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クラウチの処遇については、今年は国際的な一大イベントがあるという事で体調不良に伴う療養休暇を取ることとなったと公表され、彼は魔法省の一角に留まることとなったという。
「今解任するわけにも、過去の……夫人の最期の頼みとはいえ息子と交換したなどという失態を世間に公表されるわけにはいかないという判断だそうだ。それと同時に息子に服従呪文をかけていたこともわかって、反発していたと思われる息子の報復を懸念し、彼の保護もかねての処分さ。彼のこれまでの功績と手腕との天秤で魔法省は揺れ動いている」
ぐったりと疲れた様子で帰ってきたアーサーの言葉にビルとチャーリーは階段の上をうかがう。パーシーはがっくりとうなだれた様子で帰ってきてから部屋に閉じこもってしまい、兄たちは弟を心配しているようだった。
「今彼のいた部署は踏ん張りどころだ。パーシーは大変だろうが、直属の部下でもあったから……先輩らと共に踏ん張ってもらいたい」
ただでさえ苦情が殺到している国際魔法協力部は今火の車だという。なんとか他の部署も出てきて回しているが、海外の言葉などもあって手が回りきらないらしい。今頃パーシーは寝ているんじゃないかというアーサーもまた疲労の色が濃い。
「また明日の朝早くに行かなければ。そうそう、セルパン君。フランス側からボーバトン校の生徒らを保護してくれたことに感謝したいという連絡が来ていた。ところで……スウェーデン語かノルウェー語はできたりするだろうか?」
そうだというアーサーはハリーと一緒にいるヴォルに、フランスからお礼のメッセージが来ていたと伝える。言葉を選ぶように考えながら問いかけるアーサーにスウェーデン語かノルウェー語?とヴォルは少し考えて、あぁと声を上げた。
「ダームストラング校関係……ですかね。多少なら。……あ!パーシーが今年は国際魔法協力部は忙しいと言っていたのは」
そこまでべらべら喋れるわけではない、というヴォルはボーバトン校、ダームストラング校と聞いて何かピンと来たのか、聞き覚えがあるぞと口角を上げた。
本当に君は頭の回転が速いな、と苦笑するアーサーはまだ黙ってくれないか、とヴォルに言う。疑問符が浮かぶハリー達だが、ヴォルは楽し気に笑い、多分学校が始まればわかる、とハリーを抱き寄せた。
「……あの爺のことだ。どこか穴が開いてそうな気がしてきたぞ」
あいつのことだ、というヴォルはじっとハリーを見て……何?と見つめ返すハリーに触れるだけのキスをする。
「今年こそ、ハリーに危険がないよう……しっかりして貰いたいものだな」
ずっとハリーは怪我ばかりだ、というヴォルにハーマイオニーもロンもうなずく。僕のせいじゃないよというハリーは少し考えてからヴォルの耳元に顔を寄せた。
「よくよく考えたら1学年の時はヴォルの魂のかけらだし、2学年目もヴォルの魂のかけらだし……3学年目は違うけど、結構ヴォルが原因だよ」
口をとがらせるハリーの言葉にヴォルはあぁ、と思い出してうなだれる。そういえばそうだ。でも、というハリーに顔を向けるといつもヴォルが助けてくれた、と笑顔を向けていた。
「そうそう、教科書とか買ってきたからみんな自分の分を持っていってちょうだい」
洗った靴下もいっしょにあるわよ、というモリーの声にこの二人ほんと油断ならないと、イチャイチャしていたヴォル達を呆れた顔で見ていたハーマイオニーは荷物を受け取りに行く。本当に例のあの人の息子だとしてもこの二人の絆には関係がない、と笑うアーサーはそのまま寝室に消えていった。
「あぁ、セルパン。あなたの荷物が今朝届いていたわ。一緒に置いてありますからね」
そこに一緒に置いてある、という声にようやく離れた二人はそれぞれの荷物を受け取り、ロンの部屋へと向かう。
