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 ハリーがパトローナスの練習にルーピンのもとを訪れると、いつも一緒にいる彼は?と聞かれる。ヴォルはヴォルで、開発中の魔法薬とその他の事でスネイプに用事があるという事だった。

「本当に不思議なもんだね。あのセブルスが素直にいう事を聞いているというか、なんというか……」
 やっぱり考えた通りなんだろうか、と悩むルーピンにハリーは笑って、今日もお願いしますと杖を構えた。幸せな記憶、どれだろうか、と考えて……不意に思い出す。
 もしかしたらこの記憶が、と初めてヴォルが自分をまっすぐ見て、傍から離れるな、と言った幼い頃を思い出した。
 初めて人から必要とされた、まっすぐ見てくれたあの記憶。あの後、それを言い出した本人が階段から落ちて、最近まですっかり忘れていた約束をしたあの日。

「エクスペクト・パトローナム」
 何より大事な存在となった、初めてのキス。それを思い浮かべるハリーは心が温まる気がして、杖先から眩い光が出たことに目をしばたたかせた。
 現れたのは牡鹿で、ハリーは思わずプロングズとつぶやいた。あっという間にディメンターを押し戻した牡鹿はハリーがほっとしたこともあってかすぐに消えてしまう。

「驚いた……。君にとってよっぽど幸せな記憶だったんだね」
 もう完璧だ、と言うルーピンにハリーは顔を紅潮させ、目を輝かせる。ヴォルより先に習得できたことが嬉しいのと同時に、父ジェームズのアニメーガスの正体もわかって幸せそうに微笑む。

「この前驚いて聞きそびれてしまったけれども、どうして昔のあだ名を知っているんだい?まさかとは思うけど……忍びの地図を見たことがあるのかな」
 これで全員分かった、と嬉しそうなハリーにチョコを渡しながら問いかけるルーピンに、ハリーはどうしようと少し首を傾ける。目の前の先生の正体について、本人も気にしているだろうからあまり言わないほうがいい、とヴォルに言われているし、何より話すとなるとヴォルの正体も言わなければならない。

「フレッドとジョージがそんな名前の地図を持っていて、見せてくれたんです。その時に名前を見て……ちょうどロンが鼠のスキャバーズのしっぽをミミズ見たいって言ったのでそこから……」
 あ、これだとピーターが生きていると言っているようなもんだ、と思うハリーはなんでそもそも内緒にしなければならないんだろう、と疑問に思う。
 父の親友達同士であればあの夜の秘密なんて隠さなくてもいいのでは、と考える。

「え、ちょっと待ってくれ……。スキャバーズ?鼠?」
「あ!ごめんなさい!ヴォルに終わったらすぐ来いって言われていたんだ!失礼します!!」
 誤魔化すの苦手だ!と立ち上がるハリーはルーピンの制止を振り切って部屋を飛び出すと、魔法薬を煎じているだろう地下牢教室へと向かった。
 おいていかれたルーピンは親友二人のことを浮かべ……自分と同じようにおまけのようにくっついていた親友を浮かべる。まさか、そんなことが、と口元に手を当て、背もたれに身を預けた。


 走ってきたハリーを抱き留めるヴォルは、げんなりするスネイプを横目にわざと音を立てて口づける。
「ヴォル!僕、守護霊だせたよ!!プロングズ!牡鹿だ!」
 目を輝かせるハリーは勢いよく言葉をつづると、スネイプの手元から石が転がり落ちる。あーはん、と何かに納得した風のヴォルはスネイプに目を向けると、あきらめの悪い奴だな、と憐れむ様な、若干蔑む様なそんなため息を吐いた。
 大きく舌打ちをするスネイプにヴォルはこの上なく上機嫌になり、すごいじゃないかハリー、とハリーの頭を撫でた。
 嬉しそうなハリーだったが、机に広げられている何か石の入った瓶と、ヴォルが鍋から移していた琥珀色の液体の入った瓶に目を移す。

「あぁ、ハリーに飲ませたいのはこっちだ。セブルスが作っている方はまた別のものになる」
 魔法薬はまだ実験段階だ、と言うヴォルにハリーの頬が赤く色づいた。本当に研究している姿にハリーは戸惑いつつも、知的な一面にひどく魅かれてしまう。
 そんなハリーを見ていたヴォルは、この魔法薬を作っているときじゃなければ今すぐどこか適当な所に連れて行くのに、と必死にこらえ、新しい材料を手に取る。

「スネイプ……先生が作っているのは何?」
 ヴォル、と問いかけるハリーにヴォルは杖を持ち上げ、いいもの、と答えるだけで言わない。ムッと膨れるハリーに直前呪文だ、とスネイプが答えた。

「直前呪文……あ!!もしかして……」
 ちっ、と舌打ちをするヴォルは呪文を使おうとして杖を見ると、スネイプの左腕を掴んだ。悶絶するスネイプに満足して手を離すと、スネイプの手元にあった瓶を手に取る。

「まだ固定化が完璧じゃないんだ。ただ、もう少しで何とかなる予定だから……いつでも呼び出せるようになるはずだ」
 そうすればいつでも会える、と言うヴォルにハリーは笑い、ありがとうとスネイプがいることも忘れて自分から口づけた。トロールの裸踊りでも見たかのように顔を引きつらせるスネイプは、左腕をさすりながら終わったものを片付ける。
 にやにやとするヴォルは今すぐ食べたい、と眼に欲を滴らせ、じっとハリーを見つめる。

「嬉しいし僕もずっとヴォルに触れたいけど、あまり頻繁にし過ぎちゃうと……」
 顔を赤くして、ダメだよ、というハリーにすっとヴォルの周辺の温度が下がる。決して怒っているわけではなく、どこかショックを受けたような顔でハリーを見つめていた。
 それに気が付いたハリーは慌てて違うの、と首を振る。

