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 魔法省の車に乗るわずかな道をアーサーがぴたりと張り付き、続けてヴォルが乗り込んでロンが乗る。移動中にナギニはヴォルとハリーにアーサーの視線を感じながらも聞いた話を伝えるとヴォルは頭を抱え込み、ハリーは驚いてじっとヴォルを見つめる。
『本当に誰なんだシリウス=ブラック。俺様の知らない俺様の右腕……ルシウスとベラトリックスと……ブラック家なんてレギュラスしか知らないぞ』
『レギュラス?』
『ブラック家の次男だ……だから多分その長男だろう。必死になって思い出せたのはブラック家の面汚しがダンブルドアの仲間に入ったという話だけだ』
 頭が本当に痛いというヴォルにハリーも小さな声で問いかけ、それにまたヴォルが答える。
 
『ねぇヴォル。急に寝言であいつはホグワーツにいるって言ってたのってもしかしてヴォル狙いなんじゃないのかな』
『俺?確かに……そんなはずはないだろう。俺様が死んだというのは誰もが知ることだ。それをアズカバンなんていうあの牢獄にそうそう現世の情報が入るわけがない』
 去年狙われたこともあり、心配げにヴォルを見るハリーにヴォルはないだろうときっぱりと首を振る。
いったいどういうことなんだと首をひねる二人だが、アーサーの咳払いに慌てて居住まいを直す。耳打ちをするくらいの距離でひそひそと会話していたが、二人が蛇語を話していることに車内にいる全員が気づいていた。
頭を抱えたりするヴォルに何があったのかと、朝やらかしたばかりのロンは興味をひかれたようにチラチラと見つめる。


 駅に着くと大人数だからと二人一組にと言ってアーサーとハリーが組み、ロンとヴォルが組む。
壁に寄りかかる様にくぐると、後からヴォルとロンが入ってきて、次々と潜り抜けていく。
「ハリーちょっといいかい?」
 そうアーサーに言われてハリーはちらりとヴォルを見た後頷く。先に荷物を持っていくというヴォルにトランクを渡し、人波から外れた場所に移動する。
 
「君に伝えなければならないことがあるんだ」
 そう切り出したアーサーにハリーは先ほどナギニが教えてくれたことを思い出し、シリウス=ブラックのことですか?と問いかける。驚いた様子のアーサーに先ほどナギニから聞いたんです、とそう答えた。
「そうか、できるならそんな伝え方をしたかったわけじゃないんだが……」
「ナギニもたまたま聞いてしまったと言っていたので。あの……無茶をしてはいけないというのはわかっています。僕も無茶するつもりはないです。去年もその前も、ヴォルが関係していたから……今回僕だけに関係するのなら無茶する道理がないです」
 そうかさっきはそういうことだったのかというアーサーに、ハリーは頷き何を言う気なのかを察して大丈夫ですと一つ頷いた。だがアーサーはそれでも心配なようで、誓ってくれという。

「君が何を聞いても決してシリウス=ブラックを追ったりしないって。誓ってくれ!」
 汽笛の音がして、焦るハリーにアーサーはどんなことがあっても約束してくれと繰り返す。
「だから僕はシリウス=ブラックなんか追いかけません。ヴォルが追いかけるかもしれないですけど……」
「ハリー!もう時間だ!」
 僕はそんなことは絶対にしないというハリーの言葉に、アーサーは繰り返そうとして突然現れたヴォルに驚き、思わず固まる。
 ヴォルはそんなアーサーに目もくれず、いつもの浮遊呪文で現れ、ハリーを抱きかかえると動き出した汽車に向かって飛ぶ。黒い靄状のものを残していくヴォルに、かつて闇の勢力が猛威を振るっていた時代を思い出すアーサーは、本当に彼は大丈夫だろうかとロンの開けた扉に飛び込む二人を見送った。


 半ギレモードのヴォルをなだめ、あいているコンパートメントを探すと最後尾に一つ見つけて扉を開く。
 中にはくたびれた服を着た男性が一人眠っていた。つぎはぎだらけのローブにボロボロの鞄と、少しやつれた様子の男性は静かに眠っていて起きそうにはない。
「仕方がない相席させてもらおう」
 不思議そうに見つめるロンやハリーを促し、ヴォルが先に入るとハーマイオニーもそうねと言ってはいる。鞄に書かれた名前からリーマス=J=ルーピンという名を見つけて新しい闇の魔術に対する防衛術の先生じゃないかと顔を見合わせた。

