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翌朝、あぁよく寝た、と起き出したルームメイトだが、ハリーはちゃんと自分の寝台で横になっており、あぁよかったとほっと胸をなでおろす。
まだ寝ている風のハリーに先に行っているよ、と声をかけるネビルらが消え、寝たふりをしていたヴォルとハリーだけになるともう!と怒ったハリーの枕が天蓋を開けたヴォルに当たる。
「ハリーがかわいくてかわいくて仕方なかっただけだ」
好きが溢れすぎた、と悪びれないヴォルはハリーに回復薬を渡し、ほらこれもと杖を振ってきれいにした下着を渡した。本当にもう、と怒る気もないハリーはシーツをめくり、剥き出しの下半身をすばやく下着で隠す。薬を飲んで急いで準備をするハリーに対し、ヴォルは余裕の表情で、上機嫌にハリーを待つ。
最近ヴォルの愛情表現がおかしい気がするハリーはため息をついて、楽になった体で支度をし、お待たせと一緒に大広間へと向かう。ちゃんと話し合わないとこっちの身が持たない、とちらりとヴォルを見るハリーはぎゅっと手を握った。振り向いたヴォルににこりと笑う。
「後でちょっと話そうか」
僕より長生きしているのに仕方がないなぁ、と少しいらっとするハリーの声に、うっと息を詰めるヴォルはハリーの手を恋人つなぎに握りながら分かったと頷いた。
初日の授業は占い学と薬草学、そして魔法生物学だ。
「そういえばバックビークに会いに行きたいな」
ヴォルが3学年末にハグリットからもらい、そして住む家が見つかるまでとホグワーツに預けたヒッポグリフ。どうしているだろうか、そう思うハリーは一応の持ち主であるヴォルを振り返った。
「あぁ、あの家の裏に区画を設けて放されている。俺様が呼べばすぐ来るだろうが……後で呼んでみるか?」
フクロウを呼ぶように指笛で来るはずだ、というヴォルに直接会いに行こうよとハリーはもう一匹会いたい動物を思い浮かべる。そういえばいたな、と思い出すヴォルはまたあとで、と占い学に行くハリーと別れた。
占い学は相変わらずで、ひどく機嫌の悪いトレローニーによって課題が出され……うんざりするハリーとロンは涼しい顔のヴォルとハーマイオニーに不満を漏らす。
「不満げなハリーもかわいい」
にやにやとするヴォルはハリーを抱き寄せ、薬草学の温室へと向かう。腫れ草の収穫はヴォルはとんでもなく嫌な顔をし、思わず笑ったロンの手元が狂って危うくネビルの顔に汁を掛けるところとなり、スプラウトから注意を受けた。
ニキビの薬になるときいてますます嫌な顔をするヴォルはじぃっとハリーを見つめる。
「ハリーの肌はどこもすべすべして滑らかだからな。それに、いつも肌の調子は俺が見ているから、心配することはない」
大丈夫だ、と言い切るヴォルにハリーはそうかなと特に気にしていないが、近くにいたジャスティンが手元を滑らせて危うく手に粘液を掛けかける。君たち本当に何なの、という目で見るとそれに気が付いているヴォルがハリーの腰元を抱き寄せた。
そして迎えた魔法生物学の授業で、ハグリッドのもとに向かっていたハリー達の耳に何をしちょる!と大きな声が聞こえ、ハリー達は顔を見合わせるとハグリッドの小屋へと走っていった。
そこにあったのは、破壊された木箱と何かを踏み潰すパッドフット。そしてバックビークの姿だ。ハグリッドがやめてくれと抑えるも、片方を抑えれば片方がなにかをふみつぶすという状況に、先に来ていた生徒ともどもぽかーんとしていた。
「あぁ……危険な生物持ってきたらとは言ったが……しょっぱなからか。まぁ自業自得だな。このままじゃ最初の授業にならないな……」
あーあー、と全く何も残念がっていないヴォルはどうするべきかなと考えている。ヴォルの様子から何か危険な動物を連れてきて、それで危機を察した2匹により殺処分が強行されているのだな、とハリー達は事態を飲み込んだ。
せめて一匹、いや番で2匹!とハグリッドは全部を助けるのをあきらめ、2匹手に何か殻をむいたエビの様な少しグロテスクにも見えるものを掲げ上げて逃げ回る。グルグルと唸るパッドフットだが、バックビークはそれでよしとしたのか、潰した残骸を食べ始めていた。
しょっぱなから何をしているのか、頭が痛い思いで傍に行けば喜ぶパッドフットがハリーにとびかかり、寸前でヴォルの盾呪文により塞がれる。
