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ですよね、とため息を吐くロンとハーマイオニーはそういえばとスネイプを見て、げんなりした顔に可哀そうになる。ふと、時計を見たヴォルはまずい、と声を上げた。
「今日は満月だ!セブルスがいるところを見ると今日の薬を受け取りに行くところだったんだろう」
だからまずい、というヴォルにルーピンとスネイプははっとしてロンとハーマイオニーを扉の方に向かわせた。ピーターを連れてこの場を出ようというシリウスだったが、ハリーはちょっと待ってと声を上げた。
「ワームテールはずっとロン達をだまし、親指しか戻ってこなかったと嘆いていたお母さんを傷つけた。だから、ディメンターらに受け渡して終わりじゃ腑に落ちないし、なによりおじさんみたいに逃げたら意味がない」
進み出たハリーに、シリウスはおじさん……と固まり、ルーピンとスネイプは意図が分からずヴォルを振り仰ぐハリーを見る。
「それに、おじさんだって散々いろんな人に迷惑をかけたし……。ここはひとつ学生時代に戻ってみるっていうのもいいと思って。ヴォル、ピーターを天井近くに浮かしてもらっていい?」
逃げないといけないけれども、ルーピン先生を一人にするのは良くない、というハリーはここに連れ込んだシリウスに元凶はおじさんだからと続ける。何も言わず天井にくっつくように浮かせるヴォルはハリーがごそごそとポケットから出したものにニヤリと笑う。
「そっそんな、リーマス、シリウス、なっ懐かしい友よ、たっ助けて」
ばたばたともがくピーターに二人は返事をしない。それどころか、シリウスは苦々しくふざけるなと吐き捨てた。ちょっと瓶を貸してくれハリーというヴォルに瓶を渡すとヴォルが魔法を注ぎ、ジェームズが出ていられる時間を延長する。やれやれとため息を付くジェームズの霊は裏切った本人、ピーターを見つめる。
「僕の名前は呼ばないのか」
にこりと眼だけ笑っていないで声をかけるジェームズにピーターはひぃっと声を上げた。
「俺様の杖はこれから先も使い続ける。だから直前呪文もいつまで出てくるかわからない。だが、この瓶に複製した死の呪文の直前呪文の効果がはしばらく保っていくれるはず。あとは俺様の杖で定期的に力を注げば半永久的な保管が可能なはずだ」
だから今晩はじっくり4人で過ごしてもまた会える。そう続けるヴォルの隣でハリーはえいっと白い球を天井に向かって投げつけた。
「フレッド達からもらった、トリモチとかいうイタズラグッズ。もし今ネズミになると息ができなくなると思うから、やめた方がいいよ。で、おじさんはお父さんと一緒にここでピーターとルーピン先生を見ていて欲しいんだ。明日、日が昇って先生が元に戻った頃にダンブルドア先生に来てもらうよう、ちゃんと伝えておくね」
あぁ後ろの相方の悪影響が、と悪意のない笑顔を話すハリーをよく知る3人は察してロンの足のけがを治すスネイプが先に二人を扉から外へと出す。
「それじゃあ、僕ら行きますね。だから、後はよろしくお願いします」
動きを止めたルーピンにヴォルはハリーを扉に押しやり、青ざめたピーターと素早く瓶を寝台の下に隠し、犬になったシリウスが身構える。寝台の下から上に出てきたジェームズは苦笑して、扉に向かった息子に手を振る。
手を振り返し、二人で出ていくと先に出ていたスネイプらを追いかけた。
「とにかく、このことはダンブルドア校長に……」
ルーモスで明かりを出すスネイプが先導しようとして、4人をかばう様に手を伸ばした。城に向かうまでの道にうろうろとするのはディメンターだ。暴れ柳から少し離れる時に肌寒いと考えていたハリーはぎゅっとヴォルの手を握る。
「エクスペクト・パトローナム!」
唱えるスネイプの杖から雌鹿がでてきて、5人に気が付いたディメンターを追い払う。だが数が多い。
「よりによって……おおかた、試験が終わり解放感に満ちた空気に食を求めて集まってきたのだろう」
戻ることもできない状況で、ディメンターなどさっさと追い返せばよかったものを、と配備することとなった理由の脱獄犯に怒りがつのる。
「エクスペクト・パトローナム!」
ハリーも唱えると牡鹿を出し、集まってきたディメンターを追い払う。パトローナスが使えない二人はハリーとスネイプを見守り……じっと自分の杖を見るヴォルを見る。
「エクスペクト・パトローナム!」
まばゆい光がヴォルの杖からあふれ、大蛇となってディメンターに襲い掛かる。追い払うのではなく攻撃を仕掛けていくところにヴォルらしい、とハリーは疲れた顔で笑い、3体の守護霊たちがディメンターを追い払うのを維持するためぐっと杖を握り直した。
そしてそこに不死鳥の守護霊が来ると、ディメンターは持ち場に戻るよう慌てて逃げていく。
「まさか、ディメンターがこんなことをするなんて」
青ざめるファッジが駆け寄ってきて、その後ろからダンブルドアがゆっくり歩きながらディメンターを追い払った不死鳥を肩にやってくる。
「どうやら無事だったようじゃな」
にこりと微笑むダンブルドアにハリーは力が抜けてへなへなと座り込んだ。大丈夫かと顔をのぞき込むヴォルの声にファッジが目を向け、ひぃと声を出し、こちらもへなへなと座り込む。
何をしたんだ、と考えるスネイプだがハーマイオニーのそういうこと、と言うつぶやきに彼女に許された特例を思い出し、小屋にいるだろう人々を思う。胃痛の薬、もっと量産すべきか、と目をそらした。
何とか自力で立ち上がったファッジだが、ヴォルから一定の距離を取り、子供たちに襲い掛かるディメンターについて対処しなければという。
「ファッジ大臣、叫び屋敷に今僕の両親の死の真相と、大爆発について本当の犯人を知る人達を狼人間のいる部屋に閉じ込めておきました。だから明日、真犯人を捕まえてください」
一応噛まれないよう安全は確保しています。そう話すハリーにダンブルドアは訳知り顔で微笑み、ファッジは意味が分からず目をしばたたかせた。
とにかく今はディメンターに遭遇したこともあり、今晩は医務室に行くようにと促した。
「ハリー、透明マントを借りていいか」
すぐ返すから、と言うヴォルにハリーは頷き、マントを手渡す。ため息を付いてちゃんと後で返してね、と言うハーマイオニーが何かを渡し、ヴォルはマントをかぶる。
ダンブルドアとファッジが校長室に行き、スネイプが先導して医務室に向かうとそこにはマントありがとうと言って待っているヴォルの姿があった。
あれ?というハリーにすぐ返すと言っただろうとハリーを抱きしめる。医務室に入るとチョコを持っているポンフリーがいて、有無を言わさず4人の生徒に手渡される。
スネイプはいらないと辞退していたが、校医命令です、と言われてしぶしぶひとかけら口に運ぶ。
「今夜はここで休みなさい」
ディメンターなんて本当に最低、と怒るポンフリーは生徒をベッドに案内し、隣の部屋へと消える。スネイプは校長と話があると言って部屋を出たため、4人はそれぞれのベッドに行く振りをして……ヴォルの周りに集まった。
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