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 遅れて夕食の場に来たハリーとヴォルにハーマイオニーとロンは聞かないでおこうと目をそらし、気が付いたヴォルがハリーの襟元を直す。痕つけないでって言った!と思わず声が出るハリーに何人かの女性が無言で悶え、聞こえたらしいマクゴナガルがまた接近禁止にしましょうか、と低い声を出した。

「あの二人は一体どういう関係なんだ」
 思わずという風に尋ねるムーディにスネイプはぐっと口を閉ざそうとして、なぜか見つめてくる魔法の眼に大きくため息を吐いた。
「すべてのジャックにジルはいる、という言葉の意味と理解してもらえれば」
 ジャックジャックだがそれはこの際どうでもいい、と言わんばかりのスネイプにムーディは納得してなるほど、と唸る。

「とはいえ、あの二人の場合ミスターセルパンがミスターポッターに対して激重な思いを寄せているのと、それをまとめて包み込んでいるのかミスターポッターという……はがす方が危険な関係ですね」
 マクゴナガルが捕捉するとムーディが何とも言えない顔で、いちゃいちゃとする二人を見つめた。どっからどう見ても、騒がしく無責任に騒ぎ立てるティーンエイジャーだが、二人の場合は周囲を巻き込んでいるのではなく、二人の空間で渦巻いた後完結している。
 さてどうするべきか……悩ましいとムーディは唸り、ボトルをあおった。

 談話室に戻ったハリー達だが、見慣れない箱を見て何だろうかと首を傾げた。
“普段お世話になっている屋敷しもべ妖精に感謝を伝えよう!”
 と書かれている箱に、ハリーはハーマイオニーを見る。なにこれ?というとハーマイオニーはふふんと胸を張る。

「ヴォルの言うように、私たちの価値観が彼らに当てはまるかというと、とても残念なことに誰もそこに思い当たらなかったみたいで、いい本が見つからなかったのよ。じゃあどうすれば、と思って……前にヴォルからこちらの意識改革から初めて見ては?というアドバイスを受けて、それならとおもったの」
 私たちの思想を押し付けるんじゃなくて、こちらが変われば自然とそういう話も出てくるんじゃないかと思って、というハーマイオニーは悪口は書かないでね、と注意を呼びかけ、匿名でいいのでやってみてと声をかける。

「固まりきってこびりついた考えなどを変える場合は、こちらの意識改革化をはじめ、それから変えていくというスタイルがいいと前にアドバイスしたんだ」
 こういうのを動かすにはあたりに行っても迷惑なだけだ、というヴォルにロンは納得し、屋敷しもべ妖精がそもそもわからない下級生などに説明するハーマイオニーを見る。

「前から屋敷しもべ妖精が欲しいってママが言っていたけど、きっとこういう話だしてそう」
 隠れ穴みたいな狭いところじゃやれること少ないだろうし、というロンにハリーはロンのお母さん優しいからね、と笑う。おずおずと今日のご飯おいしかった、というところから初めて名前を書かずに投函する姿にハリーも書いてみようと羊皮紙の切れ端を手に取った。
 ゆくゆくはほかの寮でも導入したいというハーマイオニーは衣服じゃない装飾品なら受け取ってくれるかしら、と何やら思案している。これで奴らの考え方も少しは変わればいいが、とヴォルはハリーを抱き寄せ、そっとこめかみに口付けた。

 効果があったのか何なのかわからないが、ハーマイオニーが素直に受け取ってくれないかもしれないから、とフクロウを使って手紙の束を届けた日の夕食はいつになく豪華なメニューとなっていた。不思議そうにしているほかの寮生だが、ダンブルドアはどこか嬉しそうで、その翌朝からは大広間の一角にハーマイオニーと同じ箱が設けられていた。驚くハーマイオニーだが、ダンブルドアがウィンクして見せたことで間違えじゃない、と両手でガッツポーズをとる。
 悪意ある言葉などはどういう仕組みか振り分けられ、生徒らのお礼の言葉や小さな要望などが投函されるようになり、一部の寮生はともかく生徒らと屋敷しもべ妖精との距離が少し縮まることとなった。


 それからはいつも通り怒涛の日常で、ハリー達は毎年増えていく課題の量に目を回していた。ムーディは気に食わない、というヴォルはハリーの足に打ち身用の魔法薬を塗るとハリーを抱きしめる。ムーディは呪いに打ち勝つためには実際に受けるべきだ、と言って全員に服従呪文を掛けると言い出したのが発端だ。
 順番に名前を呼ばれ、奇妙な踊りをするクライメイトにハリーはぐっと構え……頭の中で響く声に抗い、机に飛び乗れという言葉を振り切り、中途半端な格好で机に足をぶつけたのだ。

「見たか!ポッターが抗ったぞ!もう一度だ、もう一度かけるぞ」
 何やら興奮気味のムーディがもう一度唱え、勘弁してほしい、とヴォルがきれることと服従呪文による声を天秤にかけ……前に飛ぶという命令に対し、後ろに飛びずさることで抗うことに成功した。

「よぉし!グリフィンドールに10点をやろう!!さぁ次はお前だヴォル=セルパン」
 いいぞ、というムーディに抗い疲れたハリーは喜んでいいのかわからず、あいまいに笑い返し、呪文を掛けられるヴォルを見る。微動だにしないヴォルにさすが、とハリーは喜び、ムーディはなるほどとうなずく。

「完璧なまでの閉心術だ。そう、この呪文に対しては心を閉ざす閉心術が実に有効的だ」
 うぅむ、と唸るムーディにヴォルは何か考える。この感じ、どこかで感じた気がする、と考えるもヴォルの心はいつでも開いているのにすごい、というハリーを見てすぐ忘れる。ハリーに関しては無条件で受け入れているだけに心を閉ざす必要はどこにもない。

「俺様の心の鍵はハリーだからな。ハリーに対してならいつでも歓迎する」
 俺様の心ごとハリーにささげても構わない、というヴォルにハリーは頬を赤くし、僕のもだよという。だから授業中にいちゃつくのやめて、とラベンダーたちも呆れていつものやり取りを見ていた。放置されたムーディが全くの無の顔になっていたが、誰も気が付くものはいない。
 
 




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