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急いで報告しようとするハリーだったが、深刻そうな顔のハーマイオニーに思わず足が止まる。
「あぁ、ハリー、お疲れ」
ハリーを抱き寄せるヴォルが額に口づけるも、ハーマイオニーの見せてくれた手紙に目が釘付けになる。バックビークが敗訴し、これから処刑されるという内容にロンも黙り、唇をかみしめる。
行こう、とハリーが言い出すとそういうと思った、と言ってヴォルが透明マントを差し出した。4人で包まろうとするとヴォルはこの方がいいだろうと言って蛇になった。
ナギニをハーマイオニーの首に移させて自分はハリーの首に巻き付くと身を寄せ合いハグリッドの小屋へと向かう。扉をたたき中に入るとヴォルは素早く元に戻り、平静を装うとして震えるハグリットを見る。
「バックビークが助かるってなら悪魔にでも縋りてぇ気持ちだ」
ミルク入れを落とし、床にミルクをまき散らしたハグリッドがぐったりとした様子で椅子に座る。ミルク入れを杖で直すハーマイオニーに、ヴォルも杖を振るとミルクを消し去った。
「ほぉ……。なるほど」
小さな声で呟くヴォルにハリーは首を傾げ、ハーマイオニーの声に驚いて顔を上げた。
「ちょっと、ロン!スキャバーズよ!じゃなかった、皆、ピーターよ!」
ほら、と棚からコップを取り出そうとしたハーマイオニーが予備のミルク入れを持ってきて、逆さに振った。慌てて中に戻ろうとする鼠の姿はみすぼらしく、より一層痩せている。
「いってぇなんの話だ」
驚いて涙が引っ込んだハグリッドにヴォルは説明している時間はないと言って杖を構えようとして……表から聞こえた足音に杖を止めた。
「来たんだわ……。いかないと……」
ここにいたのが知られたらハグリッドの印象がもっと悪くなる、と焦るハーマイオニーに今ここで二つのことを同時に処理するのは確かに得策ではない、とヴォルは何か考えていた。杖を振ってスキャバーズをぐるぐる巻きにするとロンが責任をもって僕が持つ、と言う。
「ハーマイオニー、バックビークのため、後で貸してくれないか。本当なら残って対処したいけど、鼠がいたのは誤算だった」
ハーマイオニーの言う通りここでみんな揃っているのはまずい、というヴォルに一瞬嫌そうな顔をするハーマイオニーだが、早くマントに、と言うハリーに急かされ、答える前に3人は集まる。素早く蛇になったヴォルがハリーの首に巻き付くと、そっと裏の扉を開き4人はハグリッドの小屋をあとにすることとなった。
早く離れよう、というヴォルの言葉を二人に伝えるハリーは透明マントのために体を寄せ合いながら歩き……がさりと言う音に一斉に音の方へと顔を向ける。
暴れ柳の下にいたのは黒い大きな犬で、ギラリとする瞳に思わず足を止めた。怒りに我を失っているのか、ロンの手の中にいる鼠に気が付くとひとっ飛びに襲い掛かる。
蛇から戻るヴォルが盾を作るが犬は器用に避けて、ロンの手に噛み付こうとして服を牙に引っ掛けた。勢い余って倒れるロンを間髪入れずに咥え直し、そのまま引き摺って行く。
マントを脱ぐ3人は追いかけようとして、背後からの男の絶叫に思わず足を止めた。え、何が起きたの?と目をしばたたかせるハーマイオニーとハリーにヴォルは驚いた様子もなくあぁ、とだけ言ってロンに目を移す。しっかりスキャバーズを握り締めているロンを助けようと杖を振るが、暴れ柳の枝に遮られてしまう。
「ハリー、本によればパトローナスに伝言を入れることができるらしい。ルーピンを呼ぶんだ」
全く面倒な、と舌打ちをするヴォルに言われ、ハリーは牡鹿を呼び出した。
「綺麗……」
思わずといった風にハーマイオニーがつぶやき、ハリーの言葉に頷くようにして疾走する牡鹿を目で追った。早く助けてよ!という叫びとともにロンの姿が見えなくなり、はっとした様にハーマイオニーは杖を構える。
どうやって暴れ柳の下に行けばいいのか、迷っていると、クルックシャンクスが滑る様に出てきて、枝をやすやすとかいくぐるとこぶを押さえつける。
その途端、ぴたりと動きを止めた暴れ柳に、そういうものもあるのか、とヴォルは頷き根元に見える穴に向かって行く。
『あぁ、暴れ柳のこぶってそこの事だったのね』
もっとわかりやすく説明して欲しいわ、というナギニにハリーは小さく笑い、急いで穴の中へと身を滑らせた。狭い道をヴォルが先頭となって歩くと、ハリーは地図のことを思い出した。確か、ここからホグズミードにのびる道があったはず。
やがて扉が見えてくると、杖を構えるヴォルが先に入り、ハリーとハーマイオニーはそれに続く。
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