------------


「でもヴォル、一応マルフォイの家は貴族なんじゃ」
「あんな本屋で、気に入らない相手とつかみ合いの喧嘩をして、バカみたいな方法を使ってダンブルドアを更迭しようとして失敗し、息子の実力を本当に信用しているのであれば息子にだけ買えばいいものを、チーム全体に買う財力を示したいマウント行動。俺の知っている貴族象とかけ離れている」
 一応あれでも純血の代表みたいな奴なんじゃないのか、とハリーは首をかしげる。ヴォルは上機嫌のままにこやかに……話の内容と声のトーンが爽やかじゃない、とハリーが思わず身構える風に答えた。そういえばそんなことしていたなぁと思い出すハリーにとっては懐かしい話だ。

「あ、うん。貴族じゃない。生活だけ貴族の中身荒くれものだ」
 あんなの貴族じゃないだろう、というヴォルにハリーはそうかもと笑い、デザートが消え、ダンブルドアが立ち上がるのを見て居住まいを直す。こそっと横を見て、なんだかヴォルの方が貴族っていう気がする、とハリーはロンのドレスローブを着たヴォルを思い浮かべた。どうしたんだハリー?と振り向くヴォルに何でもない、と笑いかけて……あれ?といつの間にか来ていたルード=バグマンとあの日以来見ていなかったクラウチが来ていることに気が付いた。

「さっき二人がいちゃいちゃしているときに来たのさ」
 本当に気が付いていなかったのか、というロンにハリーは素直に頷く。見知らぬ派手な髪色をした女性が警戒するように控えている。
「闇払い付きか。護衛と逃走防止の見張りだろう」
 息子に命を狙われるなんてな、というヴォルにあれが闇払い、とハリーはその女性を見る。視線に気が付いたのか、女性はハリーを見ると親しみを込めた目でにこやかに笑う。思わずこんにちは、と小さく頭を下げると女性はまた微笑んでクラウチが動いたことに目を向けた。

 ダンブルドアの挨拶は三大魔法学校対抗試合の説明と、宣言だった。そして……運ばれてきた箱を開けると蒼い炎を携えたゴブレット……炎のゴブレットが現れた。

「我こそはと思うものはこのゴブレットに名前と学校名を記載した羊皮紙を入れるように。17歳に満たぬものの申請はできん。ここに年齢線を設けておる。もし資格を持たぬものが来た場合この線を越えることはできんのじゃ。たとえどんな力があっても、じゃ」
 ゴブレットを取り囲む光る線を示すダンブルドアは、ヴォルをちらりと見えると悪戯っぽく笑う。不快気なヴォルはじっとその線を見つめ……あぁ、と低く声を出す。

「あれ、17歳から60歳までの年齢制限をつけているらしい」
 だからダンブルドアも近寄ってないというヴォルになんで?とロンは首をかしげる。
「ヴォルって今14だろう?」
「いや、肉体年齢は確かにそうだが、あれは中身の年齢を判断する。ふけ薬を飲んでも中身の年齢ではじくようになっているんだろう。普通は上限を設けないぞ。ややこしい魔法になるからな」
 俺様の中身はずっと加算されている、と説明するヴォルにロンはハリーとヴォルを見比べ……歳の差カップルだったのか、とつぶやいた。ふん、というヴォルは興味がなさそうだが、ハリーはその彼が一番気にしていることを知っているだけにくすくすと笑う。


 寮に戻る道中、どうやったらあれを出し抜けるのか、とフレッドとジョージが話しているのを聞き、ハリーは何となくヴォルを見る。どうした?と振り向くヴォルは全く大会に興味を示しておらず……そっとハリーの耳元に顔を寄せた。

「クィディッチがない分、もっと激しく、もっと深く愛しても問題はなさそうだな」
 自分はただハリーを愛せればいい、という風なヴォルの言葉にハリーの顔は赤く染まり、ぺしっと肩を叩く。それに対しヴォルは上機嫌に口角を上げてハリーを抱きしめる。

「あの二人……来年以降とかもうどうなっちゃうんだろう」
 もうなんか年々パワーアップしているというか距離が縮んでいる気がする、とロンのつぶやきに周囲にいた2年以上の生徒はうんうんと頷いた。重なるほどの距離と言いたいがもうすでに手を出されているらしい会話から、そのうちなぜか一人増えていても違和感ない。
 それも在学中に。不健全なのか一途で健全なものか……その判別はつかないが、一部の生徒にはこのラブラブっぷりがまぶしいものであることを渦中の二人は知らない。
 そのおかげか、それに充てられてか、去年あたりから健全かつ誠実な恋愛を送る生徒と、卒業後の結婚確率が高くなっていることは現在卒業生と恋愛している生徒や、カップルらに静かに知れ渡っている。


 翌朝、ゴブレットに名前を入れるためにボーバトン校とダームストラング校の生徒が並び、順番に名前を入れていくのをホグワーツ生は見守る。フレッドとジョージの目論見は、ヴォルが言っていたようにふけ薬をもってしても弾かれ、髭を生やした二人は笑うしかない。

「本当にヴォルとか入れられないの?」
 あの二人弾かれていたけどさ、というロンの言葉にヴォルは無理だな、という。ハッフルパフのキャプテンであるセドリックらが入れたと聞き、皆の興奮が高まる中ホグワーツ最強の生徒はダメなのかという視線も煩わしい。
 ダメに決まっている、とため息をついたヴォルはハリーにナギニを渡すとその線を踏み越えた。一瞬何もなく、やっぱり規格外すぎるから、と囁く声が上がると同時にフレッドとジョージ以上の力で弾かれ、壁際まで吹っ飛ばされた。

「あのくそ爺!!俺様が名前を入れるわけないだろう!!念のためにしては度が過ぎるぞ!あの老いぼれめ!!」
 ふざけんな!とキレるヴォルにちょいっと期待していた生徒や、痛い目を見てざまぁみろと思っていた生徒は一目散に散っていく。ヴォルデモート時代の口調にたまたま遅れてきたスネイプは引き返し、いったいなんだと見守っていたカルカロフは無意識に左腕を抑える。一人だけ複雑そうな顔をするムーディはヴォル青年を宥めるハリーに目を移した。

 聞いていたダンブルドアだけはにこにこと微笑み、さて何のことかのととぼける。今日も来ていたクラウチはファッジなどから聞いたのだろう。何か言いたげな顔で頬をぴくぴくと震わせていた。

「そうじゃ、昨晩来たものはいないじゃろうが、ゴブレットの受付が終わるまで、このものが見張りをしておる。ミスターセルパン並みに沸点の低いものじゃから、あまり過度ないたずらはしないよう」
 声を張り上げるダンブルドアの足元にはいつの間にいたのか、黒い大きな犬が生徒を見回すように座っていた。スナッフルズと紹介されるとどこか得意げな様子でのそのそと歩き出す。まさかこんな大役を任せたものだ、とヴォルは興味深そうに見つめ、ハリーは嬉しそうに小さく手を振って見せた。

「無職のぼんぼんがやっと仕事を見つけたのか」
 ぼそっとつぶやくヴォルに思わずロンが笑い、ハーマイオニーは呆れたようにスナッフルズを見る。犬の聴覚で聞こえたのか、唸るように吠えるとゴブレットの周りをうろうろと歩き出した。

 
 




≪Back Next≫
戻る