「なんだこれ、ジニーと間違えているよ!」
荷物から何かフリルのついたものを引っ張り出すロンの声に、頼んでいたものがそろっているか確認していたヴォルは何だと顔を上げた。ハリーもどうしたの?と振り向き、自分の荷物にも見慣れないものが入っていることに気が付く。
「あぁ、それはドレスローブだ。今年の持ち物に書いてあった。俺様のは頼み忘れていたが、献上という名目で入っていたな」
いやーうっかり忘れていた、と棒読みなヴォルにハリーはくすくす笑い、ロンは笑い事じゃないよと悲壮な声を上げる。
「これ見てよ!いったいいつの服さ!」
フリルのついたドレスローブに来そうな声を上げるロンはハリーの深緑色のドレスローブを見て、ひどいよと声を上げた。
「18世紀ごろのマグルの貴族間ではやっていた服装に近いな。ロン、今でこそ男が!と思うかもしれないが、かつては無駄な布を使う余裕があると貴族のステータスのようなものだったと聞く。だからそう悲観することもないだろう」
「だったら!だったらヴォルが今ここで着て見てくれよ!!ぜぇったい男がこれを着るなんて変だ!!」
昔はその服で大丈夫だったんだから気にするほどじゃない、と自分の箱に手を掛けるヴォルにロンが突きつける。
はぁ?と顔をしかめるヴォルに、やっぱり嫌そうじゃないか、とロンは騒ぎ立て……ちらりとハリーを見ればどこかわくわくした顔に見える。はぁ、とため息をつくヴォルは俺様にあうわけがないだろう、と言いながら手早く着替えた。こういう服は面倒だからいやだ、というヴォルは重だるくて仕方がない、とどこかけだるげにロンのドレスローブを着て……。
「ほんと、ほんとなんであんな顔になったんだよ!イケメンなら何を着ても似合うとかほんとずるだよ!わけわかんないよ!イケメン補正ひどいよ!!」
わなわなと震えるロンは残念イケメンめ!と騒ぎ立て、僕が着たところでただの道化だと嘆く。それに対して静かなのはハリーだ。頬を赤く染め、肖像画に居そうとつぶやく。
「マグルのお城の肖像画とか、そういうのの題材になってそうだよ!」
さすがヴォル、というハリーに俺様としてはもう少し暗い色の方が好みなんだがな、とヴォルは茶色のローブをつまみ上げた。
そこにジニーとハーマイオニーがやってきて、イケメン補正すごいわ、と感心したようにつぶやく。もう脱ぐぞ、と言ってもともと着ていた服の上に被せていたドレスローブを脱ぐと、俺のはちゃんとしているかな、といって重厚な箱から黒いドレスローブを取り出した。
「お、ちゃんと俺の好みのデザインだな」
取り出したのは光の加減で緑に光る、黒いローブで全体的に少し大きい。ヴォルでさえ少し長いと思うほどのドレスローブにやはり深緑のベストが合わせられており、装飾として銀の刺繍がされている。誰がどう見てもスリザリンな服にあぁそうか彼はスリザリンの子孫だ、と全員の心の声が一致する。
「すごい触り心地のいい布だね。この刺繍もすごい……さすが、右腕が選んだだけはあるね」
きれいな生地だ、というハリーにマルフォイ家の財力と日々磨かれる貴族としてのセンスに、マルフォイの父親、死喰い人時代右腕だと言われていなとロンは思い出す。
だがどちらかというと、とっても便利でお財力も地位もあって多少臆病なのが“ちょうどよかった”んじゃ、とロンは思わず憐れむ様な気持ちになり……家にいるのがヴォルデモートでざまぁみろ、と内心舌を出す。
うまい具合に人を使う闇の帝王にいいように動かされ、いろいろ搾取されていることを認めない右腕。貴族って大変だ、と笑って……ヴォルから返されたドレスローブを睨みつけた。
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