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「なんだってあんな奴を教員にしたんだ。父上が聞いたら驚くだろう」
どうかしているというマルフォイにそうだそうだ、とスリザリンが同意しハリー達は顔をしかめた。初めての授業でがっくりしてほしくなく……そして騒動が起きないようにとしたい4人だが、スリザリンのパンジーとか言う女子生徒がハリーを見て声を上げる。
「ほら、ぼやぼやしているとあんたの後ろにディメンターが」
けたけたと笑うパンジーはとても上品とは縁遠いい。何言っているんだろう、と見返すハリーの隣でおかしいな、とヴォルが声を上げた。
「マルフォイ、いや、スリザリンはこの授業を受けなくてもいいんじゃないか。トロールに髪の生えた世にも珍しい女型のディメンターが揃っている」
あれに性別はないはずだが、と言うヴォルの真面目を装った声にグリフィンドールから笑い声が上がる。言われたパンジーでさえ理解できずに怒ることもせず唖然としている。ヴォルの冗談だと気が付いたスリザリン生だったが反論する前に足音と嘶きを聞き、一斉に視線がそちらに集まった。
「ヒッポグリフだ!美しいだろう」
上半身が鷲、下半身が馬の生物を連れてきたハグリッドの言葉に、最初こそ驚いたもののその艶やかな毛並みと羽毛にハリーは確かに、と思わず見とれる。
近づいてきたヒッポグリフの鋭いかぎ爪をみて、あぁやっぱり危険な動物だ、と思わずヴォルの手を握る。
ヒッポグリフの説明中、マルフォイたちがひそひそと何かを話し、聞いていない姿にハリーはひやりとしたものを感じる。何か起こす気ではないかと考えるハリーに、同じようにその動きを見ていたヴォルはほっておけと言う。
ハラハラするハリーをみて、あんな危険生物の説明じゃなければ今すぐ自分だけを見てほしいと抱き寄せるのに、とハグリッドを見る。マルフォイがどうなろうと知ったことではないが、過去の失態で下がったかもしれないハリーの中の自分を挽回すべくため息を吐く。
絶対に侮辱してはならないという言葉に、ハリーは心配げにハグリッドを見た。まずだれかやらないか、と言うハグリッドにおずおずと手を上げるハリーはちらりとヴォルを見てにこりと笑う。
ヴォルが蛇の鱗を綺麗だという様に、ハリーもあの美しい毛並みがきれいだと感じ、触れてみたいと思ったのだ。その気持ちが通じたのか、獣相手に嫉妬するのもな、とヴォルは何かあったら助けるという気持ちを込めてハリーの手を握る。
前に進み出たハリーがハグリッドの言葉に従い、じっと瞳を見つめてお辞儀をすると、ほどなくしてバックビークという名のヒッポグリフが前脚を折り曲げお辞儀とも取れる仕草を見せた。触れてみると思ったより毛は硬く、そしてつややかで思わず見とれる。
バックビークの様子から、ハグリッドは乗ってみるといいというのでハリーはわくわくとした気持ちでそれに跨った。翼が足に引っかかり、自分の意のままにならないことで落ちそうな、そんな不安な要素もあったが箒とは違う感覚に、降りてからも興奮した様子でヴォルに駆け寄る。
もう可愛い、と頷くヴォルはハリーを抱きしめ、二人きりの空間を生み出す。また始まったよ、と見慣れているグリフィンドール生はハリーの成功に勇気づけられあちこちでお辞儀を実践する生徒が増える。
ハリーが乗ったバックビークはこの群れのリーダーだったのか、ひと際存在感のある灰色の羽をぶるりと震わせていた。
ハリーが触れることを許したが、なかなか他の生徒には足を折らず、ハグリッドの指示で別のヒッポグリフにお辞儀をしに行くのを黙って見つめていた。そこで前に進み出たヴォルに、品定めをするようなオレンジの瞳を向け、じっと赤い眼を見つめ返す。
互いに見つめ合い、じりじりとした空気が流れる。なぜかお辞儀をしないヴォルにバックビークは苛立つようなしぐさを見せるも互いに何かを譲らず時間だけが過ぎていく。
やがて何かに根負けしたように前脚を折るバックビークに一切お辞儀をする素振りすら見せなかったヴォルがいい子だ、と無遠慮にその首筋を叩いた。
