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そして外が白み始めたぐらいでアーサーが全員を起こし、魔法でテントを片付けるとポートキーを待つ列に加わる。一晩のうちに浅く寝ていただけの一行は眠たそうにしつつ、古タイヤにつかまって隠れ穴近くに戻る。
疲れ切った様子で歩き、あの奇妙に積みあがった家が見えてくると速報が届いていたのか、新聞を握り締めたウィーズリー夫人が今か今かと家族を待っていた。
アーサー達に気が付いたのか、涙を浮かべたまま走り寄ってきてあぁ無事でよかったと夫を抱きしめた。
心配させたようだ、というアーサーに頷き、イタズラグッズのことで喧嘩していたフレッドたちを抱きしめる。喧嘩別れで永遠に会えなくなっていたら、という母にフレッドもジョージも茶化そうとしてうまくできずに笑いあう。
中に入るとモリーが持っていた新聞にはリータ・スキータという記者の書いたでたらめなうわさなどが書いてあり、誰も怪我していないというのに、とアーサーは深々とため息をついた。
幸い、出るときに一緒だったアーサー達と賓客と会談していたはずファッジだけが宙に浮いた青年の正体を知っており、新聞には潜伏していた別の犯罪者ではないかなどあてずっぽうなことが並べられていた。
「君が大暴れしたことについての記事はないようだ。それと、クラウチ氏のご子息についても。これから私は魔法省に行こう。解決しなければならない問題が多すぎる」
蜂の巣を突いたどころの騒動じゃない、というアーサーは僕も行くというパーシーに目を向け、魔法省に行く前にと手招きをして部屋の隅に呼び寄せる。
ほどなくしてそんな!という声が上がり、打ちひしがれた様子のパーシーにアーサーは無理しなくてもいい、と言って魔法省に行ってくると暖炉に向かう。顔を白くしたパーシーだが、ぼぅっという音にハッとして行かなければとぎこちなく動き、魔法省へと出かけて行った。
クラウチ氏になにがあったのか、事情を知っていそうなヴォルにいつもの3人の視線が集まり、荷物を置きにロンの部屋に行こうという流れになった。部屋に入るとヴォルは扉を閉め、杖を振って音が外部に漏れないよう魔法をかける。
「クラウチだが、俺が知っているのはその息子だ。ルシウスらと同じ……いや、それ以上に俺様に心酔していたベラトリックス=ストレンジという女らと共に行動することが多かった死喰い人だった」
狂信者と言ってもいいかもしれない、というヴォルにロンは驚き、ハーマイオニーはまさか魔法省の高官の息子にそんな経歴があったなんてと信じられない様子だ。
「前に少しこぼしたが、俺様は魔女の母がマグルの男を欲し、無理やり自分の物にしたがやがて罪悪感なのかそれとも楽観視しすぎたのか……。いずれにせよ正気に戻った男に捨てられ、母も俺様を生んで力尽きた。その結果、劣悪な孤児院に入ることになったわけだ。クラウチJr.はまだ若かったが、俺様の境遇に少し似ていたことからよく覚えている」
闇の帝王の生まれについて語られた話に、ロンとハーマイオニーははじめから悪ではなかったのかもしれない、と痛ましげな目でヴォルを見る。気にすることでもない、というヴォルにハリーはリドルの話を思い出して今は僕がいるからね、と言葉に出さず指を絡めた。
「奴の話では母親は自分を大切にしていたそうだが、父親はというと愛情のかけらもよこさなかったと。父に生まれること、存在することを疎んじられる者同士、妙な近親感を覚えたのだ。自分を愛した母と言っても、家にいるときは母は父をうかがってばかりで大切にしているという態度は二人切りの時だけ。あとは冷たい箱の中にいるようだったと」
しっかりハリーの手を握り返すヴォルは奴から聞いたわけではないぞ、と一言付け足す。聞いたのではなく心の中を読み取った、というヴォルになんか闇の帝王っぽい、とロンは頷く。
