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 教えてヴォル、というハリーにヴォルはため息をついてからあの夜の話だ、と湖畔を見つめて重い口を開く。
「なぜ俺様がハリーの家を襲ったのか……。7月の末に生まれる男の子が俺様の脅威になると、そういう予言を……当時の死喰い人から聞いたのだ。3回逃れたものの子として生まれると。それで……あの時、俺はポッター家を襲ったのだ。結果は……リリー=ポッターの計らいで今があるというわけだ」

 それを思い出した今、どうしようもない不安に駆られる、というヴォルの手をハリーはぎゅっと握りしめ、先を促した。3学年が終わってからヴォルは過去の経緯などもほとんど思い出したこともあり、最愛のハリーに対し闇の帝王時代は決して抱かなかった、負い目を感じているという。

「あの夢をみて、また俺様の分霊箱が何か……ハリーを害するのではないかと思うとどうしても不安になるのだ。この先永遠にハリーのそばに居られるのかと」
 だから快楽漬けにしてハリーが自分から自主的に離れないようにしたくなる衝動に駆られる、というヴォルにハリーは驚き、だからなんだね、と手を握る。

「ヴォルがいろいろ試したり、子供がいればっていうのはその不安からなんだね。僕を信じて、って言いたいけど、ヴォルの不安はよくわかる。僕だって……ふいにヴォルがヴォルデモートを思い出して離れたらって。今のヴォルの話を聞いて、僕は……きっとヴォルを害することはできない。でも……僕の大好きなヴォルはきっと僕を殺してしまったらどうしようもない空洞が心に生まれてしまうだろうから、よく言われるような“英雄”になるよ」

 僕がヴォルを止める、というハリーにヴォルはさすが俺様のハリーとそういって口づける。示し合わせたわけでもなく、同じタイミングで顔を寄せ、高さも角度も間違えることなく重なる唇に二人でくすくすと笑い、今度は深く口付け合う。信用していないなどではなく、互いが大切すぎるあまり必要以上に互いを理解してしまい、わずかな可能性が大きく見えてしまう。

「ハリーがどれほど俺を愛しているか、それが分かった今、もう変なことはしない。あの道具と魔法薬は破棄する。ハリーを無理させたいんじゃないんだ」
「ヴォルがどれだけ僕を愛しているのか、僕もよく分かったよ。子供は……正直とっても怖い。けど、ヴォルがそばにいてくれるなら……頑張れそうなきもする。だから……気持ちが定まるまでもうちょっと待って」

 額を突き合わせる二人は心に秘めた想いを余すことなく互いに囁く。ハリーも嫌なら嫌と言ってくれ、とヴォルは返しハリーはわかったと返事をする。
 しばらく湖畔で逢瀬を楽しむと、そろそろ大広間に行こうとすっかり日が落ちた中、城に向かって歩き出すと、そうだ1つ言い忘れていたとヴォルは口を開いた。

「あの予言だが、実はハリー以外に……ロングボトム家も候補だった。だが俺様は闇払いとして従事していた夫婦ではなく、ただ騎士団の一員であったジェームズ=ポッターとリリー=ポッターを、純血のロングボトムではない半純血のハリーを選んだ。理由は……そうだな。きっと俺様が半純血だったからだろう。純血のロングボトム家ではなく、同じ……いや、両親ともに魔法が使えるがマグルの血が入ったハリーの方がより脅威になると、そう考えたのかもしれない。あの時、俺様はほとんど直感で動いたのだ」

 俺様がハリーを選んだようなものだ、というヴォルにそうだったんだ、とハリーは頷く。ロングボトム家のその後については詳しくは知らない、というヴォルに赤ん坊になっていたからね、とハリーは襲撃に失敗したヴォルデモートを思い浮かべた。
 もしかしたら、死喰い人が闇の帝王を探して襲撃したのかもしれない。互いに口には出さずに考え……胸に秘めておこうと玄関を抜け、大広間へと入っていった。


