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頼むから試合前一週間はハリーをつぶさないでくれ、と言うオリバーの言葉にヴォルは仕方がないと了承し、試合が終わった後連れて行こうと心に決める。
そして始まったレイブンクローとの試合。ハリーより小柄な女性、チョウと戦うハリーは途中乱入してきた……ヴォル曰く三バカを未熟ながらも靄状のパトローナスを出して撃退した。その後ハリーがスニッチを取ったことで無事終わり……怒り心頭のヴォルを引き離すよう目配せされたハリーは観客席に裏側に引き込んだ。
そこでいらぬスイッチが入ったヴォルに抑えつけられ……まだ頭上の観客席に生徒がいるというのに必死に声を殺すこととなった。誰もいなくなった競技場で息を整えるハリーは視界の端で、無理やり捕まえたマルフォイ家のフクロウに手紙を運ばせるのをじっと見つめる。
「すまないハリー。つい、ハリーの汗の匂いでスイッチが入った」
しかも魔法薬が今手元にない、と謝るヴォルは汗と埃で汚れた身体を魔法で綺麗にし……ハリーの身体を愛撫する。こんな屋外で裸にしないで、と怒るハリーだったが珍しく反省している風のヴォルにほだされて、次からはもうちょっと場所を選んでと顔をそむけた。
耳が赤いことに気が付いたヴォルはちゃんとしていればどこでもいいのだな、と解釈して……絶対卒業したら郊外に家を構えようと3学年ながらプランを立てた。人目につくのが嫌と言うのならば人除けをすれば家のどこでもよく、屋外の庭でもいいと。
ヴォルの考えていることが何となくわかるハリーは。そうだけどそうじゃないとため息をつき……これなら本当に子供がいたほうが大人しくなるかもしれない、とヴォルの思惑にまんまとはまっていく。子供の前は絶対にダメと言えば少なくとも、11年は大人しくなるはず……はずだ。
ハリーの思考が自分を抑えるために子供がいてもいいかもしれないという方向に向いたことにヴォルも気が付き、いっそ卒業前に完成させようかな、と考える。そうすれば何があってもハリーは離れないだろうし、ずっとそばにいてくれる。
ヴォルのハリーに対する想いの傾向が、母親であるメローピーとほぼ一緒であることに気が付いていない息子はあの親共は反面教師にしなければ、となん個か目になる心の誓いを立てた。
そしてその夜……グリフィンドールの勝利に喜びマクゴナガルに怒られて……ようやく眠ったのだが、ロンの叫びに誰もが目を覚ました。
叫びとともに間髪入れずに放たれた失神魔法が天井にあたり、一瞬部屋を赤く照らす。身をひるがえし逃げていく黒い犬を、ヴォルに抱きかかえられながら見送ったハリーはロン大丈夫?と跳ね起きて声をかけた。
「い、今そこにシリウス=ブラックが……」
「もっと下を狙うべきだったか……。ナギニが追い付けばいいけど…‥あぁ、やっぱり駄目だったか」
『ごめんなさい、寝起きだとどうにもうまく動けなくて』
階段に詰め寄る生徒たちの群れを潜り抜け、戻ってきたナギニはちゃんと寝間着を着て寝ているハリーの肩に巻き付く。お疲れさま、と労うと騒ぎを聞きつけたマクゴナガルが現れ……ガドガン卿の合言葉のメモをなくしていたネビルを罰した。
『あーネビルには悪いことになったわ……。だからちゃんと戻しなさいねって彼には言ったのに』
これだから人と言葉が通じない猫はダメね、と言うナギニに、人間と意思疎通ができるナギニが特殊なんだと、ヴォルは出かかった言葉を飲み込んだ。談話室の隅で地図を広げるハリー達はシリウスが森に逃げ込んだのを確認し、やれやれと息を吐く。
寝むれない夜を過ごし、捜索が空振りに終わったことをきいたヴォルは眠りに落ちたハリーを抱え、肩にもたれるようにして眠ったハーマイオニーに大人しく座っていた。呼び寄せた本を読むヴォルは目の前に来た人物に気が付くと、無言でハリーを浮かせ、前から抱えて片側を開ける。
「俺様は別に眠らなくても大丈夫だから、奴の襲撃がショックならばこっち側で寝ていていいぞ」
抱きかかえられたハリーがもぞもぞと動き、ヴォルの首に腕を回して再び落ち着いた寝息へと変わる。気まずそうなロンは何も言えず、ヴォルの隣に座ると眠りに落ちて……いつの間にか同じくらいの背丈をしたヴォルの肩に頭を乗せて寝息を立てる。
「よ、闇の帝王超モテ期到来」
小声で話すフレッドをじろりと見るヴォルは3人分の重みに何も言い返せない。さすがに重い、とじっとするヴォルにジョージがこの前のお詫びと言ってハリーのポケットにトリモチ爆弾を入れる。
「これはハリーとヴォルが必要な時に使うよう、ねばねば5倍増しの非売品だ。ナギニ嬢には改めてお詫びの肉あげるからさ」
じゃあ、と言って去っていくのを見て、ヴォルはパトローナスについての本をめくる。相性が悪くともできなくはないはずだ、と自分にとっての一番の幸せは何だろうかとハリーを抱きかかえながら考える。
もしかしたらとても些細なことが、自分にとっては一番幸せだったのかもしれない、とこれまでのことを思い返していた。幸せだったこと……。
秘密の部屋を見つけた日?と考えて違うなと首を振る。どちらかというと、なぜ女子トイレなんだという疑問が大きかったような気もする。
では幸せな記憶……。リドル一家の殺害は……すっきりした。それしかない。ハリーとの記憶で初めて体をつなげた記憶も、思いが通じた記憶もダメだったことからなにかあるのか、と考えるも思い当たるものが何もなかった。
やはり相性の問題か、と本を閉じる。部屋に戻って一人眠るのには不安で、談話室で転寝するグリフィンドール生らを見渡すと目を閉じる。眠るというには浅い、視覚情報を遮断し、考え事をやめる程度にするヴォルはヒッポグリフの件をどうしてくれようと考えていた。
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