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この一年の反省期間が終わったのち、シリウスは正式にハリーを引き取る気だという。
「いくら血縁の家と言ってもマグルの家だろう。それなら、と思って聞いているところだ」
魔法は未成年のために使えないが、魔法使いの家、と言うのにハリーは目を輝かせて魔法の制限がないヴォルの手を握る。
「ヴォルは魔法の事気にしなくてよくなるね」
にこにこと笑うハリーにシリウスがえ、と顔を上げた。あぁそうだなハリーといつもの二人の空間を作るのにちょっと待ったと声を上げる。
きょとんとするハリーはヴォルの腕をしっかりつかんでいて……気にしていない風のハーマイオニーらに困惑するようにシリウスは視線を移した。
「前にシリウスが寮に侵入したとき、ヴォルのベッドにハリーいたし、夏は同じベッドで寝てるし……」
「去年の夏は漏れ鍋でシングルの部屋だったわね。それと、前にヴォルがハリーを連れ出したって一日どこか消えたこともあるし」
逆にこの二人を引き離す方が危ない、と口をそろえるロン達にシリウスは寮に侵入したときのことを思い出す。失神呪文を唱えてきたヴォルと同じ寝台にもう一人の影があった。おそらくはそれがハリーだろう。
「特にヴォルの暴走を止められるのはハリーだけだけど、ハリーに関する暴走は引き離すとおきるから……だから離さないほうがいいと思う」
「そうそう。それに、ヴォルと引き離すとハリーが悲しむわ」
「確かに、ヴォルがいないとき、ハリーはずっとヴォルのベッドで寝ていたぐらいだし、絶対引き離さないほうがいいと思う」
だからシリウス、あきらめて、と口をそろえる二人にシリウスはえぇえっと声を上げ……小首をかしげるハリーを見る。その手は固く結ばれていて……せめて別の部屋にと言うが、ロンとハーマイオニーは無駄だと首を振る。
「俺とハリーが離れるなんて、そんなこと起きるわけがないだろう」
「ヴォルとはずっと一緒だったから……。暮らすなら一緒じゃないと落ち着かないよ」
離れ離れだなんて、それこそ“非常識だ”と見つめあう二人にシリウスは呻くしかない。この蛇男にとぶつぶつ呟き、首についたままの首輪が光る。
それで時間が来たことを知ったハリー達は立ち上がると、犬のなったシリウスに手を振った。
まだ話が終わってはいなかったがそうも言っていられないシリウスは、遠吠えで別れを告げ名残惜し気にじっと遠ざかる影を見つめていた。
一年が終わり、列車に乗る4人はいつものコンパートメントに集まり、今年は大変だったと例年のことながらため息を付く。
「それにしても……こいつは大丈夫なのかな」
列車が出発する時にパッドフットが咥えて持ってきた小さなフクロウを手に、ロンはどうしたものかと考える。大事にしていた鼠が犯罪者だったという事にショックを受けていたロンではあるが、渡された豆フクロウにも困惑していた。
「クルックシャンクスが何も反応していないという事は、アニメ―ガスとか怪しい動物じゃなさそうだ」
預かってほしいってことだろうと言うヴォルにロンは目をしばたたかせる。やる気満々な様子のフクロウに先輩フクロウであるヘドウィグが胸を張り、ナギニが楽しげに見ている。
自分だけのフクロウという事でロンは喜び、豆フクロウも喜ぶ。
「夏、ワールドカップがなくともまた呼ぶよ!フレッド達がヴォルに新しいグッズの案聞きたいって」
双子の兄らがヴォルによく絡んでいた理由が分かったロンは、闇の帝王印の悪戯グッズ、と笑う。笑えないレベルのものは作らないでよね、とくぎを刺すハーマイオニーにヴォルはさて、と目をそらす。
とりあえず、この夏ウィーズリー家に行く前にたっぷりハリーを愛したい、とヴォルは開発中の魔法薬の製薬とともに作り置きした、様々な効果の魔法薬を試したくてうずうずしていた。
魔法薬はまだまだだが、もう少しでできそうな感触はある。せめて、俺様ほどの能力があるものがもう一人いればもっと早まるだろうが、と抱き寄せているハリーを見下ろす。
腕の中でどうしたの?と首をかしげる姿に、両方ともじっくり開発すればいいか、とヴォルは口角を上げ、ハリーの額に口づけた。
恥ずかしがるハリーはシリウスの名前で書かれたホグズミード許可書と、乱暴に肉球が捺された許可書を胸にニコニコとほほ笑む。はじめは一枚だったが、ヴォルの分もお願いして……悲しげなハリーに、様々葛藤し顔をしかめた名付け親がヴォルの分と書いてくれたのだ。
なくとも勝手に出るのだがな、と言うヴォルだが公式に許可されていればその分制約もないわけで……。
昔はそんなことお構いなしだったが、ハリーと言う宝がある以上、無茶なことばかりするわけにはいかない。
「楽しい夏になるといいな」
「もちろん。あ、そうだ、ロン、電話を使う時は普通にしゃべるんだよ」
電話するというロンに、怒鳴ってはいけないと教え、ロンはわかっているよと頷いた。マグル学をやめることで通常の授業構成になるハーマイオニーは貴方こそ取得したら、と呆れ交じりに呟く。
様々なことが変わりつつも、変わらないものがあることを再認識した3年生。それじゃあまたね、と駅で別れを告げると律儀に来ていたバーノンの車に乗る。
これからの学生生活、楽しくなりそうだね、と笑いあう二人はまずあの狭い部屋に戻り次第キスしよう、と座った椅子の上で、バーノンに見えないよう指を絡ませる。
信号待ちでイライラするバーノンの目を盗み、ヴォルがハリーの耳元に口を寄せた。
「ずっと一緒だ、ハリー」
「もちろん。これからもずっと一緒だからね」
きっとキスだけじゃ足りない、と分かり合っている二人は早く家につかないかなと、それだけを考えているのだった。
リバースライフ3 終わり
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