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「この二人……というよりもヴォルは人目なんか気にしないので……」
「ハリーしか制御できないけど、ハリーでさえ抑えられないから……」
「たったのむからすこしは周りを気にして……」
不自然なほど無音な二人に何かしら魔法をかけたのかしら、とハーマイオニーは二人が離れるのを待つ。慌てて視線をそらし、咳払いするルーピンにようやくハリーが動いたのか、バシンという音が聞こえて5人は視線を戻した。
「人がいるときはだめって言った!!!」
「でも温まっただろう?」
顔を真っ赤にしたハリーの叩こうとした手をつかんでいるヴォルは、悪びれもなくにこやかに問いかける。わなわなと羞恥に震えるハリーを抱きしめ、次からはちゃんとするから許してほしい、と癖っ毛に指を絡めた。
唸るような抗議する声が聞こえるが、ややあってこくりと頷くハリーに生徒4人はあきらめのため息が零れ落ちた。
「君が……とても力の強い生徒だというヴォル=セルパンだね。ダンブルドア校長の助言でとっさに失神呪文を唱えてすまない。と……君たちは恋人なのかい?」
顔が赤くなって振り向けないのか、ヴォルにしがみつくハリーと、笑うことで少し陰のできるヴォルを見比べるルーピンはとても危険な気配がしたから、とそう言う。もちろんと頷くヴォルと、顔を隠したまま頷くハリーにルーピンはそうなのか、と何か考える風で笑いかける。
「あぁそうだ。もうじきに着くという話だから下車の準備をしといたほうがいい。私は少し用事があるからこれで失礼させてもらうよ」
顔に残る傷が不思議と怖いと思えないほど柔和な笑みを浮かべるルーピンが出ていくと、6人は顔を見合わせる。やっぱり彼が闇の魔術に対する防衛術の教師なのかと。
「今年はまともな授業が受けられるかな」
そう言ってため息をつくロンにハーマイオニーはどういうことよとじろりと見る。あれほど熱狂していたハーマイオニーに彼の真実を伝えるのはやめようと、ロンとジニーと話し合っていたため、彼女は知らないが現在は魔法疾患の病院に入れられている。探しているファンもいるらしいが、既にほかの話題が優先されたのか新聞のどこをひっくり返しても彼のことは書かれていなかった。
やがて、ハリー達3人にとっては二年ぶりのホームへと列車は滑り込み、休暇を終えた生徒達を学校へと送り出す。こっちよ、とハーマイオニーに呼ばれて一年生とは違う道に行けば馬のない馬車がずらりと並んでいる。それだけでなく、生徒が乗った馬車がそのまま動き出したことに、ハリーとロンは驚いて走り去っていく馬車を見つめた。
「セストラスが牽いているんだったな。この学校内でも見える生徒はごく少数だろうが」
先に乗ってハリーに手を差し出すヴォルは見えてないだろうという。
頷くハリーを抱きとめ、自分の隣に座らせると乗り込むロンとハーマイオニーをしり目にちらりとなにもいない先頭を見た。扉を閉めると勝手に馬車は動きだし、進み始める。
「セストラス?なにかしら」
魔法生物の本にも載ってなかったわというハーマイオニーに特殊な生物だとヴォルは答える。
彼自身は見えているらしく、興味深げな3人の視線に……主にハリーの視線に着くまでだからなと前置きをして口を開いた。
「死を体現したもの、見たものなどにだけ姿を現す翼の生えた馬型の生き物だ。その性質なので嫌煙されたり、不吉だとされるのとそもそも写真が取れないことから、あまり本には載っていない。見た目が……そうだな……蝙蝠の翼の生えた、マグルの聖書や壁画に書かれる悪魔のような馬といえば想像できるか……。ホグワーツでは保護もかねて飼っているはずだ」
ハリーはまだ死を理解する前に遭遇したから彼らが見える条件に当てはまってないんだろう、と続けるヴォルは頷くハリーを抱き寄せてそっと触れるだけの口づけを額に落とす。くすぐったそうに笑うハリーだが、これぐらいはセーフなのかとロンはため息を吐いた。
やがて城が見えて馬車が止まると、見えないながらにもハリーはいるだろう場所に手を伸ばした。姿が見えなくとも確かな感触に、まるで透明マントのようだとそっとねぎらうように撫でる。
「ポッター、ディメンターを見て気絶したんだって?ロングボトムの話はホントかな」
にやにやとしたマルフォイがやってきて、声高くそういう。城に入る前の道でディメンターの隣を通った時も気分が悪くなったハリーだが、ヴォルが握る手に励まされ気絶はしなかった。
にしてもネビル、とため息をつきたくなるハリーはぴりっとした気配に慌ててヴォルを見る。
「マルフォイ!君は本当にバカなんだな。ディメンターの性質も知らずに声を上げるなんて。ディメンターの前で平気だってことは死の恐怖を知らない子供だって公言しているようなものだ。そうだ。俺様がその死の恐怖を教えてやろうか。腕がねじれ、肺がつぶれて息ができず、白目をむいて泡を吐く……それに耐えたら一歩大人に近づいたことになるな」
にっこりと爽やかにほほ笑むヴォルの言葉にマルフォイはたじろぎ、一歩引きさがる。ヴォルの脅しは去年、大階段で生徒一人の腕をねじりあげたことなどから嘘でもはったりでもなく、本気だというのはさすがに分かるらしい。一歩近づくヴォルにマルフォイはじりっと一歩下がる。
「それにしても毎回毎回ハリーに突っかかってくるのは……もしかして俺様のハリーに気があるのか?」
笑みを消して氷の様な表情で問いかけるヴォルにさっと顔を赤くするマルフォイはお前と一緒にするな変態が!と言い捨てて足早に去っていった。びきっと青筋が見えた気がするハリーは慌てて回りこむとヴォルを抱きしめる。
「僕はヴォルだけしか見えないから安心して!」
去り行くマルフォイがつまずく音が聞こえた気がするハリーだが、これ以上ないほどに嬉しそうな顔のヴォルに抱き返されて顔を赤くする。
あとから来た馬車から出てきたルーピンは、目の前の騒動になんだろうかと頭を掻いて、さぁ行こうと声をかけた。
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