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けがの治療とやらで戻ってこないマルフォイはともかく、夕食時に顔を出さないハグリッドにハリーは心配になり、ヴォルがいるから大丈夫と言って城から出ることに反対するハーマイオニーとロンを引き連れて小屋へと向かった。明かりが点いてはいるが、なんだか様子がおかしい。
アロホモラ、と勝手に扉を開けるヴォルとともに中に入れば顔を真っ赤にして泥酔するハグリッドが机に伏していた。
「一日でクビだ」
そう嘆くハグリッドにハーマイオニーはそんなことないわと慰めるが、ハグリッドは一人落ち込んだままで何も聞こうとはしない。
「ルビウス!!!怪我をして痛い目を見たのはあのヒッポグリフの方だろうが!それをかばうこともせずぐだぐだ……しゃんとしろ!」
いらだった様子のヴォルの声にびくりと顔を上げるが、でもクビになることは変わんねぇともごもごと返す。
「ヒップグリフは飛ばし過ぎだって言われて。初めての授業にはぴったりだと思ったんだが」
「当り前だ、ルビウス。アクロマンチュラのことといい、お前は危険生物をかわいい子犬みたいに使うが、俺たちには大きすぎる。大体、魔法生物に定められた危険レベルを知っているか?初めて魔法生物に触れる3学年はまず★なしから徐々に上げるべきだろう。これはお前の認識にずれが招いた故に起きたものだ。お前と違って、ここにいる生徒らは純……。とにかく、ヒッポグリフについては怪我をしていた。写真をあとで寄こすから反省して自分で弁護しろ」
しょげ切った様子で理事にも連絡がいってもう終わりだと嘆くハグリッドにヴォルは腕を組んで当たり前だと一喝した。でも、というハグリッドに黙れとヴォルが冷たく返す。
「お前が嘆いているのはなんだ。教師の仕事がクビになったバカな男か?それともけがをしたヒッポグリフに申し訳ないというやつか?前者ならば俺様が今すぐお前を楽にしてやる」
べそべそ煩い、と言い放つヴォルにハグリッドははっとした様子で俺の事なんかどうでもいい、可哀そうなバックビークだ、とぐしゃぐしゃになった顔を上げた。さっさと顔を洗って来いと促すヴォルにハグリッドは従い、外の樽に顔を突っ込みに行った。
「すごい‥…。ヴォルが冗談言っただけじゃなくて、人のために怒るなんて」
もしかして初めてじゃないかな。というハリーにヴォルはそうか?と首をかしげる。常々ハグリッドに何か言いたそうだったヴォルは幾分すっきりした顔で、ハリーを抱きかかえ……戻ってきたハグリッドに杖を振った。顔を振るハグリッドの髭やらなにやらが即座に乾くと、本当にこいつは変わってない、とヴォルは大きくため息をついた。
あぁさっぱりしたというハグリッドは初めて誰が来ているかに気が付いたようにして……ハリー!と声を荒げた。
「ハリー!暗くなってからはここに来ちゃなんねぇ!3人とも、ハリーを暗くなってから外に出しちゃいけねぇ」
だめだだめだ、というハグリッドはどこか怒っているようで……さぁ城に戻らないと、と言いながら4人をせかし、追い立てる。誰のせいで出たと思っているんだ、とヴォルの地を這うような声にひるむハグリッドだが、今はダメだと言って4人を玄関ホールに置き、足早に小屋へと戻っていく。
「例の殺人鬼か。あのバカのことは放って置こう」
大体、俺様のほうが人数多いし、とぶつぶつ呟くヴォルは先に寮に戻ってしまい、ハリーはため息を吐く。ハーマイオニーを見ればロンと二人、ハリーのことがあるからそれもそうねとハグリッドに同意していて、ハリーは息苦しさに大きなため息をついた。
ハグリッドもヴォルのことを知っているのだから、どちらかと言えば一度に大勢の命を奪った人より、魔法使いを含めた被害総数の多く事件数も多い闇の帝王のほうがもっと危ないんじゃないか、と階段のところで待っているヴォルに追いつき、振り向いたヴォルの唇に軽く口づけて急いで寮へと逃げていく。
おいて行かれそうになったロン達がハリーの大胆な行動に足を止め、残されたヴォルの凶悪そうにも見える笑みに気圧され……例の少し煙を出すような浮遊する魔法を使って階段を駆け上がるヴォルを見送る。途中、ハリーの悲鳴のような声が聞こえるもそれも遠ざかっていき……。
一番危ないのはやっぱり見知らぬ殺人鬼より彼ね、と頷きあった。
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