「違うよヴォル。そうじゃなくて……。ヴォルと違って最後まで起きてられてないし、反応だっていつも同じで……。ヴォルが飽きちゃうんじゃないかって思ってて……。そっそれに、パーシーが大事にしていたインク瓶、フレッド達がふざけて何度もふたを開けていたら緩くなってちゃんと閉まらなくなった、ってこの前怒ってるの見て……。だとするとその……」
 顔を真っ赤にするハリーの言葉にヴォルは……薬草保管庫に避難したスネイプの忘れたい死喰い人時代で何度か見た、ヴォルデモート本人だと認めたくなるほどの悦に浸った顔でハリーを見下ろした。

「あぁ、もう本当にハリーは……。そんな心配しなくとも、ちゃんと定期的に薬を塗って状態を維持しているから安心していい。それに、サラザール=スリザリンの血筋は……我らが象徴とする蛇は一度手に入れた宝に執着する。そして、蛇は性交の長さから性を象徴とするとも言われている。安心するといいハリー。卒業後、二人で暮らすこととなったら最初の一ヶ月は一歩たりとも部屋から出さないつもりだ。じっくりと、髪の先まで……。もう許してほしいなどの懇願も受け入れるつもりはない」

 今はこれでも加減しているんだ、というヴォルにハリーはぞくりとしたものを味わい……頬を赤く染めた。それほどまでに求めてくれるヴォルが愛おしくてたまらない。

「終わったのならばさっさと出て頂こう。脱狼薬を煎じなくてはならないのだ」
 さぁ早く、と迷惑そうなスネイプをちらりと見るヴォルだが、腕の中のハリーがとても幸せそうなため、今は怒る気も起きない、とハリーの額に口づけた。
 本当にあほなのかポッターは、と思わずツッコミを入れたくなるスネイプだが、世界最恐のドSとそれを唯一コントロールできるドM。“全てのジャックにジルがいる”とはよく言ったものだ、と隙間ないほどにぴたりと合わさる二人に正直関わり合いたくない、と目を背けた。
 この場合ジャックにジャックだが、今奴の手元にある魔法薬を考えればジルだって問題はないだろう。


「あ!脱狼薬で思い出した!スネイプ……先生って魔法薬を研究したりするのが好きだって、前にヴォルから聞いたんですけど、脱狼薬は誰か別の人が作った魔法薬なのに、改良とかしないんですか?」
 ずっと同じものをつくっていますけど、と言うハリーに部屋の温度が一気に下がる。これ以上ないほどに怒りを全身から漂わせるスネイプだが、ヴォルデモートの本気の怒りに遭遇したこともあり、その配下であるスネイプは怖くない。
「脱狼薬は最近できたと聞きました。だからまだ発展する可能性はあるのかなーって。ルーピン先生も苦いって言っていましたし、毎日飲まないとダメなんだって……。それを半年以上作っていたスネイプ先生なら改良とか考えなかったのかなと思ったんです」
 いつも何の研究しているのか、わかりませんけど、と言うハリーにヴォルは意図が通じて口角を上げる。プライドを傷つけられたのか、それとも何か理由があって避けていたことに触れられて怒気を越したか。
 パトローナスを教えてくれたリーマスへのお礼に、彼が必要としつつも苦手そうだった魔法薬の改良をスネイプに頼むハリーにヴォルはにやけるのが止まらない。
 素直に取り掛かるとは思えないスネイプをわざとたきつけるため、彼の魔法薬の腕に対する自尊心にわざと触れたのだ、と。
 ハリーの思惑通りスネイプはだん、と強く机をたたき、歯をむき出しにするようなひどく怒りのこもった顔でハリーを睨み付けた。

「我輩が他人の作った魔法薬を……最近できたばかりの魔法薬を上回るものができない、とそう言いたいのかね?幸い実験体はいるのだ、飲む回数も、苦痛も、私が改良できないとそう言いたいのかね!?」
 血管ぶちぎれそう、とハラハラするハリーは違います?とわざとらしく首をかしげる。リーマス!と暖炉に向かって呼びかけるスネイプにルーピンが慌てたようにやってきて……3人を見て眼をしばたたかせた。

「脱狼薬のことで気が付いた不満点や懸念点をすべて今すぐ書き出すのだ!!」
「えっ、あっ、え……えっとハリー……」
「じゃあルーピン先生、スネイプ先生が薬の改良をするので実験台になれという事なので……頑張ってください」
 状況が飲み込めないルーピンと怒り心頭のスネイプを置いて、ヴォルはハリーを促す。ちょっと待ってどういうこと?と言うルーピンだったが、さぁ今すぐ、と鬼の形相とはこのことか、とおもうスネイプが羊皮紙を押し付けたことで慌てて書き込んでいく。

「ルーピン先生、頑張ってください!お父さんの親友の……ムーニーならできます!」
 目を輝かせるハリーにそう言われ、あ、あぁ……と反射的に手を上げて返答するルーピンは……怒れるドラゴンのような古い馴染みのオーラに負けて苦いことや気分が悪くなることなど、包み隠さず記載していった。

 書きながら、やっぱりあの少年は……闇の帝王本人だ、と確証をする。だとしたらなんでハリーと恋仲なのか……。ハリーも正体を知っていそうなのになぜ?とそのことが分からず……。
 書き出された羊皮紙を見つめる黒衣の男を見る。あぁ、君もこの腹痛を、頭痛をこの3年間受けていたんだね、とキリキリと痛む腹に手を当てた。

 
 




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