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知らせが来たのはそんな穏やかな日がそろそろ終わるという頃だった。
「あの無能!!だから何度もネズミのアニメーガスだと言ったのに」
ディメンターは役に立たないとも言ったはずなのにどこまで愚かなんだ、と憤慨するヴォルは届いた手紙を叩きつけた。
急遽行われた臨時裁判において、ピーター本人の記憶とシリウス=ブラックの証言と記憶、そして死の呪文で死んだジェームズ=ポッターの証言によって真実が明るみになり、夕方に速報が流れた。ジェームズについては伏せられていたが、なぜ当時記憶の確認をしなかったのだという一部の声が上がったところでの失態。
とりあえずの勾留先で……ピーターが逃げたという。シリウスは学校の備品を壊したためにまだ勾留されていたため追いかけることができず、ジェームズも念のため本人確認として一族に伝わるポッター家の金庫の番号などを小鬼に照会を取ってもらっていたために見張っていることができなかった。
逃げたことと、これまで分かっていることからピーターに指名手配が素早くされたことに、世間は素晴らしい判断の大臣だとほめ……当人は闇の帝王であった青年の矛先がこちらに向くことに恐れていた。
額に汗を流しながら必死に指揮を執っているだろうと裏事情を知るのは、無能な奴めと罵る相方を見つめるパートナーだけが察して、改めて闇の帝王時代のヴォルって様々凄かったんだなと実感する。
ピーターが逃げたという事で、ハリーはあれ?と首を傾げた。トレローニー先生が何か言っていたが……。
「ねぇヴォル。実は占い学の試験の終わりにトレローニー先生がおかしくなって」
おかしいのはいつもじゃない、と途中で授業をやめたハーマイオニーが言う。確かにと笑うロンはハリーが覚えている限りではあるものの突然言われた言葉をヴォルへと伝える。
「トレローニー……。そういえば予言者として名高い老婆がいたが……それの直系だからという事かもしれない。普段はポンコツでも、予言を受けた際だけはトランス状態になる……そういうやつかもしれないな。一応、あっているには合っている」
とくに愚か者の不注意という点だ、と指摘するヴォルに確かに、とハリーが笑い……残りのかけら、と言う点に顔を曇らせた。
「女というからにはアズカバンに収監中のベラ……ベラトリックス=レストレンジの事だろう。ただ……そもそも分霊箱をどこに何にいれたのかさっぱり思い出せない」
多分あれを使っただろうとかはあるにはあるが、と言うヴォルに、なぜかロンが大切にしなきゃっていうものに限ってわからなくなるのあるあると頷く。
ハリーはダドリーのせいで大切な物はしっかり隠しておいて管理しないと、と習慣づいていたため、ピンと来ていないのか首をかしげる。
ハーマイオニーに至ってはそもそも整理整頓がしっかりできているのだろう。何をどこにしまっているかなんて忘れるわけがないという事だ。
「何十年前の話だと思っているんだ」
おぼえているわけないだろう、と言い放つヴォルにあなたの年齢時々忘れるのよ、とハーマイオニーが笑う。何だったかなと考えるヴォルにロンが指を指折り数え……。
「ヴォルって実際には60歳超えてる?」
「50半ばで襲撃に来たはずだから……もうすぐ70歳!?」
すごい!とロンと一緒に盛り上がるハリーにヴォルの手が伸びる。ぐっと抱き寄せられるハリーはどんな年齢でも大好きだよ、と笑顔で返した。
軽くため息を付くヴォルは夏季休暇中たっぷり可愛がらないと、とニヤリと笑う。あーあーこのバカップル、と呆れるロンはそうだ、と手を叩いた。
「今年クィディッチのワールドカップがあるんだ。パパがよく魔法省からチケットをもらうんだけど……もしもらえたらハリー達もおいでよ。すっごい楽しいぜ!」
テントで泊るんだ、と言うロンに初めて大人の……プロの試合が見られるかもしれないことにハリーの眼が輝く。そういうものもあるのか、とハリーが喜んでいる“ハリーの好きなこと”に関心があるヴォルだが、チケットのつてはない。
ルシウスの胃に穴をあけたばかりでこれ以上弄ると息子がめんどくさいため、ロンの父親のほうで手に入ればと考える。
ファイアボルトは試合を見に来ていたというシリウスが用意したものらしく、ヴォルはブラック家の財産が本当に莫大なんだ、といまさらながら値段を思い出すハリーに気にするなどフォローを入れた。
ルーピンはひとまずスネイプが開発している脱狼薬の改良版の被検をするため、事情を知った狼人間らを保護する団体らに一年間身を寄せることとなった。そのため、どうしても来年は教卓に立てないと休暇前にハリー達に伝える。
休暇前最後の満月の夜は厳重な警戒の下、狼人間に対する特別講習が開かれ、本人がどれだけ苦しいのかを目の当たりにした生徒らはぐったりするルーピンを励ましていた。
シリウスは脱獄に関して様々法を犯したが、13年間無実の罪でとらえられていたことなどを考慮し不問となった……が、ホグワーツの器物破損についてはマクゴナガルに一任されることとなった。
「で、一年間反省の意味を込めてハグリッドと門番ってわけだ」
アニメ―ガスが特定の場所と時間以外に元に戻れないよう、特別に作られた魔法道具を首に付けた黒い犬……パッドフットはヴォルの笑いを含んだ声に、あんまりだと前脚で顔を隠す。
面会可能時間になるとシリウスに戻り、もうほんと備品壊すのだけはやめとくんだぞ、とマクゴナガルの怒りをかったシリウスは見えない尾と耳をぺたりと下げて言う。
「俺とジェームズが廊下で悪戯仕掛けた時の比じゃない。あれは心の底からの怒りだ……」
本当に、絶対というシリウスにハリー達はヴォルの顔を見る。
「去年、大階段とその周辺大破させていたわよね」
「あれは不可抗力だ。ハリーとナギニを襲った奴らが悪い」
「クィディッチの競技場大破は?」
「あれはディメンターが悪い」
ハーマイオニーとロンの指摘にヴォルは俺様は悪くない、という。確かに彼が発端ではないが、それでも破壊したのは目の前の青年だ。ディメンターが入ってきての騒動は箒のことを知っているシリウスももちろん見ていた。
「なんでお前は許されて、俺はあんなに怒られなければならないんだ」
おかしいじゃないか、とこぶしを握るシリウスにハリーが考える。彼らの違いは何だろうと思い返して、あ、と声を上げた。
「わかった。シリウスは自分勝手に壊したけど、ヴォルは僕とナギニが怪我をしたことが発端だし、ディメンターも危うく大怪我するところだったから……全部僕に起因しているからだ。じゃあやっぱりヴォルは悪くないね」
全部僕のためだ、と嬉しそうに笑うハリーにヴォルは当たり前だ、とニヤリと笑い……自分のやったことにシリウスは呻く。そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
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