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 夕食の際、いつものひょうひょうとした雰囲気ではなくどこか厳しい眼でヴォルを見るダンブルドアにヴォルは呻く。嫌だなと呻くヴォルにハリーは笑って、そうだ地図、とまだ誰にも話していなかったことを思い出した。

「ヴォルが部屋に戻ったら、僕がどうやってホグズミードに行ったか教えてあげる」
 にこにこと笑いながら耳打ちするとヴォルはわかった、と観念して……触れるだけの口づけを交わす。ハリーに怒られる前にもう一度口づけるとハリーの頭を撫でた。

「いい子で待っていて」
 すぐ話は終わるから、と言うヴォルは席を立つと先に校長室へと向かう。あとから来たのはスネイプで、始終無言で歩き校長室へと足を踏み入れる。
 待っている間も言葉を交わすことなく、ヴォルは本棚に腰を掛けるようにして立ち、手身近の本を手に取ってページをめくっていた。
ほどなくしてダンブルドアとマクゴナガルもやってくると椅子に腰を下ろすダンブルドアはさて、と切り出した。

「昼間三本の箒で……許可書については改めて処遇を決めねばならんが、三本の箒で思い出したことについてもう一度説明をしてもらいたいのじゃ。あの時、何が起きていたのか」
 当事者だからこそ知っている情報を教えてもらいたい、と言うダンブルドアにヴォルは本棚に本を戻すと腕を組む。
 
「俺様がセブルスから予言のことを聞いたのち、該当するものは何かを考え……ポッター家が該当するのではと結論付けた。純血一族はそろいもそろって人の顔色をうかがうようなものばかりが周囲にいたのでな。だが肝心のポッター家がなかなか見つからなかった」
 思い出せる範囲だけでも重大な場面が少年の姿をしたヴォルデモートの口から語られる。予言、と考えるマクゴナガルはこぶしを握り締めているかつての教え子を見て、悲し気なため息を小さく零した。

「そんな折に小太りの小柄な男と接触し、奴は俺様の部下となった。ジェームズ=ポッターの友人だから自分が探るという言葉でさほど信用はしていなかったが、秘密の守り人になったと喜んで飛び込んできたのが10月の末。秘密の守り人に最も近い男をベラらが追っていたが、俺様はすでに所在を掴んでいた。かく乱の目的もあり、俺様一人であそこに赴き……ハリーの両親を殺した。ハリーには一生をかけても償えないことをしたが、リリー=ポッターの計らいで俺はハリーとともに育ち、ハリーと言う生涯の伴侶をえたのだ」

 何が起きたのか……秘密の守り人は誰だったのかを話すヴォルにダンブルドアはそういうことが、と目を伏せる。説明の最後のほうはこの際理解できないものとして置いておき、マクゴナガルとスネイプは小太りの男から在りし日のピーターを思い浮かべた。
 いつでもどこでも3人の後をついていた4人目の少年だった。いつもぎりぎりで、どこかネビル=ロングボトムと今のハリー達の姿に重なるような。


 闇の帝王を欺くには確かに考えうる選択肢だ、とベラトリックスらの判断から考える。問題はそれ以前に裏切っていたという事だ。そしてそれを気取られないように、ヴォルデモートは誰にも話さず、信用のならない鼠を飼ったのだ。
 
「そういえばディメンターの弱点にどうやらアニメ―ガスを判別できないようだが、シリウス=ブラックもアニメ―ガスの線はないか?ルーピンが狼人間であるのを知っていたのなら……もしや俺様と同じ……。ルーピンの息子がグレイバックに噛まれたのを支えようと取得していたのならば……」
 理屈はおかしくないはずだ、と言うヴォルにアニメ―ガスの判別ができないとは?とマクゴナガルが無言で圧をかける。大体教え子3人がアニメ―ガスになっていたなんて、変身学の教授としては聞き捨てならない。
 だが、目の前の彼と同じような不純な動機ではなく純粋な友愛のためであれば、咎めることはしなかっただろう。

「トムのアニメ―ガスについては一旦置いておくとして、ディメンターに知られざる欠点があるという事じゃな。わしとて全てを知っているわけではないのじゃが、なるほど。友のためにと習得したのならばよい。問題は……どうやらそれを二人が悪用しているという事じゃな」
 ふむ、というダンブルドアにヴォルは怒りに目を光らせ……睨み付けるだけで何とか踏みとどまる。二人とは?と問いかけるスネイプにおそらくは、とダンブルドアが口を開く。

「突然彼が脱獄しここまで来たのじゃ。ピーター=ペディグリューが生きていると考えてもいいじゃろう。そしてトムによるアニメ―ガスの可能性を考えると、何かしらの動物となって潜伏しておる可能性がある」
 杖を振り、今にも飛び掛かろうとしていた少年の動きを止めるダンブルドアはルーピン先生に直接聞いた方がいいじゃろうか、と呟いた。
 トムと言う名前を続けて聞いたヴォルの形相に一歩引いたマクゴナガルとスネイプだったが、杖に制限が駆けられていることを思い出し、必死にもがく元帝王をみる。動きとともに声を封じているのか、何か怒鳴っているようだがその声は届かない。

「そういえばあの子たちは互いに何て呼んでいたかしら」
 きっと、ルーピンは必死に隠そうとするだろうとマクゴナガルは目元を和ませながら考える。思い出したくもない、と顔をしかめるスネイプはまだもがいている少年に視線を向けた。
 なんじゃ、と言うダンブルドアは怒っているヴォルに対し、わしに負けたじゃろうが、とにこにこ笑って相手にしていない。やがて馬鹿らしくなったのか、動きを止め、大きく息を吐くヴォルはぶぜんとした面持ちでさっさと解け、という態度でダンブルドアを見る。
 窺うような青い目をじろりと見返し、解かれた拘束に肩を動かす。

「アニメ―ガスについては私が確認してまいりましょう。それで、参考までにですが……」
「彼が蛇意外になることはないじゃろう」
 蛇であればハリーとも会話ができるじゃろうし、と言うダンブルドアにマクゴナガルはでしょうねと頷く。否定しないヴォルは話が終わったなら寮に戻るぞ、と階段に足を向けた。

「そうだ、俺様とハリーにかけた接近禁止令、解いてくれないか。大分、ストレスが溜まってきた!」
 無理に外してもいいが、と言うヴォルに全く反省していない、と頭を抱えるマクゴナガルだったが先日のこともあり、ダンブルドアが魔法を解くのを見ているしかできない。

「念のための確認じゃ。シリウス=ブラックに覚えはなく、ピーター=ペディグリューには覚えがある……そういう事じゃな」
「そうだとも。俺様が手駒に入れていたのは小太りの小さい男で、長髪の男ではない。ああぁそうだ、ダンブルドア。ファッジとかいう能無しに呪いをかけて……冗談だ」
 あの男は知らない、と言うヴォルはそうだと思い出したように言いかけ、無言で杖を取り出したダンブルドアに舌打ちをしながら冗談だと言って立ち去った。

 
 




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