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これだけの大所帯となると通り抜ける瞬間を見られないように、というのは少々難しく、何人かのグループに分かれて通り抜けていく。ハリーはロンとハーマイオニーと抜け、ヴォルはビルと抜ける。どうにもこうにも呪い関連の話ですっかり盛り上がってしまい、珍しく意気投合したらしい。
「結構近いうちにまた会えるかもしれないぜ」
そう言うチャーリーはビルと顔を見合わせて、俺らもホグワーツに戻りたいぐらいだと頷きあう。なんの話だよ、というフレッドに今夜あたりわかるさ、と弟の追及をはぐらかし、さぁコンパートメントに乗ってと促す。
夏中パーシーが思わせぶりな態度をしていたことと、兄や母が知っている“何か”について、ジョージも食い下がるが明確は答えはない。ニコニコとしながら今年は本当にいい年よ、とどこかうきうきとした様子だ。
がたん、と揺れる列車になおもフレッドとジョージが食い下がるが、カーブを曲がったところで3人は姿くらましをしてしまった。
「全くもう!なんだっていうんだ」
怒るジョージとフレッドはともに悪友のリー=ジョーダンを探しに行ってしまい、ジニーも何があるのかしらと言いながら友人のいるコンパートメントに入っていく。いつもの4人になったハリー達は誰もいないコンパートメントを見つけるとそこに入り、荷物を置いて一息する。
「それで、ヴォル。ムーディって誰のこと?」
バタバタとしていて話す時間がなく、ロンとハーマイオニーも聞きなれないらしく、何の話?と首をかしげる。
「今朝騒ぎを起こした闇払いの男だ。通称マッド・アイ。これに関しては見ればすぐにわかる。奴は死喰い人を捕まえることに執念を燃やしていた。アズカバンの独房をかなり埋めたはずだ。かなり用心深く、それでいて全くひるむこともない……俺様らにとって迷惑極まりない奴だ」
かなり高齢のはずだが、というヴォルに、でも年下ではあるのかしら?とハーマイオニーが問いかける。どうだろうな、とヴォルは少し考えてから上ではないとは思う、という。
「闇払いとしてはすごかったが、人としてはだいぶ難のある男だそうだ」
その男がマグルに通報されるようなことをした、とアーサーが請け負うこととなった朝の仕事について話終えたヴォルに、そういえば兄貴たちがそんな話していたな、とロンは思い出す。
ハーマイオニーにとっては闇払いとして敵対していたにもかかわらず、ヴォルが知っていることに、どれだけすごい魔法使いなのかしら、と考え……でもなんだか嫌な予感がするから関わらないでおきましょう、と頭を切り替えた。
「そうだわ。ねぇヴォル。今年のホグワーツで何が起きるのか、気が付いたんじゃないのかしら?」
知っているの?と問いかけるハーマイオニーに、気になっていたロンは答えを知っている身近な人物がいると知って身を乗り出す。
「そうだな、知ってもいいだろう。ダームストロング校、ボーバトン校……これらの言葉を気にしていたことからおそらくこの2校の代表生徒がホグワーツに来るはずだ。目的は国際交流」
スウェーデン語かノルウェー語とフランス語、少しでも話せるかと問われた真相を伝えるヴォルに、面白そうだわとハーマイオニーの目が輝く。へぇ、とぽかんとするロンにハリーもまたそんなイベントがあるんだと若干薄い反応だ。てっきりもっとすごい催し物があったのかと期待していた分肩透かしを食らったのだろう。
「三大魔法学校対抗試合。700年前だか何だかに危険だという事で途絶えていた催し物をやるのだろう」
にやりと笑うヴォルに、わざと最小限の情報を伝えたのか、とロンは何だそれおもしろそうと目を輝かせる。俺様も文献で知った程度だ、と肩をすくめるヴォルは足音を聞いてコンパートメントの扉に目を向けた。
現れたのはやはりマルフォイで、人生最初で最後の貴賓席はどうだったとロンを見る。毎年毎年飽きないわね、と呆れるハーマイオニーは我関せずといった様子で新しい教科書をめくる。
「相変わらずみっともない恰好をしているなウィ−ズリー。どうせドレスローブも誰かが着まわしたくたくたの流行遅れなローブなんだろう」
