内容にセドリックやフラー、そしてクラムは思わず思考が止まり、え?と問い返す。大人も例外ではなく、闇の印の痛みと彼から漂う風格に恐怖を通り越したカルカロフと息子関連で聞かされていたクラウチ以外は目をしばたたかせるしかない。


「俺様がヴォルデモート本人だという証拠はそこで悶絶している、俺様の元部下である死喰い人と、息子を取り逃がした役人がそうだ。ダンブルドア、本物はどこにいるかわかるか。ポリジュースを飲んでいるとみて間違いない。こんなことするのはクラウチ、お前の息子ぐらいだ」
 あれは偽物だろう、というヴォルの言葉に驚きを隠せない。ダンブルドアでさえも驚いた様子でアラスターが?と問いかける。

「ずっとあの気持ち悪い視線が気になっていた。あの魔法の眼で俺様が二重に見えているのであれば訝しむ視線はわかる。だが、奴はなんというか……とにかく気持ちが悪くなるような、そんな目だ。そう、崇拝者の眼。特にお前の息子はベラと共に俺様を崇拝するかの如く信望していた。今の俺様はかつて闇の帝王としていた時とは違う。だから、俺様の中にある闇の帝王時代の俺様を奴らは探っているのだろう」
 まったくはた迷惑な話だ、と吐き捨てるようなヴォルの言葉にクラウチは顔を曇らせた。なるほど、と感心するようなダンブルドアに耄碌爺めが、とヴォルは睨みつける。

「でもぉ、あなーたが本当に闇のていおーであったとしても、ハリー=ポッターとの仲が分かりません」
 訳が分からない、とフラーとマクシームは苛立つヴォルを宥めるように寄り添うハリーを見て、訳が分からないという。それに関しては本当にどうして、と頷きたいマクゴナガルとスネイプだが、ヴォルはそんなのたった一つの理由しかないと言い放つ。

「ハリーが……かつてまだ記憶のないうちに様々な嫌がらせをしていたはずの俺を幼いながらに必死に看病し、無償の愛をくれた。ただそれだけだ」
 ただ一人ヴォルをヴォルとして見て、そして見返りのない愛を注いでくれたのはハリーだった。同じ環境下でもヴォルはうまいことすり抜けていたため、ハリーが同じ境遇の相手がいなくなることを恐れて看病したわけじゃないことはわかっている。

「そうじゃな、おぬしにはそれが決定的に足りず、欠けておった。協調性もない、あくまで自己の欲を満たすためだけだったのが、本当に変わったようじゃ」
 それがなかったからあれだったの?と闇の帝王最盛期を知っている大人は全員何とも言えない顔になり、カルカロフはちらりとスネイプを見る。そうだ、と頷けばカルカロフは左腕を見下ろした。

「何か言いたげだな、イゴール、セブルス。あの当時独身だった者たちは大体俺様と同じく愛だなんだかんだが決定的に欠けている者ばかりだったと記憶しているが?」
 ひねくれまくった挙句捻じれていたのはお前だったな、というヴォルの視線に思わずスネイプは目をそらす。愛だとかを考えるでもなく、ただ強いものについていくだけであったカルカロフも心当たりがあるのか視線を逸らす。

 思い当たることがあったのか、さらに顔を曇らせるクラウチをみて、死喰い人ってさぁ、と憐れむ様な残念なものを見るような目でマクゴナガルやシリウス、そして各生徒とマクシームは心当たりがあるような3人を見た。


「ヴォルを含めて闇の勢力って、ものすごく根暗だったんだね」
 思わずという風にポロリと呟くハリーに4人が撃沈していく。えぇ何でクラウチさんまで?と相方を放置するハリーに俺様のハリー、最近強くなった、とどこか嬉しそうなヴォルは息子のことが大いに心当たり有りまくりだったんだという。
 夏前のひと悶着の際、迷わずピーターを動けなくしたうえで、人狼を配置し、物理攻撃の一切きかない影のようなジェームズを置いて見張りに名付け親を置いて……。ハリーに蛇野郎の悪影響が出ている、と落ち込むシリウスはハリーはこんな子じゃないはず、と落ち込む。

「いや、ハリーは割と昔から脇から刺してくるぞ。ダドリーがハリーを殴ろうとしたときも避けた後転んだダドリーにもうちょっと痩せるかそのお腹を筋肉にしないと当たらないよ、と言い放ったのを迎えに行った時に見た」
 悪気も何もないところがまた可愛い。そう宣うヴォルにハリーはえぇっと抗議の眼を向けたが、なんとなく言わんとすることが分かった気がして、ヴォルに憧れていたからという。
 ハリーと一緒にしたことはある意味よかったことではあるが、その代償というべきか。教育に悪すぎる相手がそばにいたせいで、悪影響が出ている。あの時赤子を置くダンブルドアを見ていたマクゴナガルはどうするのですか、とダンブルドアを見た。

「いつも虐めてくるヴォルが酷く参っていて……僕が助けなきゃって。なんだか放っておけなくていつもそばにいたから。ヴォルが約束してくれた時、すっごくうれしかったんだよ」
 だからヴォルがヴォルデモートであったのを知り、ヴォルもその記憶を取り戻しても……僕にとってはヴォルはヴォルなんだ、とハリーはにこりと笑う。
 一体何を見せられているんだ、といちゃつく……元闇の帝王の青年と、それによって両親を失ったはずがどういうわけかそれを受け入れている英雄の青年。その二人にある程度知ってはいたはずのセドリックを筆頭に、理解が追い付かないフラーとクラムは無の表情でやり取りを見つめていた。
 
 




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