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ぶわりと先ほどの続きをするかのように蓋をした瓶から眼鏡の男が現れ、あたりを見回す。
「ジェームズ……」
思わず声がこぼれたのは3人のうちだれだったのか。それとも同時だったのか。呼ばれた当人は久しぶりだね、と親友達に笑いかけた。
「ほら、近いうちにまた会えるって言ったでしょう」
スネイプの手に持った瓶から出てきた女性……リリーはハリーに微笑み、ヴォルと仲良くやっているのかしら、と言う。耳を赤く染めて頷く息子にリリーは満足し、スネイプを見る。
「みんな揃うなんて……。セブ、ありがとう」
ふふ、と笑うリリーにスネイプは顔を背け、幾人か余分だ、と返した。あぁ、もうキャパシティー限界だよ、とこめかみに手を当てるルーピンに、俺もわけがわからないとシリウスが答える。
「うわ、スニベルス……その恰好でここってことはホグワーツの教員か……。うわぁ……」
からかうようなジェームズにスネイプの青筋が浮かぶが、リリーがジェームズ、と鋭く低い声を出したことで二人の間に流れる険悪な空気が冷やされる。
「すごいことになってるね……」
「僕たちどう反応するのが正解なのかな」
傷の手当てが完了したロンにハーマイオニーがつぶやき、ロンもまた力なく答える。
「やっぱり君は……」
口に出してもいいのか、迷うルーピンはハリーを後ろから抱きかかえるヴォルに対し抗議する親友の霊のような姿をじっと見て……あれ?とロン達を振り向いた。
「君たちは彼の正体を知っているかい?」
いやまさか、というルーピンだが、顔を見合わせたあと全く同タイミングで頷く生徒に思わず乾いた笑いが漏れ、大きく息を吐いた。
「なんで、なんでお前がハリーを抱き抱えて……」
わなわなとするジェームズにヴォルは謝罪はしないぞ、と言い放つ。苦笑するハリーはちゃんとわかっていると頷いた。
「まて、俺が理解できていないのか、それとも目の前で起きていることが全て現実なのか……。まず、お前はいったい誰なんだ」
訳が分からない、というシリウスにスネイプはまさか奴に憐れみを覚える日がこようとは、と二重の意味で思考停止したピーターを見た。
「俺か?俺は……ヴォル=セルパン。ヴォルデモートの息子と言う名目でハリーとともにあの老いぼれによりプリベットに預けられ、共に成長した伴侶だ」
しれッと言い放つヴォルにハリーは頬を染めて、抱きしめられるがままに背を預ける。本当になんでこの状況で、と繰り返し考えるルーピンとスネイプは無言で胃薬兼頭痛薬を服用する。
ジェームズが奴に息子なんていないだろうと言い出せばシリウスもその通りだと頷き……はっと顔を上げた。
「なんで奴がハリーと同年代になっているんだ!!」
「私が最後にハリーを守る魔法と、どうしてこんなにか弱い赤ん坊を恐れるのかしらって。そう思って最後の力でハリーと同じ姿戻すよう、ハリーに魔法を預けたの。それがうまくいったのは見てのとおりよ」
どうして恋人になったかは分からないけれども、と言うリリーにジェームズもシリウスも思わず言葉を失う。パクパクと口を動かすシリウスは、喉の奥で奇妙な音を立てるだけで何も声に出ていない。いや、出すことができない。
「……あの晩の出来事がどれほど俺様の心を動かしたか」
ダドリーに風邪をうつされ、寝込んだあの晩……。懐かしい記憶に思わず目を細めると、はっとして小さく微笑む。
「ハリー。俺様が一番幸せだと思えた……あの瞬間の当時はわからなかったあの感情が……。多分もうパトローナスはできる」
熱さましなんて気の利いたものをあの夫妻が持ってくるはずがなく、それどころかダドリーの看病で忙しく熱を出したヴォルはハリーとの部屋で一人寝台を占拠していた。
やけに冷たいものが額にある、と目を覚ましたところ当時は定位置だった床で寝るハリーを見て……。額に乗せられた濡れたタオルを手に取る。
力だって不十分なそれはまだほのかに冷たさが残る。ハリーの隣には水の入ったバケツがあり、ハリーの手は赤くふやけていた。
ずっと看病してくれたハリーのことが嬉しくて、心に感じたことのない想いを芽生えさせた。誰かに無償の愛を与えてもらったことなど、一度だってなかった。
意地悪をしてきた自分に対しても分け隔てない、ハリーの優しさと深い愛情。それに触れたと自覚した瞬間、まるで乾ききった荒野に雨が降り注ぎ、大地が色を変え潤う様に、魂の何かが変わったのを感じた。自分にとって命の源であり癒しであり……唯一無二のハリー。
この感情でパトローナスが出てこなかったならば、魂の本質上仕方がないのだろう。それならば自分は闇として影としてハリーを覆い、寄り添えばいいのだ。
すっと目を細めるヴォルにハリーはぎゅっと手を握って、今度見せてよと言う。両親の霊とそれを殺した男といちゃつく息子、裏切った男と脱獄してきた男と怒りを胸に秘めた男と、狼人間と唖然としてみるだけの若者二人。
これ以上ないほどに混沌とした状況にハーマイオニーとロンは唯一話が通じそうなルーピンを見た。ルーピンもまた困っていたのか二人をみて、理解の範囲を超えていると首を振った。
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