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 戻ってきたところで改めて調べたいという名目と共に、ヴォルとファイアボルトは持っていかれて、ハリーは腰の痛さに呻きながら帰りを待つ。その夜、だから呪いなんてないって言っただろう、とマクゴナガルとダンブルドアから解放されたヴォルは箒を片手に戻ってきた。

「年明けの練習で早速使うといいという事だ。それと、ハリー。地図もう一度見せてもらっていいか?なんかこの前ピーターの名前を見た気がして……」
 ハリーに箒を渡したヴォルはこの前の地図、と後半を蛇語で伝える。ハリーとの内緒話に蛇語を使うことになれているロン達は特に気にしていない。
 別に二人に内緒にしなくてもいいかな、と思うハリーだが、ヴォルの名前が本名になってしまっていることにロンには見せられないか、と頷き……ちらりとハーマイオニーに視線を送る。
 そこにタイミングよくクルックシャンクスが来て、スキャバーズをかばうロンとの間で口論がはじまる。近づけるな、と怒るロンだがその間にナギニが割って入る。

『私がスキャバーズを食べないように、クルックシャンクスも食べないっていうのに……。ねぇハリー。ロンに私も捕食者の立場なんだけどって伝えてもらっていい?それと、最近スキャバーズの行動がなんか変よって。どちらかというと……シリウスとかいうのが来てから警戒心凄いのって』
 ハリー通訳してよ、と言うナギニに飼い主であるヴォルがなんで俺じゃないんだと言い、ハリーがそのままロンに伝える。

「そんなの、この狂った猫が怖いに違いないんだ!ナギニは二人と会話できるし、実はおとなしいから大丈夫だってわかってる!!」
 あとから来たその猫がおかしいんだ、と言うロンに信頼してもらえてよかった、とナギニが喜ぶ。最近大人しくハーマイオニーの膝に座っているだけのクルックシャンクスはそのやりとりに侵害だ、と言う顔をしてくわっと欠伸を漏らした。

「スキャバーズをみてみろよ。最近ますます痩せて、尻尾なんてミミズみたいになってるんだぜ」
 可哀そうなスキャバーズ、と言うロンにハリーも心配げにみて……ミミズのしっぽ、と復唱するヴォルを見た。


『ミミズ……ワーム。まさか、あの地図の名前って……。ムーニー……あぁ!!そういう事か!!ハリー、ジェームズ=ポッターらはすごいな!何学年で作ったからかわからないけど、よくもまぁあんな精巧なもの……全員の動物が分かったぞ』
 そうか、と蛇語でまくしたてるヴォルにハリーはついていけず、目を白黒とさせる。何度思い返してもその度に感心してしまうが、かつてダンブルドアでさえ認めたほどの秀才。
 1わかったと思えば一気にその先まで思考が飛ぶ様子に、時々置いていかれた気がして、少し寂しい気持ちになる。

「あの4人がいつの時代かわからなかったけど、ムーニーが月に関係しているとなれば、その世代が妥当だろう。誰がどの動物かは一人しかわからないけど、ワームテール……鼠がいるはずだ」
 あとは誰が誰だかなんだか……と言いかけたヴォルはロンを見てナギニ、と呼びかける。え?と驚くロンだが、胸のポケットに穴が開いていることに気が付き、それと同時にスキャバーズがいないことに驚いて立ち上がった。
 素早くナギニとクルックシャンクスが動き出すが、フレッド達の足の間をすり抜けるスキャバーズに驚いて落としたものが爆発する。

「ナギニ!」
 白いものに覆われるのをみて、慌ててハリーが駆け寄るとねばねばしたものに体を絡みとられていた。クルックシャンクスが長い毛にからんだ粘液に顔をしかめ、怒ったように毛を逆立てている。

「ごめん!お湯で洗えばすぐとれるから安心してくれ」
「あちゃー……談話室でねばねばトリモチ爆弾爆発させたから片付けないと……」
 あーあ、といいながらナギニとクルックシャンクスを救出する双子にヴォルが深々とため息を吐いた。急いで洗いに行くハーマイオニーとヴォルを見送るハリーとロンは顔を見合わせる。
 どういうことなのか。そう問いかけるロンだが、ハリーだって訳が分かっていない。ほどなくして戻ってきた二人と二匹……そして行方不明になったスキャバーズに訳が分からず、ロンはヴォルを見る。

「ハリー、例の地図の話をした方がいいだろう。あの4人の名前はそこにしかないんだ」
 部屋で話そう、と洗われて不満げなクルックシャンクスを抱えたハーマイオニーを連れ、部屋へともどるとフレッド達がくれた忍びの地図の話をする。
 あーその前に言わないといけないんことがあるんだった、とヴォルは大きくため息を吐き、狭いベッドの上にロンとハーマイオニーを上がらせ、天蓋に魔法で防音処理を行う。

「ロン、このことはあの爺……ダンブルドアも、マクゴナガルもルビウスと……まぁ俺様のしもべ共はこの際どうでもいい。あとはあの双子……ぐらいか」
 面倒だな、と顔にでかでかと書かれているヴォルの言葉にロンは首を傾げ、しもべとはだれかと頭をひねる。あぁ、あの二人、と思い浮かべるハリーは小さく笑って、何も知らないマルフォイを思い浮かべた。