 そして日は経ち占い学やめようかなぁとぼやくロンの隣でハリーもうんうんと頷いていると、マルフォイがお前ら、とどういうわけか呼び止めた。え?何?というハリーとロンだが、彼にとっては大事なことのようで……さんざんロンを馬鹿にし、ハリーにも煽るような言葉を投げつける。
 思わず怒りがわくロンだが、普段から目の前できゃんきゃん吠えている青年の父親に対し、極悪人顔で無理難題を吹っかけているハリー中毒青年がいるおかげで、こいつも色々大変だぁと哀れみさえ覚えてしまう。無視して行こう、と背を向けるとバシン!という音が聞こえ、ハリーたちはびっくりして振り向いた。そこには真っ白な毛長イタチがきょとんとしていた。そしてコツコツという音ともに現れたのはムーディだ。

「背を向けた相手に杖を向けるなぞ、卑怯者がすることだ!」
 どこか怒っている風のムーディは逃げようとしたイタチドラコを杖で持ち上げて地面に落とす。え、魔法使いってそれがデフォルトじゃないの?とこれまでさんざんやられてきたハリーは内心首を傾げ、弾むイタチを見る。はっとしたのはハリーで、さすがにダメですよ!と言ってイタチをつぶさないよう手でしっかりとつかむ。その騒動にマクゴナガル教授も駆けつけ……急いでマルフォイのかけられた呪文を解く。乱れた髪にどこか呆然とするマルフォイをハリーは大丈夫?と横からのぞき込む。ハリーを見るなり顔を赤くしたマルフォイは跳ね起きて大丈夫に決まっている!と声を荒げた。

「魔法使いたるもの、決闘すべきだろう。背後から襲うなんて野蛮な」
 数占い学から戻ってきたヴォルの呆れた声に2学年の時の決闘クラブを思い出す。そういえばちゃんと辞儀していた、と考えるハリーはなんだかすごく面倒なことが起きそうだ、とどこか怒るマルフォイを見て……じっとヴォルを見るムーディに視線を移す。
 この顔は……どんな感情なんだろう?とハリーは首を傾げ、ハーマイオニーと目があい、わかったと頷いた。

「ヴォル、あっち行こう」
 余計なことが起きる前に手を引くハリーにヴォルはニヤリと笑うと、ハリーを抱き上げてどこかに消えようとする。
「ミスターセルパン、今は夕食の時間です。そしてそのあとは各々の寮に戻るように」
 マクゴナガルの声がかかり、ヴォルはちっ、と舌打ちをして仕方なくという具合に大広間へと向かう。降ろしてよヴォル!というハリーの声が遠ざかると意味が分からない、という風のムーディにあれは少々厄介な生徒なのです、とマクゴナガルが簡潔に伝えた。

「あれがうわさに聞く、あー、闇の帝王の息子とかいう」
「えぇそういう噂がありますわね。真偽はともかく。あの通り、ハリー=ポッターに異様なほどの執着を持っておりますが、ミスターポッターもまんざらではない様なので、いつもあのような状態です。あぁ、ミスターポッターが以前怪我をした際、その原因となった魔法生物を相手に彼が大暴れをして大変な騒ぎとなりました。くれぐれも彼に怪我をさせない様ご注意ください。彼が暴れるとそれはもう一大事ですので」

 ムーディがぎょろぎょろと動く目で追いながらマクゴナガルに問いかけると、あれを怒らせないようにという忠告が返ってくる。どういうことだ、と聞き返そうとして、二人の足元をナギニが通り過ぎる。
あぐ 「あの蛇はミスターポッターの次に大切にしていますので、お気をつけて」
 さぁこの者たちはスネイプ教授のもとに連れて行きましょう、とどこか唖然とした様子のムーディを置いてマクゴナガルはマルフォイらを連れていく。聞いていた話と違う、と思わずこぼしたムーディは首を振り、こつこつと音を響かせて大広間へと向かった。
 
 




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