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「ハーマイオニーこれありがとう」
 ヴォルが首から砂時計のついた鎖を外すと丁寧にまとめ、ハーマイオニーへと返却する。初めて見たそれにハリーとロンは何だろうかと首を傾げ、本当はダメなのにとため息を付くハーマイオニーを見た。
「これはタイム・リターナーという過去に戻れる魔法道具よ。これを使って同じ時間の別の授業に出ていたの」
 突然後ろから消えたハーマイオニーはそういう事だった、と今年起きた不可解な行動を説明する。首をかしげるロンとハリーだが、あ、それで、と透明マントをもって行ったヴォルが何もせず医務室の前にいた謎の答えに気が付く。

「ピーターのせいでいろいろ計画が狂ったんだ」
 悪びれもしないヴォルにダンブルドア先生をあの場に呼ぶためには貸さなくてはいけなかったの、とハーマイオニーが続けた。


 透明マントの中で発動させ、城から出るダンブルドアらの後についていくと、ヴォルは大臣らのために開かれた扉に便乗し中へと入った。執行官はよく見たマクネアと言う男で、磨いた斧を入念に確認していた。一緒にやってきたルシウスは素早く部屋の中を見回す。
 不幸の手紙と言うべきか、ここに来いという手紙が来たということはどこかに抜け目ない闇の帝王(少年)がいるはずだ。

 それを見て、ヴォルはニヤリと笑うとルシウスの左腕を掴んだ。突然掴まれたことに驚くルシウスだが、処刑の手続き中で騒ぐことが貴族としてできない。マントに隠れたまま前に進み出るヴォルは書類にサインをしようとしたマクネアの左腕を、闇の印を掴む。
 突然の苦痛に思わず叫ぶマクネアは誰だと振り向き、マントを脱いだ青年を見つめる。

「魔法生物の処理係など……ワルデン=マクネア。少し待ってもらおうか」
 腕を強く握りこむヴォルに苦痛で声が出ないマクネア。ファッジは何が起きたかわからず、おろおろと急に現れた青年と、叫び声をあげた後あまりの痛みに、斧を落とし膝をついた執行人を見る。

「ルシウス、今回のことについて、俺様は件のヒッポグリフがけがを負ったのを確認している。ルビウスにはその写真を証拠にと持っていかせたはずが、てんぱりすぎてどうやら生かせなかったらしいが。だが、この眼で見たうえ写真を撮った現場にもいた。よもや、俺様の証言が信用できないなんてことはいわないだろう?」
 ようやく手を解放すると、マクネアは息も絶え絶えになって、信じられないものを見るような目で青年を見つめた。

「あぁ、マクネア。安心しろ。痛みを与えるだけで死喰い人らを集めた訳ではない」
「なっなぜ……。いったい何が……」
 呆然とするマクネアにヴォルはニヤリと笑うと、ファッジ、と大臣を呼び捨てにする。呼ばれたファッジは思わず顔をしかめ、姿勢を正すとじっと……生き残った男の子といた謎の青年を見つめ……俺はヴォル=セルパン、と名乗ったその名前に顔を青ざめた。


「口外はするな。察しの通り、俺様はポッター家襲撃の際、リリー=ポッターの命がけで施した守りの力を受け、ハリー=ポッターにかけた呪いが跳ね返り赤子に戻ったヴォルデモート卿本人だ」
 ここにいるお前ら役人だけが知らないだろうがな、というヴォルにダンブルドアは鋭い目を向け、ルシウスはファッジの眼から逃れるように視線を逸らす。

「ピーター=ペディグリーがスパイとして俺様のもとに来た。ジェームズ=ポッターらは俺様を出し抜こうとあがき、そのネズミに重要情報を託した。その結果がハロウィンの真相だ。逆上したブラック家の男が追跡をしたが、まんまと罪を擦り付けられた……まぁ運が悪かったのだろう」
 俺様にとって右腕はそこにいるルシウスが該当していただろが、それはどうでもよく、見知らぬ男が部下だ部下だと言われるのは非常に気持ちが悪い、と言い放つヴォルにファッジは腰を抜かし、マクネアは信じられないという目でヴォルを見つめる。だがよくよく青年の持つ杖を見れば、確かに闇の帝王の杖だ。

「俺様は今、ハリー=ポッターのおかげで非常に充実し、満たされている。だから、ハリーがいれば、再び君臨するつもりはない。そこは安心しろ、魔法省大臣」
 嘲るような、人を見下すような目でヴォルは言葉を紡ぐ。最期の言葉にはファッジは震え、その席にいたければわかっているな?、とまるで蛇が体に絡みつき、耳元で声なき声を囁く……。そんな声を聞いた気がして、知らず知らずのうちに小刻みに首を縦に振っていた。


