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 その晩はそうだそうだとルームメイトらが驚いたりしないようにと、二人は瓶を二つ取り出した。
「まだ安定しているわけじゃないんだけど、死の呪文を受けた人の影をうつすことに成功して……。それで今、この瓶には僕の両親の影が入っているんだ」
 ふたりに相談したい時などに呼び出しているかもしれないから、と訳が分からない風のネビルらに説明する。ヴォルがヴォルデモートというのは知られるわけには行かないが、ヴォルが普段使っている杖が実は、という話をするとネビルは驚き、シェーマスたちはあんぐりと口を開けていた。

「親族で代々使う杖とかあるからそういうことか……」
「俺も最近まで知らなかった。ただ、直前呪文を使うことでその影を確認したから、ハリーに会わせたかったんだ」
 僕もお父さんの杖を使っているんだ、というネビルにトーマスもなるほどなぁという。ヴォルが最近まで知らなかったという風にすれば複雑だけど杖が悪いわけじゃない、と納得したようでハリーはほっと胸をなでおろした。


 瓶の底を杖で叩くと花開くようにして、リリーとジェームズがそれぞれ噴き出る。おー懐かしいグリフィンドールだ、と喜ぶジェームズにリリーもまた懐かしそうにして、でもこっちは片付いているわ、と笑う。ルームメイトに気が付くと突然現れて驚いたでしょう、と挨拶をし……ジェームズは挨拶をした後は学校は楽しいかい?と尋ねる。

「あー……あの犬と同室じゃ……一緒になったルームメイトは気の毒だな」
 想像できる、というヴォルにジェームズはなんだって?と笑いながら反論し、リリーはハリーにきちんとしているのね、と笑いかける。ヴォルがマメだから僕もつられているだけなんだけど、と照れ臭く笑うハリーは気になっていたんだけど……と口を開いた。

「ペチュニアおばさんとは仲直りできた?」
 ずっと気になってたんだ、というハリーにリリーは困ったように眉を寄せ、そうよねという。夏休みに入って少しして……ペチュニアとバーノン、そしてダドリーに両親の霊がどうしても挨拶したいと言っていた、と言って真っ青になったバーノンらをしり目にヴォルが二人を呼び出した。
 絶対嫌がるだろうというのはわかっていたため、問答無用で行ったのだが、失神しそうなバーノンと違い、ペチュニアは何か言いたげに挨拶するジェームズではなくリリーを見つめていた。

 ジェームズはまた失礼なことを言いかねないから、とヴォルに目配せをすると挨拶もそこそこなジェームズはちょっと待てと怒りながら瓶に消えていき……マグルとしての良識のあるリリーが改めて二人にハリー達を育ててくれたことをありがとうと言う。
 ジェームズが過去に何をやらかしたのかは察したヴォルはため息をつき、ハリーを後ろから抱きしめた。ひとしきり話が終わり、ふらふらと寝室に戻っていくバーノンとダドリーだが、ペチュニアだけがリビングに残っていた。リリーの眼からも何かを感じたヴォルは瓶に魔力を注ぎ込めると朝まで持つはず、と瓶をリビングにおいてハリーと共に部屋へと戻った。
 翌朝、どこかすっきりした様子のペチュニアから瓶を受けとり、それ以降何も聞いていない。


 ハリーをベッドに腰を下ろさせたリリーは姉妹水入らずで沢山話したわ、という。
「ずっと謝りたかった。だから……やっとお互い遠慮なしで話したのよ。ハリーにつらく当たってしまうことについて、複雑な思いを持っているみたいだから……ハリーはわかっているわよね。大丈夫?」
 お互い妻となり母となり……世界も違うために決別してしまったが、ただの姉妹に戻って話すことができたとリリーは満足げにいう。ペチュニアについてはヴォルが昔言っていたこともあり、ハリーはわかっているよと頷いて見せた。

「本当に何が起きるかわからなかったけれども、ハリー、彼を変えたのはあなたの力よ」
 どう育っていくのか、どういう考えをもっていくか。すべてが0からスタートしたヴォルデモートがよもやそんな気遣いを見せるとは、きっと誰もが予想できなかったに違いない。たった一度、一生懸命看病してもらった、その一度が極悪非道の闇の帝王の心を変えてしまった。
 自分はハリーを床で寝させ、自分は一人ふかふかとは言えないが床より圧倒的にましな寝台で眠り……。それなのにハリーは風邪をうつされたヴォルの看病をし、いつも通り床で眠っていた。文句も言わず、ヴォルの看病をして疲れて眠ったハリーの無償の愛にまだ幼かった心は助けられたのだ。
 歪んでいた魂はハリーの優しさと愛によって、依存する形ではあるが、正され変わった。ハリーはそんな大それたことをしていないと思っているが、その彼にとって些細なことこそが大切なことだった。かつて恐れられ、冷遇され、対価を求めるように媚びる者たちが周囲にいたトム=リドルにとって、何も見返りを求めないハリーの優しさが嬉しくて、新鮮で。
 荒んでいた魂が、乾ききっていた荒地に落ちてきた優しい雨が……一瞬にして唯一無二の花を咲かせ、緑地をもたらし水辺を作り上げた。

「そうだ、あのさ……。ヴォルがゴーント家とポッター家の血を絶やさないようにって言ってその……子供欲しいそうなんだけど。魔法薬飲んだ僕が産むことになってもいい……かな」
 もちろんそれは口実で、ハリーが離れないようにしたいというのが本音の半分だろう。それはハリーもわかっている。ヴォルの話を聞いている限り、きっとそれはヴォルの、トム=リドルの母の気質なのだろう。愛している相手の愛を魔法薬で捻じ曲げたというのを聞くと、ヴォルの愛し方に似ている気がしてならない。

「ハリーはどうなの?」
 困った闇の帝王ね、と笑うリリーにハリーは本当にね、と笑い返す。ハリーとリリーがほのぼのと話している間、呼び出したジェームズとおっかなびっくりに話していたはずがなじんできたらしいシェーマスやネビル達と、時折話を振られてうんざりした様子のヴォルがわいわいとやっている。
「僕は……ヴォルが僕から離れなくなるのなら、いいかなって。ヴォルの子供……絶対可愛いだろうし。それに……ヴォルは僕のことを一番好きって言ってくれるから、だから一つぐらい聞いてあげてもいいかなって」
 子供を利用するわけじゃないけど、というハリーに言葉に困った闇の帝王ね、とリリーは口に出さずに繰り返した。彼が光に染まった分、ハリーが若干闇っぽい思想を持っている、と口にも表情にも出さないリリーはいつでも応援しているわ、と透明な手をハリーの頭に乗せる。
 そろそろ寝る時間ね、と先に瓶に戻り、気が付いたジェームズが何か言う前にヴォルが強制的に瓶に戻す。ハリーとリリーが会話できる時間を設けていたヴォルはハリーの隣に座ると何も言わずに抱きよせた。
 
 




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