ロンの成長についていけてない制服をあてつけるマルフォイに、ロンは図星をつかれて顔を赤くする。
「そうだ、エントリーしてみたらどうだ。賞金が出るそうだぞ」
にやにやと笑うマルフォイに、ロンはぴんと来なくて眉をしかめる。嘲笑うマルフォイにヴォルは交流試合で選ばれた生徒に出る賞金のことか、という。へえぇ、豪勢だね、というハリーだが、正直それには興味はない。
ヴォルの金庫とポッター家の金庫。それを見てしまうと正直惹かれる要素がない。怒っていることでぴんと来ていない様子のロンにさっき話したろ、という。
「三大魔法学校対抗試合のことだ。お前こそエントリーしてみたらどうだ。マグル出身のハーマイオニーに座学で負けて、決闘でも俺とセブルスのを見てちびって情けないダメ貴族の汚名を返上したらどうだ。あぁ、純血の坊やはちょっとした怪我でも分厚い包帯を巻かなければならないほどひ弱だったな。なら、過去に死人の出た交流試合はドラゴンにほえられただけでリタイアだ」
にやりと笑い返すヴォルに、マルフォイは顔を赤くして侮辱する気かと怒鳴る。クラッブとゴイルもまるで魔法使いとは思えない、両手を握り合わせる……ダドリーの威嚇ポーズに似ているジェスチャーをしている。
純血の家は大変だな、というヴォルの言葉を聞きながら、二人のポーズが滑稽に見えて、思わず笑うハリーにマルフォイは何がおかしいと顔を隠したまま声を張り上げた。
「あぁ、そうだ。ルシウスに伝えておいてくれ。いいセンスだと」
子犬がきゃんきゃんうるさい、というヴォルは、ドレスローブのことを暗ににおわせながら伝言を述べる。いったいなんの話か分からないマルフォイだが、父上の名を気安く呼ぶな、と怒って、ダドリーもどき二人を連れて立ち去った。
「ルシウスに言って静かにさせないの?」
「大丈夫だハリー。あいつが知らずに馬鹿をすることで、ルシウスの俺様に対する忠義は固くなっていく。それに、なんだかんだ弄るのか面白い」
毎回かみついてきて嫌じゃないのか、というハリーにヴォルはにやりと笑って、毎度毎度飽くことなくかみついては盛大に一人転んでいるのが楽しいと上機嫌にいう。
あぁ、この闇の帝王……マルフォイ家で遊んでいる、と面白がっていたロンですらだんだんと気の毒になってきて、やれやれと頭を振った。
「賞金かぁ……。でも多分ヴォル波の知識とかないと難しいよな」
興味がないわけじゃない、というロンに運があれば大丈夫じゃないかと言いながら、さすがにエントリーできないのではないかという。
「あの馬鹿の戯言はともなく、ダンブルドアが過去死人の出るような行事に未成年者を出すことはないだろう。せいぜい、6学年か7学年か……。年齢制限を設けるはずだ。それこそ成人コーナーとかにかけられている、未成年者進入禁止の魔法でも使って近づくことすらさせないはずだ」
ちょうど17歳になる生徒がいる学年を示すヴォルの言葉に、何を言っているのよ、とハーマイオニーは呆れ、ロンはアダルトグッズ扱いとかひどいとゲラゲラ笑う。ハリーはハリーでじっとヴォルを疑いのまなざしで見る。
「ハリー、俺様は以前ノクターン横丁の店で営業をしていたと話しただろう。一応様々な理由で未成年が入れないようになった一角があって、それで時々魔法をかけなおしたり、そもそもローブで年齢偽って入って弾かれた馬鹿を見てきたりしてきただけだ」
俺様が引っ掛かったわけじゃない、というヴォルはそもそも、と続ける。
「記憶を取り戻してから入ったことはあるが、匂いがつけられないのと同じ理由か、弾かれることはなかったぞ」
へまはしていない、というヴォルに入ったことあるのかしかも最近に、と突っ込みを入れたいロンは何を買いに行ったの、と顔を赤くするハリーを見る。なんだと思う?と楽し気に問いかけるヴォルにハーマイオニーは着替えてくる、と言ってどこかに移動してしまった。
首をかしげるハリーに、今夜思い出させてやる、とヴォルは蛇語で答える。顔を真っ赤にするハリーに僕も着替えよう、とロンは制服に着替えることにして……ヴォルに口づけられるハリーを視界にうつさないように背を向けた。
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