「ところで、今回の裁判だが……ルビウス、このヒッポグリフは俺様が貰ってもいいか。ハリーがとても気に入っていたのでな。殺すには惜しい」
 良いだろう?、とお願いする立場の態度ではないヴォルだが、このままでは死刑が実行されてしまうためハグリッドは唸りながらそれでこいつが助かるってぇならと重々しく口を開いた。

「ではこれで成立だ。そしてこれは俺様のものという事で……ルシウス」
「わっ我が君……。所有物に対し私が手出しする道理はございません為、如何様にも」
 名前を呼ぶだけでも高圧的な態度のヴォルに、ルシウスは胃が、胃が痛い、と顔をしかめながら丁寧に礼をとる。

「そういうことで死刑はなしだ。原告が死刑を取り下げたのだ。次に置き場所だが……俺様はまだ家を所有していない。卒業後はハリーを閉じ込めて尚、ハリーが窮屈に感じられない程度には広い家を手に入れるつもりだが、それまでの期間どこか預かってもらえるところが必要だ。ダンブルドア、何かいい場所はあるか」
 ファッジとマクネアが持っていた書類が青白い炎で焼かれ、一瞬で消える。難しい顔をしていたハグリッドだが、ヴォルの話の流れにぽかんと口を開け、ニコニコとするダンブルドアを見る。

「それならばこの城で預かっておくとしよう。幸い、扱いになれた魔法動物学の教員がおる。しっかり面倒を見てくれるじゃろう」
 ハグリッドに笑いかけるダンブルドアにハグリッドは感極まって手に持ったハンカチを握りしめ、プロテゴを唱えるヴォルを抱きしめようとして、盾に阻まれる。

「これで、俺様がお前を退学に追いやった冤罪の件についての話は終わりだ。アクロマンチュラを飼うだけでも普通に退学条件を満たしていたが、マートルの死を擦り付けたことについてはこれで返す。それでいいだろう」
 触るな気持ち悪い、というヴォルに抱きつくのを諦めたハグリッドがハンカチで鼻をかみ、バックビークに報告しに行った。
 放心状態のマクネアと、抜けた腰をどうにか奮い立たせ立ち上がったファッジと……どこか温かみのある目で見てくるダンブルドアになんだ、と睨み返した。

「あぁダンブルドア、それとファッジ。そろそろハリー達がディメンターに襲われている時間だ。叫び屋敷に真犯人を抑え込んだんだが、どうにも飢えたディメンターが城に向かおうとして、生徒4人と教員に気が付いたらしい。3人が守護霊で応戦しているが何せ数が多い」
 3人と聞いて一つ頷くダンブルドアは小屋を飛び出し、これ以上不祥事は困るとファッジもそれに続く。


 死喰い人2人と闇の帝王とだけが残った小屋の中、ハグリッドの犬ファングがぶるぶる震えながら寝台に顔を隠した。

「で、だ。ルシウス。お前の息子は何なんだ。ことあるごとにハリーに絡んできて。ディメンターの性質も知らないで人をからかい、あげくハリーを箒から落とそうとディメンターの振りまでした」
 どういう教育をしたらあぁなるのだ、と問いかけるヴォルにここに来る前にセブルスから胃薬をもらうべきだった、と後悔するルシウスは返す言葉もございません、と首を垂れる。
 従順なルシウスの態度をみて、マクネアはだが、でも、と目の前の不遜な態度の青年を見つめた。なにより、腕に刻まれた闇の印をどうにかできるのは入れた本人だけのため、疑いようもないのだが知っている姿とかけ離れているせいで形の違う鍵を錠前に入れようとするかのようにかみ合わない。

「去年、ナギニを追いかけたやつが奴だったならばよかったが……。そこまでの度胸はないらしい。体を張ってまで授業を妨害しようとし、案の定けがを負いそれを人のせいにするなど……。小物のするようなことで、お前が保っている“貴族”の姿とは違うな」
 テーブルに寄りかかるヴォルの言い分にルシウスの胃がさらに悲鳴を上げる。同時刻、別の場所で同じ青年によって、胃を痛める後輩がいることなど露とも知らず苦痛を耐える様子をヴォルだけが楽し気に見つめていた。
 外での騒ぎが収まると、そろそろ戻らなくては、とヴォルが出口へと向かう。ここにいても仕方がない二人もまたそれに続き、帰路につくため外へと出る。

「俺様の正体について、誰かに言おうものならば……地の果てまで追いかけ、早く殺してくれと懇願するほどにたっぷり傷みつけてやろう」
 よいな、とマクネアに命じたヴォルは透明マントをかぶり、医務室へと向かう。残されたルシウスは大きく息を吐き、敷地外へと足を向けた。
 マクネアも死刑が執行されないのであればこれ以上城にいても仕方がない事であるのと、一人になって状況を整理したいと斧を引きずるようにして立ち去っていく。

 
 




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