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 試合はフレッドたちが予想したようにクラムがスニッチを手に入れたものの、150点以上の差がつけられていたがためにアイルランドの勝利となって終わった。思わぬ結果にヴォルは思わずため息をついて興奮冷めやらないハリーをそっと抱きしめ、プロはすごいな、とハリーに囁く。
 うん、と高揚したまま頷くハリーに今すぐキスしたい、というのをぐっとこらえ、ロンたちとともに会場を後にする。
 ハリーが大好きなスポーツであるという認識以外、あまり興味のないヴォルだが今日の試合は見てよかったとひとり頷き……時計を確認する。もう少ししたら行った方がいいだろう。

「ハリー、ちょっと出てくる。ウィーズリー氏とかロンたちにはすぐ戻ると伝えておいてくれ」
 用事がある、というヴォルにハリーは頷き……軽いリップ音をヴォルの唇に残し、早歩きでその場を立ち去っていく。残されたヴォルは俺様のハリーはなんて最高なのだ、と上機嫌で指定した場所へと向かった。
 このバカップル、とハーマイオニーは笑って、そのまま全員同じテントで高揚とした気分のまま議論を交わすビルたちを見守っていた。やがてジニーが転寝し……さぁ寝なさいというアーサーの声に従いそれぞれ寝台に散っていく。
 ヴォルまだかな、と考えるハリーの耳にずるりという蛇の音が聞こえる。帰ってきた、と口角を上げるハリーはベッドに侵入してきた蛇におかえり、と声をかけた。

「俺様の金庫から金をもってくるのと、買い物と……それとドレスローブが必要と書いてあったのでそれも買いに行かせることにした」
 魔法薬の材料で特に高価なものは売る相手を見る場合がある、というヴォルにまだ学生だから仕方ないよ、とハリーは笑う。目を細め、そっとハリーに口づけだから一緒に居られるとささやいた。

「だが、時折不便を感じるのもある。以前は何の障害にもなりえなかったことがこの姿では障害になりうることもあるのだ」
 それが煩わしい、と言い放つヴォルはそろそろ寝たほうがいい、と言ってハリーを抱きしめる。そのまま寝るよう促すヴォルにハリーも抱きしめ返し……すぅすぅと寝息を立てた。
 人の気配の多いところで眠れないヴォルはその寝顔をそっと見つめ、仮眠をとる時のように浅い眠りをとることとした。


 物音に気が付き、跳ね起きたのはそれほど経ってないころで、杖を取り出すと全員を起こすためにルーモス・ソレムと唱える。突然明るくなったテントに驚き、なんだなんだという声が上がるのを静かにと黙らせ、耳をそばだてる。

「突然どうしたんだセルパン」
「悲鳴が聞こえる……。酔っ払った馬鹿どもが!すぐに避難した方がいい。あの馬鹿どもがこちらに向かっている」
 ぴりぴりとした緊張をはらんだヴォルの言葉に寝ぼけ眼だったロンたちだが、ビルはすぐに隣の女の子らがいるテントに向かい、アーサーが様子をうかがいに行く。うっすらと聞こえてきた騒ぎにすぐ逃げるんだという声が上がり……テント内を満たす絶対零度の怒気に足を止めた。
 不安げにヴォルにくっついていたハリーだが、真っ赤に染まったヴォルの眼に一歩引きさがる。

「何が同窓会気取りだ」
 メラメラと怒りの炎が噴き出ているのではないか、というほど不穏なオーラを放つヴォルは目を閉じゆっくり息を吐くと、ハリー、と全く笑っていない眼で甘く囁く。

「馬鹿どもを燃やしてくるから、ハーマイオニー達と一緒に逃げてくれ」
 大丈夫、ハリーが無事ならあの大惨劇は起きないから、というヴォルにハリーはこくこくと頷き、怯えているロンの手を引っ張って出口へと向かった。フレッドたちも慌てて飛び出し、アーサーらが声をかける前にヴォルもまた黒い霧状の物を残して文字通り飛び出していく。あっけにとられたのは成人している4人で、慌ててテントを後にした。


 走って逃げていく途中、後ろを振り向いたハリー達が見たのは管理人一家を宙に浮かせ歩く人々の姿だ。
「あれ、闇の勢力の人たちがかぶっていた仮面に見えるわ」
 本に書いてあったもの、というハーマイオニーに何が起きたのか察したハリーは本当にバカだねとつぶやく。すっかり目も覚めたロンは、んー?と言った後ぶちぎれた親友の正体を思い出してあぁ、あの人ら死んだね、と小さくつぶやいた。

 炎に照らされ、一瞬黒いローブを目深にかぶった青年が見え……その一団の前に浮かぶととてつもなく響く声で愚か者どもが、と一喝する声が悲鳴に交じって耳に届く。
 泡喰って腰を抜かす仮面の人もいれば逃げ出そうとする人……はたまた何を思ったのか杖を構える人がいて……。ぶちりという音が聞こえた気がするハリー達の目の前でローブの青年……ヴォルの構えた杖から噴き出した緑色の大蛇の炎が仮面の一団を囲う。

「ヴォル大丈夫かな。正体知られてつかまったりしない?」
 大丈夫かな、と心配げなハリーの言葉にはあの仮面の一団に対する気遣いは一切ない。魔法省の役人らがすかさず管理人一家を助け……緑色の大蛇から必死に逃げようとする仮面の一団に失神呪文を浴びせる。

「とにかくもう少し離れよう。ここに居たら騒動に巻き込まれかねない」
 逃げる人らから逃げよう、というロンにハリーとハーマイオニーは頷き、ジニーとフレッドたちの後を追うように森へと入った。

「あ!どうしよう、僕の杖が見当たらない!」
 ほどなくして声を上げたハリーはどこに落としたのか、と考え……そんな音しなかったはず
と焦る。慌ててハーマイオニーがルーモスを唱え……近くにないことを確認した。

「仕方ないわ。あとでヴォルにアクシオしてもらいましょう」
 これだって唱えていいのかわからないもの、と焦った様子にロンとハリーもはっとして消して大丈夫だよと慌てて声をかけた。
 
 




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