まさかの懐柔の仕方にハグリッドだけでなく、生徒全員が嘘だろと見つめる中ひらりと跨るヴォルはハリー、と呼ぶと駆け寄ってきたハリーの手を取り引き上げる。
「しっかりつかまっていてくれ」
さっきは不安定だっただろう、と言ってハリーを抑えるように抱きしめて足で飛ぶよう合図を送る。
「すごい……。さすがは闇の帝王……」
思わず零れたハリーの言葉にヴォルは口角を上げて昔はディメンターも従えていたんだ、とどこか自慢げに言う。一周飛んでから下りるよう合図を送るとバックビークは素直に従い、先ほどハリーがつんのめって落ちそうになった着地を足で制し、安全に降りるよう命じる。
首を緩く振って背中に乗っている人を気遣う様に着地したバックビークは降りやすいように自ら膝をついて体勢を低くする。
「セルパンほどの力が無きゃまねしちゃなんねぇ」
力なくつぶやくハグリッドに誰が真似するものか、と心の声が一致する。自然界に置いて……特にリーダーなどは相手の力を推し量り群れを守るのも役目だ。
ヴォルが自分よりも格が上と判断したバックビークは仲間を守るためにもと膝を折ることになりどこか悔しそうだった。それを分かっている風のヴォルだったが、お前は聞き分けのいい子だ、と言う風に撫でられると当たり前だと言わんばかりに風格を漂わせる等に胸を張る。
「これほどまでに賢い生物を侮辱するようなマヌケはいないだろう。大体、顔ばかりに目が行って、この足の爪が目に入っていない……正真正銘の愚か者だ」
さぁ十分楽しんだから柵の外に出て行こう、とハリーを促すヴォルはすれ違いざまにマルフォイに向けて声を潜めることなく言い放つ。
貴族らしい態度が取れるんだろうな、と言われたマルフォイは青白い顔にさっと赤を交えるとバックビークの前に立った。授業をどうにかしてめちゃくちゃにしたいマルフォイは顔をしかめるといかにも貴族らしいようなわざとらしいお辞儀を行う。
丁寧なお辞儀に、先ほどプライドをへし折られたバックビークはあれよりはましと考えたのか、さっと軽い礼を行いどこか不機嫌そうに羽をこすり合わせた。
礼はしたからささと向こうに行けと言わんばかりに堂々たる風格を崩さないバックビークはじっと自分を見つめるマルフォイを睨むように見つめ返した。
授業が終わるという時、悲鳴が上がり生徒らは一斉にその方向へと目を向けた。地面に伏せるマルフォイと、暴れるバックビークを慌ててなだめるハグリッドに騒然となる。
なんとかバックビークに首輪を嵌めると、マルフォイを抱き上げて授業の終わりを宣言しながら医務室と走り去っていった。突然の事件とあっという間の出来事にスリザリン生は騒ぎ、グリフィンドール生もどうしたものかと顔を見合わせている。
そんな中、気にせず柵に入るヴォルにハリーも危ないよと言いながら追いかけ……まだ興奮が冷めないバックビークのもとへと向かう。
「ハーマイオニー、クリビーにカメラ持って来いって言ってくれないか?あのバカ、貴族らしく振舞えと言ったから侮辱することはないと思ったんだが…‥攻撃系の魔法を当てたらしい」
あのバカ、と繰り返すヴォルに言われてロンと―ハーマイオニーがちょっと待っててと走って行く。誰よりも強く畏怖の存在であると判断したヴォルがそばに来たことで、徐々に落ち着きを取り戻すバックビークは足の傷をかばうようにして草地に座り込んだ。
大丈夫?と心配するハリーにバックビークは嘴を鳴らして見せると、ヴォルがいい子だと繰り返した。
やがて、大任を任されたと聞いて目を輝かせるクリビーが息を切らしたロンとハーマイオニーを引き連れ興奮気味に走ってきた。言われるがままにシャッターを切るクリビーはすぐに現像してくる、とこれまた飛ぶように城へと戻っていく。
「将来が怖いな……」
あんなパパラッチ、冗談じゃないというヴォルに息を整える二人とハリーは笑いあい、バックビークに簡単な処置を施してから城へと戻っていった。
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