「お、おぉ、あー……もうそんな時間か。そうか。えっと。尻尾爆発スクリュートの飼育だったんだがえぇっとこの人数じゃ2匹は……」
今にもヴォルにかみつこうとするパッドフットをハリーが宥め、落ち込んだ様子のハグリッドを見る。バックビークは当然だという顔をしていて……マルフォイに気がつくと鋭く睨みつけ、嘴を鳴らした。
「あ、そうだ。ル……ハグリッド、セストラルを見せてもいいんじゃないのか?ほとんどが見られないだろうが、とても個性的かつすぐ用意できるぞ」
見せ方は特別に手助けしてやる、といつも通りのヴォルにハグリッドはあーと唸りながら周りを見回して、それもそうだなとしゅんとうなだれる。
奥からごそごそと何かを探すと、大きな袋を担いでこっちこい、と生徒たちを森へと呼び込む。不安げな顔の生徒らだが、ハリーをエスコートするヴォルが先に行ったこともあり、まぁ何かあればあいつがどうにかするだろう、という感覚でその後を追う。
「でも死を体験した人にしか見えないって前にヴォルが言っていたけど、どうするのかしら」
「まさか全員の前で誰かを痛めつけることはしないだろうけど……」
セストラスの性質をあらかじめ教えられていたハーマイオニーとロンは不安げに前を歩くヴォルを見る。ニコニコと楽し気なハリーはそうだとばかりにヴォルの腕をひいて耳元で何かを言う。動揺するヴォルに少しムッとするハリーはまた何か言って……ガバリと抱きつかれていた。
「ヴォル、僕のこと大好きっていうのは嬉しいけど、最近なんかいろんなもの使い出したりして変だよ。どうして?」
腕をひいてヴォルを屈ませたハリーは耳元でそっと問いかける。え、今その話?と動揺するヴォルだが、ハリーのどこか顔を赤らめて恥ずかしがっている顔を見て、思わずにやけるのが止まらない。
「そのままのヴォルが好きなのに、なんか使われるとその……ヴォルとの間に距離ができた気がして……。ヴォルそのものがいいのに」
道具使ったりするの好きじゃない、というハリーにヴォルは我慢ができず、抱きしめて、あぁもう我慢できそうにないと騒ぎだす。
「こんなにも大切なものを持ったのは初めてだから。ハリーが……いつか俺から離れるのではないかと、その不安がぬぐえないんだ」
だから、というヴォルをハリーはじっと見つめて、まだ何かあるでしょ、と問いかける。じっと見つめるハリーを見返すヴォルはそうだな、話すべきだなとため息をついて、ハグリッドが下した餌に寄ってきたセストラルに目を移した。
「今夜、必ず話す。だからもう少し待っていてほしい」
必ずだ、というヴォルにハリーは絶対だよ、と笑いかけて消える餌に目を丸くさせた。ほとんどの生徒が見えていないらしく、何が起きているのかと、食いちぎられる餌に目を奪われていた。
ヴォルが杖を振ると濃霧のようなものが杖先から噴き出し、餌を食むセストラルを包み込む。
「セストラルはたしか……昔ホグワーツ近くで確認された群れは霧のある場所だったはずだ。もうなかったかとは思うが……。だからこの程度ぐらいなら気にもかけないだろう」
霧がセストラルの体を包み、その影を浮かび上がらせるとその見た目に驚いたのか、何人かが小さな悲鳴のようなものを上げる。あー、と声を上げるハグリッドは咳ばらいをすると馬車を牽いているのは彼らだという説明を始めた。
「従順でおとなしいが、見るための条件が条件だからな」
だから不吉だと言われている、というヴォルにロンはまぁだよなぁと同意し、不意にネビルに目を移した。珍しく驚いた様子のないネビルにもしかして見えてた?と聞けばハッとしたように飛びあがり、恐る恐るという風に頷く。
「ロングボトム……あぁそうだな。あの夫妻は腕のいい闇祓いだったか」
小さくつぶやくヴォルの声は低く、傍にいたハリーだけに届く。そうだったんだ。と驚くハリーだがネビルはじいちゃんを見たからという。おばあちゃんに育てられたという話を聞いていたハリーは亡くなったのが両親じゃないんだ、とどこかほっとして……難しい顔のヴォルを見る。
授業が終わるとハリーはヴォルの手を引いて、ロンとハーマイオニーには先に大広間行っていて、と言い残し湖畔へと向かった。
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