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十月に入ると大広間に貼りだしがされ、30日に三大魔法学校対抗試合の為にボーバトン校とダームストロング校から生徒が来るという。
「ようやくか」
本格的に始まる三大魔法学校対抗試合に向けての準備にヴォルはフーンとしか言わない。興味ないな、と立ち去ろうとして、再び張り紙を見るヴォルは大きく舌打ちをした。どうしたんだろう?とハリーが目を向けると、おそらくは何も事情を知らない魔法省の役人の誰かが推したのだろう。通訳協力にヴォルの名前が書いてある。
「俺がなぜ自分で学ばないやつらの面倒を見なければならないんだ」
眉を寄せるヴォルにロンは多分親父だ、と目をそらす。あのワールドカップの時にヴォルに尋ねていたからきっと何事も経験だ!と善意で推したのだろうが、この闇の帝王に経験とかもういらないんだよなぁ、とハーマイオニーと目配せをする。
「でもあの時、ヴォルがフランス語話している姿、なんかドキドキしちゃった。だからそれがまた見られるのかもって思ったらなんかわくわくするなぁ」
ヴォルが知的にする姿かっこいいから、というハリーにヴォルの意識がぐるんと動く。たまたま近くを通った生徒らが、本当にハリーがヴォルの操縦桿だな、とハリーを抱きしめながら引き受けるヴォルを見る。どこまで計算しているのか、それとも本当に何も考えずにそう思っているのか。真意が微妙につかみづらいハリーの行動に他の生徒らは目をそらした。
「ハリーが示す先が本当に嫌だったならば、俺はちゃんとハリーを引きずって倒して、抱き潰して回避するから。これは別に嫌ではない」
周囲の声が聞こえていたのか、ハリーを抱きしめながらつぶやくヴォルにロンとハーマイオニーは呆れて先に大広間へと入っていく。ヴォルが嫌がること、僕しないよ!というハリーは顔を真っ赤にして返し、もう、と言いながらヴォルの胸元をポスポスと叩く。
それからハロウィンまでの間、ボーバトン校からは女性が多いと聞いたけど、挨拶教えてもらえないか、とどこから情報を仕入れてきたのかわからない生徒らがヴォルを呼び止め尋ねていた。一応ハリーが席を外している時か、逆にハリーを抱きしめて機嫌がよさそうな時に現れる生徒にヴォルは少しうんざりしつつ面倒なことを起こすとまたダンブルドアが出てくる、と一度目に来たものにだけ質問に答える。
ダームストロング校については男子生徒がという女子生徒が以下略とやってきて、しぶしぶスウェーデン語かノルウェー語を教える。
「連日のおかげで僕、どっちでも挨拶できそうだ」
何度も聞けて良かった、と頷くロンは簡単な挨拶を忘れないようにとつぶやく。少し興味があるからと独自に勉強するハーマイオニーに、ヴォルがそれで大丈夫だろうと答えると、女子生徒らはハーマイオニーへと流れていった。
「あっという間に明日になったね。ホグワーツの代表もその時応募するのかな」
なんか緊張する、というハリーにロンは何か思い出したのか、気まずそうに眼をそらす。それを見ていたヴォルは17歳以上であれば俺達には無関係だろうな、とハリーを抱きしめた。クィディッチがないのが残念、とむくれるハリーも出るつもりはない。
「フレッドたちは出られるのかな」
「ダメ、4月なんだ。パーシーが何かの間違えで留年してくれればまだチャンスはあったのに」
冗談めかすロンに戻ってきたハーマイオニーが不快気に眉を寄せる。もちろん冗談さ、と慌てるロンにあらそう?と冷たく言うと明日の最後の授業は何だったかしら、と時間割を見る。
「やった!魔法薬学だ!スネイプの奴、最後に毒飲ませるとかなんとか言ってたけど、絶対に無理だ!」
授業も早く終わるかも、とロンはハーマイオニーの後ろからのぞき込んで喜ぶ。ヴォルとしては魔法史の方がよかった、とため息を吐いた。数少ない寝ない生徒だが、一度覚えれば十分と豪語するヴォルにとってあの時間は苦痛でしかない。眠ったハリーに手を出せないというのが生殺しにもほどがある。
そして2校が来る日の朝になり、そわそわした様子が城中を満たす。間違っても遅れるわけには行かないため、スネイプは簡単なものを作らせることにし、ネビルの失敗が起きる前に杖を振って止める。
「何度言ったらわかるのかね、ミスターロングボトム!」
3回目の注意についにスネイプが声を荒げ、ネビルは小さくなるしかない。そしていつもより早い時間でスネイプが提出して片付けるようにという。
急いで教科書などをしまいに寮にも戻り、正面玄関へと向かった。すでにいる生徒などを整列させるマクゴナガルらに従い、何もない敷地を見ていると誰かが上だ!と声を上げる。皆が指す方法を見れば、12頭もの天馬に牽かれた大きな馬車が空を飛んでいて、まっすぐにホグワーツへと向かっていた。大きな音ともに着地すると、飛び出した少年が踏み台を引き出し、さっとわきによける。
出てきたのは巨大な女性で、ハイヒールは子供のソリほどありそうだ。見た目も身にまとうオーラも威風堂々な女性はきっと初めて見たのであれば畏怖のようなものを抱いていたかもしれない。だが、ホグワーツにはハグリッドがいるため、なんとなく耐性はついていた。
ダンブルドアが拍手をすると、生徒も同じように拍手し女性の手を取り、甲にキスをするダンブルドアを見る。
「ようこそ、ボーバトン校のマダム・マクシーム」
「ダンブリードール!」
おお!とアルトを響かせるマクシームはダンブルドアと挨拶を交わすと、私の生徒です、と馬車から出ていた生徒らを示す。いつの間に出ていた生徒は青い制服を身にまとい、寒そうに身を縮こませていた。
天馬を誘導し、馬車を移動させようと出ていたハグリッドはぼんやりとした様子でマクシームを見つめており、マクシームもどこか驚いた風に見つめ……くしゃみをした生徒に気が付くと暖かいところに行きたい、とダンブルドアに伝える。さっと道を作るホグワーツ生の間を進むと天馬の扱いを伝えなければなりません、と言いマクゴナガルに生徒らを託し、馬車の方へと戻っていく。
「やばいカップルが生まれそうだな」
ついに奴にも春が、とつぶやくヴォルに近くにいたディーンが吹き出し、ジョージがビッグカップルだ、とフレッドとにやりと顔を見合わせる。天馬の取り扱いを伝えているのだろうが、ハグリッドははた目から見ても緊張しているのが見え、天馬を誘導しながら垣根に突っ込んで行く。あらかた伝え終わったのか、マクシームが戻ってきて、そのまま城の中へと入っていった。
「ボーバトン校……フランスの魔法学校ね。すごくおしゃれな制服だわ」
ラベンダーの声が聞こえ、それじゃあ挨拶はボンジュールね、と誰かが言う。
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