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 木曜日になり、話題となっていた闇の魔術に対する防衛術の授業となり、ハリーはどんな先生なのだろうとムーディを待つ。
「どうにもあのムーディとかいうのは俺は苦手だな。なんというか……値踏みをされているような、何か荒がないか探るような気配が……とにかく嫌だ」
 どんな授業をするかなどどうでもよく、人がそもそも嫌だ、というヴォルにロンとハーマイオニーにはそりゃ闇祓いだからじゃないか、と口をそろえる。相手からしたら闇の勢力のボスの気配が始終しているようなものだから仕方ないわ、というハーマイオニーにロンもうんうんと頷いた。

「そう……だとは思うんだが、なんか……なんか妙な感じがする。昔も似たような感情にふれたことがあるが……何だっただろうかと思い出せない」
 何かこう、落ち着かない、ゾゾっとした感じ。と続けるヴォルにあのヴォルデモートが嫌がるって相当なもんじゃないのか、と少し心配になってハリーは大丈夫?と声をかけた。それにヴォルが答える前に扉が開き、こつこつという音を響かせながらムーディが教室に入ってくる。
 教科書はいらないと言い放ち、これまでに習ったことが遅れているとムーディは唸るような声で続ける。

「ダンブルドアからこの一年をと依頼されている。だからこの一年でお前たちを最低線まで引き上げよう。そして、これが終わればまた隠遁生活に戻る」
 この一年、というからには来年からはルーピンが戻るのだろうというのは皆わかっていて、そのために隠遁していた元闇払いを連れてきたのかと納得する。名前を確認させてもらおう、と言って名前を呼び、そのたびに魔法の眼がぎょろりとその相手を見つめた。

「ハリー=ポッター」
 その目がどこか冷たい気がしてハリーは返事をしながら、確かにこの手の人苦手かも、と納得する。
「ヴォル=セルパン」
 最後にそう呼ぶと返事を返すヴォルをじっと魔法の眼が見つめた。よし覚えた、というムーディにヴォルはどこか思案する風で、黙り込む。

「魔法省によれば反対呪文を教えるべきであり、闇の魔術に関しては教えるべきではないというがそれは間違った認識だ。何事も両面を見なくては対策もできるはずがない。され、魔法法律により厳しく罰せられる魔法について誰か答えられるものはいるか」
 何か考えている風のヴォルはさておき、話し始めるムーディは誰か答えられるかと問いかける。なんとなく全員の視線がヴォルに向く中、ロンがおずおずと手を上げた。

「パパから聞いたことがある。服従呪文」
 かつての魔法界で魔法省を悩ませたという呪文を答えるロンに、ムーディはその通りと声を上げ瓶からクモを取り出した。それを見て思わず机ごとひくロンにヴォルはニヤリと笑い、肥大化された蜘蛛が躍り出すのをじっと見る。
『やった?』
『やった』
 短くパーセルタングで話すハリーにヴォルもそりゃもう、と頷いた。踊る蜘蛛を神妙な雰囲気で見るグリフィンドール生に、このクラスはこの魔法の重要性をよくわかっているみたいだな、とムーディは頷く。では次は?というと、何とネビルが手を上げた。

「磔の呪い」
 か細い声で答えるネビルにヴォルはそういう事か、と大きく息を吐いた。苦しむ蜘蛛の姿に誰もが釘付けになる。真っ青な顔のネビルに気が付いたハーマイオニーがもうやめてください、というと解放された蜘蛛はヒクヒクとその身を痙攣させた。


 苦しみを与える呪いだ、というのを聞いて、またクラスの眼がヴォルに集まる。かつて大階段を破壊するまえにハリーを落とした生徒が空中で藻掻いていた姿。あれは記憶に新しく、その時の姿と蜘蛛の姿が重なり、ヴォルをブチギレさせると使うのか、とあの時の恐怖が蘇る。

「聞いた話だが……大広間を破壊した挙句、ある生徒が宙に浮いた際腕が捻じれていたという事だったが……。ミスターセルパン、お前が行ったという話は本当か?」
 ムーディの言葉に激高状態だったヴォルは少し考えて、多分使ったんじゃないかなと思いますと淡々と答える。闇の帝王の息子だ、とホグワーツ中誰もが知っていることにいまさら驚きはしないが、それでも激高すると平気でその魔法を使うことに誰かがぶるりと体を震わせた。

「そんな危険な魔法、もう使わないでよね」
「大丈夫だハリー。ハリーの命の危機に迫るようなことがない限り、絶対に使わないと誓う。それに、あの爺にその手の魔法は制限されているから、激高しない限り使えないだろう」
 安心してほしい、と言いながら授業中だというのにハリーの手を取り、手首に口づける。どうしてこの状況でいちゃつけるのかしら、と呆れるハーマイオニーはどういう表情なのか読めないムーディを見た。

「ハリーに危害が加えられない限りおとなしいので……」
 この程度はいつもの光景なんです、と捕捉するように言う。あぁ、そうだったな、とどこか心あらずな様子のムーディだったが、グイっとボトルを飲み、では最後の魔法は何だ、と問いかける。

「アバダ・ケダブラ」
 誰も手を上げず、静かになるとヴォルが軽く手を上げながら最後の呪文を答えた。かつてハリーの両親に手を掛けた際の魔法。ヴォルの手を握るハリーにヴォルは握り返す。机の舌でのやり取りを見ていたのか定かではないが、ムーディはその通りだと言って蜘蛛にその魔法を放った。その魔法を受けて生きていたのはこの世に一人だけだ、というムーディは魔法の眼をハリーへと向ける。
 ヴォルデモートがかつてハリーを殺そうとして唱えた死の呪い。この魔法だけは本当に危機にならない限り唱えない、と心に誓うヴォルは大丈夫、という風にハリーの指に指を絡めながら強く握りしめる。

 授業が終わるとどこか心あらずなネビルにムーディが話があると言って連れていき、ヴォルはハリーを連れて行った。ちょっとハリーを補充させて、というなり深く口付けるヴォルにハリーはいいよ、と抱きしめ返してしばらく口付けに夢中になる。
 足の力がすっかり抜けて立っていられなくなると、動けなくなった獲物を蛇は丸呑みするように覆いかぶさった。

 荒い息を吐くハリーはヴォルを抱きしめ、深く口付ける。ヴォルに引き込まれたところは箒置き場だったようで、誰かが箒の手入れ用に置いてあった椅子は今ハリーが半裸でつかまっていた。ちょっと止まらない、と気持ちが高ぶっているヴォルをその身で受けながら本当にヴォルってば、と微笑み、仕方ないなとその熱を受け止め続ける。
 こんな人が来るかもしれない場所で、とかまだ夕食前なのに、とか、いろいろ言いたいことはあるが、ヴォルに愛されているという事がなんだか嬉しくて、丸ごと包み込んでしまう。

「ハリー、どうしても大切なんだ」
 だから受け止めてほしい、と言葉に出さないヴォルにハリーはわかっていると喘ぎながら頷いた。
 
 




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