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「とりあえず三本の箒で何か温まるものを飲もう」
 これじゃ僕たちも凍えちゃう、と言うロンに案内され、大きなパブのようなお店へと入った。これだけ人がいるというのに満席ではなく、誰もが自由に座っているのにまだ席はある。
 不思議に思いながら奥に座ると、ロンがバタービールの大きなジョッキを手に戻ってきた。ほんのりアルコールが香るバタービールは一口飲んだだけでも体が暖かくなり、懐にいるナギニの身体も一緒に温まる。

 その様子を見ていたハーマイオニーはヴォルの誕生日にナギニ用のポシェットをあげようかしら、とハリーにわたることを前提に考える。最初に出会った頃よりずいぶん大きくなったナギニは冬になっても元気だが、巻き付いているハリーの首なんかを見ているととても寒々しくて見ていられない。

 そこにドアが開いて次の客が入ってくると、反射的と言っていい速度でロンとハーマイオニーが同時にハリーを机の下に押し込んだ。念を押すようにハーマイオニーがツリーを移動させて3人を隠したために相手から見られることはないだろう。


 入って来た客はファッジとマクゴナガル、フリットウィックとハグリッドだった。マダムロメスタも加わった5人の席はさほど遠くはない。どうやらディメンターへの苦情と、そうさせているシリウス=ブラックに関する話のようで彼の学生時代の話が繰り出される。
 ハリーの父ジェームズと親友だったと聞いたハリーは思わず耳を疑い、まるでフレッドとジョージみたいだ、とその会話から考える。だが、そもそもなぜ闇に帝王の知らない右腕などと呼ばれているのか。そこが分からず、ハリーはじっと耳を傾けた。
 そして分かったのが、彼が自分の家の情報を守る「秘密の守り人」だったという事だ。

「秘密の守り人……あの小太りの男がシリウス=ブラックだったのか?」
 ハグリッドがおんおん泣きながらハリーを助けに行った時にあいつに会ったんだ、と悔しそうに机をたたくと、突然聞きなれた声が入ってきて、ハリーは思わずジョッキを落とした。

「いやまてよ……ピーター…ピーター……あぁ!ピーター!!シリウス、あぁ!そういうことか。訳の分からない、見ず知らずの男が右腕だなんだ言われて気持ち悪かったのがやっとすっきりした。ってピーターが右腕なんぞ気持ち悪いのには変わりがないか。どうせそんな噂流したのはルシウスだろうな。右腕はお前だあいつめ」
 ぽかんとする5人を放っておき、何食わぬ顔であーどっちにしろ気持ち悪い、という。すっきりしたヴォルはさっそくハリーに教えに行こう、と三本の箒出ようとして、がしっと腕を掴まれて振り向く。


「ミスターセルパン、あなたは許可書を持っていないはずですが?」
「え、だって俺様未成年じゃないし」
 腕をつかんだマクゴナガルが声を潜めていうと、ヴォルはそもそも許可書いらないんじゃないのか、とのたまう。どうやってディメンターを潜り抜けたか……ナギニはもしかしてとハリーの襟もとで囁く。

「様々窺いたいことがありますので、夕食後校長室に。いいですね」
 校長共々待っていますので、と言われてヴォルはすごく嫌そうな顔をし、しぶしぶといった風に頷く。呆気に取られているファッジたちにマクゴナガルはすみませんが用事が出来てしまいましたので、と言っていつの間にか三本の箒抜け出したヴォルを追いかけるように出ていく。

「彼は……」
 ぽかんとするマダムロメスタは説明を求めるようにファッジを見るが、彼も一度しかあっていない赤い眼の……ハリーといた少年という事しかわからない。
 フリットウィックも少々難のある優秀な生徒以外の情報がなく、ハグリッドに至っては訳が分かっていない。なんだか妙な空気になって、早々に店をあとにする一団を見送り、ハーマイオニーとロンが机の下をのぞき込む。

「ヴォル、アニメ―ガス取得したかもって」
 今ナギニが教えてくれたんだとニコニコ話すハリーに二人はそろって、はぁとしか言えない。会話が繋がらず、訳が分からないハーマイオニーとロンはどう反応すべきか……あまりの情報量の多さに顔を見せあった。


 あたらしい魔法薬の試薬のため、ある材料をスネイプの保存庫から奪おうとしていたヴォルだが、スネイプも丁度その材料の在庫を切らしていたため、ぶつぶつ言いながらヴォルはホグズミードに向かっていた。
 さてディメンターを出し抜く方法と考えるヴォルはシリウス=ブラックの脱獄方法を考える。正規の方法ではまず無理なことは、よくわかっている。ではどういう方法が考えられるか……。
 悩むヴォルはそういえばとディメンターの習性を思い返す。あれは人間に対して寄っていく傾向があるが動物はどうだろうか。

 夏からずっと練習し、ついに物にしたあれを試すときだ、とヴォルはニヤリと笑い、外に出る準備を整えるとホグズミードへの道へ足を進めた。ディメンターらの手前で立ち止まり、練習して取得したアニメ―ガスになる。
 しゅるりと冷たい地面にこの時期はやはり蛇はキツイな、と考えるヴォルはそのままディメンターの足元を通って少し離れたところで元に戻った。

「動物には反応しないのか」
 なるほど、ではシリウス=ブラックも無登録のアニメーガスの疑いが強いな、と目的の材料を購入する。ホグズミードに入ってしまえばだれもヴォルが無許可で来ていることなど知らない、と考え、そろそろ戻ろうと思ったところでハーマイオニー達を見つけた。

 その中にハリーもいて、抜け道でもあったか、とヴォルは気配を殺して三本の箒に入り、バタービールに顔をほころばせるハリーを盗み見る。
 次はちょっとアルコールを飲ませてもいいかもしれない、と口角を上げた。媚薬入りジャムを食べたハリーがあれだけトロトロになるんだったら、アルコールで酔ったらとてもかわいいのではないか。

 夏に両思いになってからというもの、ハリーに対する想いがどんどんと重くなっているが、生憎それを止められるものはいない。ただ、この前はさすがにやりすぎた、と抱きつぶしてしまったハリーを見て少しの罪悪感を覚えたため、自分が寝落ちしたらその日は終わりにしなければ、と思ってはいる。

 ふふふ、と一人ヴォルがほくそ笑んでいると、マクゴナガルらがやってきた。より一層気配を殺すヴォルはハリーが机の下に隠れるのと、ツリーが目隠しになるのを見てよしよしと一人頷いた。
 ファッジらのシリウス=ブラックとジェームズ=ポッターの学生時代の話と彼が犯した最大の罪の話を聞き、ん?とヴォルは首をかしげる。話を聞いているうちに、秘密の守り人に選ばれました、とやってきた小太りの男を思い出し、シリウス=ブラックの写真を重ねてみるが一致しない。

 ハリーの名付け親がそんなことをしたのかと思い、思わずうるさくしていたハグリッドの後ろに立ったヴォルは言葉に出した瞬間、知らせに来た男を思い出した。
 ワームテール。そう、そう呼ばれていた男だ。やっとすっきりして、とりあえずハリー達がばれないようにと知らないふりをし出ようとしたヴォルだったが、マクゴナガルにつかまり思わずうめく。

 
 




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