「俺はヴォルデモートの息子じゃなく、あの夜リリー=ポッターによって赤子に戻された、ヴォルデモート本人だ。そのことを話してからじゃないと地図の説明がややこしいので先に言っておくぞ。言わなくてもわかるだろうが、ハリーの身に危険が及ぶとまずいので、他言するな」
 さらっと伝えるヴォルはハリーが合言葉を唱えた地図で、自分らの名前の所を示す。言われた言葉が呑み込めず、目を白黒するロンはつられるようにして示された場所を見て……詳細が書かれているグリフィンドールの寮内に自分たちの名前があることを確認する。

「トム=リドル……え?リドルって……ジニーが……え?ヴォルが例のあの人の子供じゃなくて本……え?」
 思考が止まるロンは地図と、これ以上ないほどに不快そうな顔のヴォルを見比べて、固まる。どういう魔法で作られているのか、とハーマイオニーは校内ではヴォル=セルパンとして知られている目の前の青年の名前を見て、本当の名前が反映されるのかしら、と考える。

「スキャバーズ……いや、恐らくワームテール本人だろう。そしてこの話が出て逃げるという事は……ピーター本人だ。さすがに配管などまでは地図には示されないからそこに隠れたか……。となれば……必然的にパッドフットは奴か。肉球……ハリーの父親じゃなければ心当たりがあるな」

「あ!あの日の黒い犬!それじゃあ、プロングズが父さん?でもどんな動物だろう」
 地図に書かれた4人の名前をなぞるヴォルにハリーは顔を上げて最近現れた犬のことを思い出す。グリムだとかとロンには言われたが、そうじゃなくてシリウスならば合点はいく。

「角とかそういう意味だったはずだから……鹿とか牛とか……少なくとも陸上生物だったはず。そう考えると角の生えた、人目に付きにくいがそれなりの大きさの動物だろう」
 カリブーやトナカイなんかも考えうるな、というヴォルにハリーは目を輝かせる。

「でもアニメ―ガスはみんな登録されているはずじゃ」
 少なくとも自分が調べた中にはそんな名前なかった、と言うハーマイオニーにヴォルは無言で自分を示す。習得したばかりだからとかというわけでもなく、今後も登録するかと聞かれたらヴォルはしないでしょうね、とハーマイオニーはわかったわ、と両手を上げる。

「俺様はホグワーツきっての秀才である上に少なくとも50年以上の経験があるからここ数か月で習得できたが、恐らく普通の学生ならば年単位でかかっただろう。まぁ、俺様であれば以前の学生時代にもやろうと思えば習得できただろうが、あの頃はいろいろやることがあって時間が無かったから仕方がない。大体、今回もハリーの服に潜り込みたいという目標があったから覚えたようなものだ」
 それ以外になる必要性がない、と言い放つヴォルにハリーは顔を赤くして、絶対ダメ、とヴォルを叩く。楽し気にハリーの両手を捉えるヴォルはじっとハリーを見て、ぎゅっと抱きしめる。


「それで……ロン。大丈夫……かな。ごめん黙っているつもりじゃなかったんだけど、ロンは名前を口に出すのも怖いって前に言っていたし……僕たちも一年生の時は知らなかったんだ」
 固まったままのロンに声をかけるハリーにハーマイオニー達の視線が赤毛の少年に向けられた。それでようやく動き出したらしいロンはごめん、ちょっと理解しがたいんだ、という。

「だって、ヴォルがその、例のあの人なら……ハリー、それでいいのかい?それにそれならジニーを……」
 理解できない、というロンはハリー達3人を不信気味な眼でみると訳が分からない、と首を振って天蓋をめくる。スキャバーズのことも理解を超えすぎていてわからないと言って自分の荷物がある方へと行ってしまった。
 困ったようにヴォルを見るハリーだが、ヴォルは気にしてない、と言って額に口づける。

「こればかりは仕方がないわ。ロンは小さい頃からいろいろ聞いているだろうし」
 私だって最初はびっくりしたもの、というハーマイオニーにヴォルは肩を竦めて見せ、それでと地図を見る。こまごま動く生徒の名前を3人で手分けしてみてみると、一瞬ピーターの名が横切り、また見えなくなる。
 森の方を見ていたハリーはシリウスの名を見つけて、森の奥に名前が消えるのを目で追っていた。

「地図のことをあの爺どもに話すわけにはいかない……。ナギニとクルックシャンクスはピーターを探してもらって……動きがあるまでは静観するしかないだろう。年が明ければディメンターの対策も学ぶ予定だ」
 下手に動いてディメンターと鉢合わせたら最悪だ、と言うヴォルにハリーとハーマイオニーは頷き、ひとまず二匹が見つけることを祈る。

「私はヒッポグリフのことを調べなきゃ」
「あ、僕も手伝うよ」
 裁判の資料などを見ないと、と言うハーマイオニーにハリーも加わり、年が明けるのを待つこととなった。

 
 




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