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 7階にあるという占い学の教室に向かうため、ヴォルと別れたハリー達が道に迷っていると、何やら騒がしい騎士の絵に声をかけられる。ガドガン卿という騎士に助けられ、ぎりぎりで占い学の教室へと入っていった。
 中は薄暗く、何か焚いているのか頭がくらくらする匂いで、先生はどこかと顔を見合わせる。すると遠くから聞こえるような声とともに、これでもかと大きな眼鏡をした女性……シビル=トレローニーという初めて見る教員が神秘的な仕草で前に進み出てきた。

「さぁお好きな場所におかけなさって」
 恐る恐る座る生徒たちをいい子ね、と見まわし、指輪と腕輪と……いろいろなもので埋め尽くされた手を指し伸ばす。ペチュニア伯母さんでもあんなに着飾ったことはないぞ、と思うハリーはなんとなく、この先生も外れかもしれないと小さくため息をついた。
 教科書を広げて、ティーカップにのこった澱から見られる模様を基に未来を読み解くと言い……ハリー達3人はどうやって見ればいいのかと困惑気に顔を見合わせる。
 
 他の生徒達を見ていたトレローニーがハリーのカップから大きな敵がいることなどを告げるが、ハーマイオニーははん、と鼻先で哂う。初めて教員に対し反抗的な態度をとるハーマイオニーに驚くハリー達だったが、気分を害したようなトレローニーが再びハリーのカップを見て、髑髏が見えると続ける。
 髑髏、と聞いて、何となくヴォルもとい、ヴォルデモートっぽいと考えるハリーはこれで死の預言でもされたら、それは僕じゃない気がするなと気を鎮める様なトレローニーをみた。

 さらに見ていたトレローニーははっと大げさに息をのみ、ハリーをまじまじと見つめる。
「あなたにはグリムが憑いています」
 さも恐ろしいものを告げるようなトレローニーにハリーは意味が分からず首を傾げ、やはりわからない風の生徒と顔を見合わせる。
 
 ロンは何やら知っているのかはっとしているが、顔をしかめたハーマイオニーを見て、ヴォルが暴走しないようにしないと、とグリムの説明を聞いた。なんでも死をつかさどる大きな黒い犬で、憑かれた人は死に至るという。これは僕じゃなくてこの先生……もしくは他の生徒のことでは?とそうですかとだけ答える。

「悪趣味だわ」
 授業が終わりの鐘を聞き部屋を出たハーマイオニーはぷりぷりと怒りをあらわにする。ロンはロンで実はこういう迷信的なものを信じているのかグリムは恐ろしいんだと親戚で起きたことを話す。
 大きな黒い犬は見ていないよね?というロンに対して、あの家を飛び出した日を思い出すハリーはそういえばと声を上げた。

「家を飛び出した日にヴォルと一緒に見たよ。ただ、ヴォルにも見えていたし、あの時ナイトバスが突っ込んできたのはヴォルのほうに向けてだから……多分野犬。ほら、ちょっと毛の長い大型犬って感じだったんだ」
 ヴォルも目撃しているから本物の犬だよ、というハリーにロンは目を丸くして、じゃあ二人に憑いているんじゃないかとまでいいだす。魔法使いは犬を飼わないのだろうか、と内心首をかしげるハリーはそうかもね、と切り返す。

「じゃあロンともそろそろお別れだ。今までありがとうロン」
「そうね、この話を聞いたら間違いなく“死”が訪れるわね。長いようで短い付き合いだったわ」
 じゃあお別れだ、とあっさりするハリーと、それに乗るハーマイオニーにロンは慌てていや、きっと大丈夫さ、と取り繕う。いきなりこういう返しが来るから心臓に悪いよ、というロンに二人は笑って、変身術の教室に向かうところで、先に行っていてとハーマイオニーは角を曲がっていった。

 顔を見合わせる二人だが、教室に入った途端不機嫌そうなヴォルと、ため息を吐くハーマイオニーを見て驚く。隣に座るハリーを抱き寄せ、気にするなというヴォルになんでもう知っているのかと、ハリーとロンは首をかしげるしかない。
 角を曲がったハーマイオニーが先に教室に来ていることも意味が分からない。マクゴナガルが入ってくると、奇妙な部屋の空気に前の授業には占い学がありましたねという。


「今年は誰が死ぬことになりましたか?」
 呆れた風のマクゴナガルは教室を見渡して、気まずそうなハリーといら立ちを隠しもしない少年を見る。よりによってこの子を選ぶなんて、ほんと見る目がないとため息が途絶えないマクゴナガルは、毎年のことですという。

「毎年彼女は死ぬ生徒を予言しますが、これは彼女の流儀であり未だかつて的中したことはありません。しかし、何人かが懸念するように“誰か”が暴走しないとは限りませんので、いつでも彼を止められるようネクタイを縄に変えるなど変身学をよく学びなさい」
 考えていることは先生も同じか、と受講する生徒から思わず笑いがこぼれ、それは確かに必要だと頷いた。
 マクゴナガルは真の預言者はめったに表れないことと、不確かな分野であることを告げる。
 マクゴナガル自身この分野は得意ではないことをつげ、もし死んだら課題の提出は結構ですと締めくくると、ハーマイオニーも笑い、ヴォルもまた思わずといった風に笑う。ふと、予言という言葉に何か大事なことを忘れている気がする、と考えて首を振る。どうせヴォルデモート時代のことだ、と頭を切り替える。


「この後はハグリッドの最初の授業よね」
「アクロマンチュラの件があるから心配だな……」
 どうも彼は危険な生物を気にいる傾向がある、というヴォルにハーマイオニーも賛同し、ロンとハリーも頷く。ウキウキした様子のハグリッドに案内されたのは広い放牧場のような場所であった。
 見まわすハグリッドはまず教科書をというが、どうやって開けと?という小ばかにしたようなマルフォイの言葉にハグリッドはきょとんと周りを見回す。

「誰も開いたことねぇのか?」
 そういってマルフォイのベルトで固定された本を手に取り、ベルトを外して背表紙を撫でる。ぶるりと震えて、ただの本になると、ようやく生徒たちは魔法生物学の本を開くことができた。

「人の手をかみ切ろうとする本を指定するなんてなんてユーモアのある先生なんだ」
 どうかしているというマルフォイにうるさいとハリーが言うが、ハグリッドは愉快だと思ったんだがともごもごいう。何をするのか忘れてしまったのか、えーっとというハグリッドは魔法生物を連れてくると言って一旦生徒から離れる。
 その様子に、ヴォルはため息をつき、ハリーに危害が加わるようなら覚悟しておけよ?と杖を握り締めた。


 
 




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