------------
戻ってきたロンとハーマイオニーはとても楽しかった、と言うのが顔に書いてあるようで、ハリーとヴォルは最近ペットのことで揉めていた二人に何も言わず視線を交わして笑いあう。
様々なお菓子や見てきたものの話を聞き、ハリーは面白そうだなと目を輝かせ、ヴォルはそんなハリーを見てディメンターを出し抜く方法を考える。
何か有効な呪文があったと思うが、闇の生物に対抗できる魔法となれば正反対のものであることは当然で……。
今の俺様なら習得できるか、とハリーを見つめ……できるかではなくものにしなければとこぶしを握った。
その日の夕食は初めてまともに出席したハロウィンパーティーで、ハリーの眼がらんらんと輝き、生きたコウモリの群れを目で追う。そんなハリーの様子にヴォルは小さく微笑んで、不意打ちでハリーの口元に口づける。
顔を真っ赤にするハリーにトリックオアトリート?と小声で囁き……お菓子何て持ってないというハリーにじゃあ、と言ってテーブルに隠れるようにしゃがんで深い口づけを施す。
「この先はまたあとで……」
とっさに抵抗しようとするハリーだったが、巧みな口づけに白旗を上げてヴォルに寄りかかる。今すぐにでもどこかで押し倒したい、と衝動に駆られるヴォルだがぐっとこらえて濡れた唇を拭う様に軽く口づけた。
そして……今年は何事もなくハロウィンを堪能できた……という事のつけのように騒動は寮に戻るときに起きた。ざわざわと立ち止まった廊下で、パーシーが先立ち……悲鳴を上げて先生を呼んでくると飛んでいく。
何があったんだ、と背伸びするハリーの隣でヴォルが足を霧状にする浮遊呪文を使い廊下の先を見て警戒するようにハリーを抱きしめる。
「本当にイかれた男のようだ」
そういうだけで何があったか言わないヴォルにハリーは首をかしげて、ざわざわと囁く周りの声に耳を傾ける。太った婦人が、という声とずたずたに切り裂かれているという声。誰がこんなことを、と言う言葉から驚いてヴォルを見上げた。
ぽん、と肩を叩かれたことに振り向けばダンブルドアがいて、押し合いへし合いで道を開ける生徒の間を静かに歩きながらズタズタにされた絵画の前にやってきた。
駆け寄ってきたマクゴナガルら教員がはっと息をのみ……スネイプの眼がヴォルを見る。本当に奴を知らないのか、と問いかける目をヴォルは黙って首を振ってこたえる。
襲撃者については通りかかったピーブズが大げさな手ぶり身振りでお辞儀をして……ニタニタ笑いながら、癇癪持ちのシリウス=ブラックだったと廊下によく響く声で伝えて消えたことで知れ渡った。
片時も手を離さないヴォルとともにグリフィンドール生は大広間に戻り、ほどなくして他の生徒も皆集まってくる。
「この城に招かざる客が来たようじゃ。教師全員で城の中を捜索せねばならん。監督生及び首席は扉付近を警戒し、ここの管理をお願いする。それ以外の生徒たちは今夜はここに泊る様に」
ダンブルドアの声が大広間に響き、生徒たちは不安げに身を寄せ合う。そうじゃ、寝支度をしなければ、と手を叩くと机が消え、寝袋が山積みに現れる。
自分たちの分を手に取った4人は一塊になるよう寝袋を集め……いったい何の目的が、と天井を見つめた。さすがに一人用の寝袋にヴォルもハリーも互いの所に入るわけにはいかず、ヴォルは忌々し気に舌打ちをする。
「誰だか知らないが、俺様の邪魔をするなぞ……覚えているがいい……」
今頃だったら部屋に戻って、天蓋に魔法をかけて……ダメと言うハリーをトロットロッにして陥落させて思う存分、みんなが寝ているのにもお構いなしに愛していたというのに、とヴォルは悔し気に奥歯をかみしめる。
その独り言に気が付いたハリーは部屋ではだめ、と顔を赤くして止めるが、じっと赤い目に見つめられるとだめだという心が陥落しそうになる。
「あー……聞こえはしなかったけど……ヴォル、頼むから僕たちがいる共有スペースではその……一線を越えるの禁止!!」
ごそごそというやりとりと、不穏な気配に頼むから健全でお願いします、と続ける。訳が分からない様子のハーマイオニーはだから駄目だって僕も言ってる、と顔を真っ赤にするハリーを見て……あーそういうこと、と意味ありげに笑いかけた。
朝になり、結局見つからなかったシリウス=ブラックの捜索はひとまず打ち切りになり……グリフィンドールは修復中の太った婦人の代わりに来たガドガン卿に辟易することとなった。というのもしょっちゅう合言葉を変える上に、何かと挑んできたりとやかましい。
ハリーにとってはそれ以上に辟易したのが、なにかと監視の目が増えたことだ。普段ならばヴォルが迷惑そうにするのだが、今期に限ってはヴォル自身相手の行動が分からないために付き添えない移動などを任せざるを得ないという事らしい。
ただでさえ燻ぶる火種を投下されてからそれが解消されることがなく……くすぶり続けているハリーはヴォルと二人きりになりたいのに、と自分のことを案じてくれる人に強く言えず、ため息を零すばかりだ。
ちらちらと自分を見るハリーの視線が少し熱を帯びていて……ハリーが別の方向を見た隙にヴォルがハリーを見つめる。偶然その顔を見てしまったネビルがひっ、と小さな悲鳴を上げ首をかしげるハリーに背を向けてどこかに走り去る。
何かあった?と振り向くハリーにヴォルはさぁ、と肩をすくめて次の教室に行こうと背中を押した。
もう少し焦らせば……木に実る果実が熟成するように甘くなり、耐えきれずに手元に落ちてくる、とヴォルはその時を今か今かと待ちわびる。
|