人の弱みとか闇とか、するっと暴いていそうと頷くロンにハーマイオニーもあぁと頷き、ハリーも記憶のなかったはずの幼いころからそうだよね、と違和感なく受け入れる。
クラウチの息子は姑息で頭が回り……当時ルシウスと双璧をなしていたベラトリックスという女性側にいたという。
「ルシウスはあれでも穏便な派だ。どちらかというと純血の筆頭貴族として忠誠を誓う……そんな立場だ。ベラは違う。純粋な破壊思考と残虐性。それら力を支持し誇示する……過激思考な思考を持っていた。これは俺様自身が赤子に戻っていたために知らないことだが、クラウチの息子はベラトリックスらと共に捕まったのだろう。父親はそれを断罪しアズカバンへ送り出した。死んだという話が出ていたために獄中で死んだのだろうが、何か隠しているらしいな。あの晩、打ちあがった印。あれはクラウチJr.が打ち上げた印で間違いない」
俺様が見間違えるわけがない、と断言するヴォルにどうなるのかしら、とハーマイオニーは不安げに両手を合わせる。酔っ払った死喰い人はこの際どうでもいい。ただ、その死んだはずのクラウチの息子があの夜あの会場におり、さらには拾ったハリーの杖で印を打ち上げた。
その後、勘違いから放たれた失神呪文によって巻き添えで気絶し……ピーターによってどこかに消えた。
「夏にハリーと共にみたあの夢がいよいよ気になるな。消えた分霊箱もだ」
顔を見合わせるヴォルとハリーに首をかしげるハーマイオニーとロン。簡潔にふたりがみた夢を伝えるとハーマイオニーは何か考えるように唇に指を当てうつむく。
「ねぇ、ハリー。あのトレローニーが言っていた予言……覚えているかしら」
「えぇっと確か……闇の帝王のかけら、ドラゴンの守る深き地にて解放の時を待つ。番人となる女より鍵を受け取りしは巣穴から飛び出た隠者。えーっと……・隠者は廃屋より古の輪を手に入れる。主のいない屋敷を守る虐げられたものの手から金色の光を盗み、3つの破片は一つとなる。あ!もしかしてこれって分霊箱の場所!?」
ハーマイオニーに言われ、確かと思い出すハリーはそこまで行ったところでハッと声を上げた。ヴォルもまたそういえばそんな予言があったなという。
「ベラに持たせたものはグリンゴッツにあると言っていたな。そしてゴーント家の跡地にあったはずの指輪だ。最後の場所がわからない。さすがにどこかに隠しているはずだが……どこかの屋敷しもべ妖精を実験台に何か仕掛けた……気がする。俺様の知らない裏切り者が移動させた?」
思い出せない、というヴォルに顔をしかめるハーマイオニーだが、もし本当の予言なら彼らはそれを集めて何をするのかしらという。
「確か大いなる記憶を写したそれはこの世に混乱を巻き起こす。そのあとはピーターが逃げる予言だったはずだ」
「大いなる記憶って何のことだ?」
それらを集めでどうするんだ、というロンにヴォルは予言の続きを口に出し、分からないと首を振った。彼らの目的が分霊箱であれば今頃2つはそろっているだろう。もう一つに関してはヴォル自身も心当たりがないというあたり回収されるのは時間の問題だ。
「今年度ものんきな学生生活を送る……というわけにはいかなさそうだ」
なんでこうもトラブルばかりが、とヴォルはため息をつき、笑うハリーを抱き寄せる。じっと見つめる赤い目にハリーは慣れた様子で微笑み、我慢してよと笑いながらぎゅっと抱き着いた。
いつもの二人に戻ったハリー達にハーマイオニーは全くもうと息を吐き、ロンもいつも通りの学校な気がするなぁという。外でちょっと体を動かそう、というロンの誘いに乗り、ハリーは箒を手に降りていく。ヴォルはどうする?という声にあの爺に連絡を入れたほうがいいだろうと言ってヘドウィグをハリーに借りる。用心するに越したことはない。
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