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「さすがブラック家の男だ。ベラと言い他の血筋の奴らといい、思い込みが激しいというべきか、自己中心的と言うべきか」
やれやれ、と言いながら入るヴォルにどういうことだ、と聞いたことのない男の怒号が答える。ロンはどこかぶつけたのか、スキャバーズを握っていることを忘れているように足を抑えてうずくまっている。
そろそろ中身出るんじゃないかな、とスキャバーズことピーターの心配をして……ヴォルの前にハリーが進み出る。
「シリウス=ブラックさん。僕の名付け親で後継人なら少し落ち着いて下さい。じゃないと、ロンがワームテールを握り潰しそうです」
ちょっと冷静になって欲しい、と言うハリーにやせこけた男は目をしばたたかせ。どういうことだ?と首を傾げた。じっと自分を見つめるハリーを見て、あぁと嬉しそうに顔をほころばせるが、それを見たヴォルがハリーを後ろから抱きしめ、牽制する。
「お前はいったい誰だ」
唸るような声にハーマイオニーはどぎまぎしながら、壁沿いを通ってロンのもとに駆け寄る。部屋の中央にいたシリウスはそれには反応せず、じっとヴォルを睨み詰める。
「俺様はヴォ「ヴォルは僕の大事な人。だから絶対傷つけないで」ート……あぁハリー。そんな嬉しいことを言われると嬉しくなってしまうぞ」
後ろから延ばされたヴォルの腕を抱きしめる様に手を重ねるハリーに、当人は喜んで首筋に顔を寄せる。どうしてこの状況でもイチャイチャしているのかしら、とハーマイオニーは首を傾げ、持っていた傷用の魔法薬をロンの足に垂らした。
「急いできたけど……。あー……君達、こんな状況でよくいちゃついていられるね……」
たまたま地下牢に向かうところだったんだ、というルーピンが入ってきて、その後ろに脱狼薬のことで近くにいたらしいスネイプが眉間の皺をこれでもかと寄せて続いてきた。
「スニベルス!!なんでお前がここに」
ぎりっ、と歯ぎしりが聞こえるほど歯を噛み締めるブラックに、スネイプもまた一直即発の雰囲気を醸し出す。
「セブルス、俺様の許可なく魔法を使ったりでもしたら、杖を折った後ダイオウイカの餌にするぞ」
お前は黙っていろ、というヴォルに部屋の空気が余計におかしなことになる。ロン、と呼びかけるとぐったりしたスキャバーズの尻尾を掴んだロンが顔を上げ、どうしようこれ、と言う。
「あぁそこにおいてくれ。今すぐ元に戻させる」
そこに投げていい、とシリウスのすぐそばを示すヴォルにロンはほいっと投げて、落ちたスキャバーズを見つめた。ヴォルが杖を振るえば、縛られた少し髪の薄い男が、目を回して座り込んでいた。
「大方の事情は知っている。どうせヴォルデモートの目を欺くため、この男に秘密の守り人を負かせ、自分は囮となって逃げたのだろう。だが、こいつは死喰い人の一人だ。あえて腕に印がないだけの、“ネズミ”だ」
ハリーを抱きしめながら淀みなく話すヴォルに、ブラックは驚いて、黙っているルーピンを見た。
「なるほど……。あの時誰が裏切り者かわからない状態だったね。ずっと君を誤解していたよ、パッドフット」
さすがに当事者、と口の中で呟くルーピンは前に進み出ると、俺だってお前を疑っていただろうとブラックはいい、親友との再会と友情を確認するように抱きしめあう。
「お前は一体何なんだ」
それで、と体を離しながら赤い眼の少年に問いかけるブラックに、ヴォルは少し考えて……ポンと手を叩いた。
「そうだ、まだ安定はしていないが、ここで試すのもいいだろう」
早く終わらせて全員をここから追い出し、寝台にハリーを押し倒したい、とそう考えるヴォルは説得させるのも説明するのも面倒だ、と懐から鉱石の入った瓶を取り出した。
「ハリー、ちょっと離れて、俺に向かって呪文を唱えてくれないか。もしかしたら安定しない理由は……不死鳥の尾羽が関係しているのかもしれない」
杖を繋ぐんだ、と言うヴォルにハリーは頷き、少し距離をとる。全く訳が分からないブラックだが、ちょっと見守ってみようというルーピンに頷いて目を覚ましたらしいピーターを見る。
その瞬間、金の帯が部屋に満ち、不思議な歌……不死鳥のさえずりを聞いてハリー達に目を移した。二つの杖を繋ぐ金の紐の大きな球が浮いており、それが正体不明の少年の杖に触れる。
「これは……直前魔法か」
膨大な量の魔法が再生され、リンドウ色の炎が出ると花開くように何かが絞り出される。
「セブルス!今だ!」
片手で震える杖を掴むヴォルが瓶をスネイプに渡す。スネイプはそれをまだ開ききっていない何かを入れるように瓶を押し当てた。鉱石にそれが吸い込まれると、スネイプは急いで封をし……嫌そうな顔を隠しもせずにもう一つ出てきたものを同じように別の瓶に入れる。
「ハリー、もう大丈夫だ」
せーの、と声を出すヴォルにハリーも同調して杖のつながりを断ち切った。部屋が急に暗くなったように光が消え、歌も消える。唖然とするブラックにルーピンもまた何が起きたのかわかっていない。
そんな中、スネイプはまるで汚らわしいものが入っているように2つ目の瓶をハリーに投げ渡し、杖を出して瓶の底にあてがう。受け取ったハリーは同じようにして杖を構えると、こんこんと真似して叩いた。
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