「ルーピン……どっかで聞いた名だな……」
 うっすらと聞いた名だなと言うヴォルはアーサーがぎりぎりまで何をハリーに話していたのか、気になってじっと見つめる。ロンとハーマイオニーも何があったのかと目を向ければハリーはちらりとヴォルを見てから昨晩ナギニが聞いた話を二人にも伝えた。

「シリウス=ブラックが脱獄したのはハリー、貴方の命を狙うためだっていうの?」
 驚いたハーマイオニーはちらりとヴォルを見て、本当なの?という。それに対するヴォルはさぁと肩を竦めて見せ、何の音だ?と顔を上げた。
小さな笛のような音が聞こえ、何の音だろうというとハリーはもしかしてとトランクをひらく。音源はすぐに分かり、赤く光りながら音を発するスニーコスコープを取り出す。
 じろりと寝ている男性を見るヴォルだが、深く眠っているのか気が付いた様子はない。ロンが手に取るとますます音が高くなり、ヴォルは無言で杖を取り出すと音を消す魔法をかけてしまう。

「一応そんなに高くなかったから……」
「壊れている風じゃないが……。そのルーピンとかいう男に反応していたら面白いな」
 いきなりどうしたんだろうというロンはヴォルに赤く点滅するコマを渡す。受け取ったヴォルは壊れているわけじゃないと思うんだが、といって寝ている男を観察するように見つめた。ヘドウィグの籠の中に入ったナギニはなんか変なにおいがするわという。

「そうだ!ホグズミードで見てもらいなよ!魔法の機械とかいろいろあるって聞いているからさ」
「あら、ホグズミードに詳しいの?イギリスで唯一マグルのいない村だって聞いたけど」
 そうだというロンは嬉々としてフレッド達から聞いてるよと言い、それにハーマイオニーも興味深げに身を乗り出した。ハニーデュークスに行きたいだけさ、とウキウキした様子で答えるロンにハリーはヴォルを見る。
 50年前を知っているヴォルはおそらく何回かは行っている……はずだ。あのリドルがロンの言うお菓子専門店に入って、甘いぺろぺろキャンディーなどを買って齧っている姿を思い浮かべ、くすくすと笑う。
 以前フレッド達に貰ったことのある数々のお菓子を思い浮かべてそれを買う、のちの闇の帝王ということに笑いをこらえて肩を震わせた。
 
「本当に変わりがないなあの村は。ダ―ビシュ・アンド・バングズも健在というわけか」
「歴史の古い村なんだね」
 ロンとハーマイオニーの会話を聞いてなるほどなというヴォルに、ハリーは笑いをこらえながら腰に回されている手を軽くつねった。
「イギリスで最悪の呪われた幽霊屋敷、叫びの屋敷があるって聞いたわ」
 ロンは買いたいお菓子をいくつも読み上げ、ハーマイオニーの言葉を聞いていない。それでハーマイオニーがヴォルとハリーに本で読んだのと、いつもの彼女らしく探求心のままに短時間で調べた知識を確かめる様にいう。

「叫びの屋敷?そんなものがあるのか」
 聞いたことが無いというヴォルは知らないなとつぶやき、籠を揺らすクルックシャンクスを見上げる。そうだわというハーマイオニーはロンの制止を振り切り、籠を開けてしまう。
 ひらりと籠から出てきたクルックシャンクスだが、ナギニの声に耳を傾ける様にして顔をぬぐうように何度か撫でると、何かをこたえて飼い主であるハーマイオニーの膝の上で丸まる。胸ポケットのスキャバーズをかばうようにするロンに構わず、撫でるハーマイオニーの手に合わせてゴロゴロと喉を鳴らした。

「昨日の晩いないと思ったら……ずいぶん仲良くなったんだな」
「昨日寝る前にクルックシャンクスが招き入れたのよ。言葉話通じないけれども、二人と二匹で夜更かしさせてもらったの」
 ジニーと二人、面白かったわというハーマイオニーに昨晩、と思い浮かべてハリーは顔を赤くする。ナギニがいなかったなんて知らなかった。周囲を気にする余裕も何もなく、朝方までがっつりと別の蛇に食べられていて……声大丈夫だったかなと耳まで赤くなる。
「ロンの妹のジニー、ナギニを近くで見ても大丈夫だったのか?秘密の部屋の……バジリスクのことで……」
 珍しく歯切れが悪く問うヴォルにハーマイオニーは大丈夫よと笑って返す。最初こそ怖がっていたが、ナギニは鱗を隠すようにベッドの下に潜り込んだり、シーツにもぐって顔を隠したりとする姿に徐々に打ち解けたという。ほっとするヴォルは夏休みの間過ごしたエジプトやフランスの話に耳を傾けた。

 
 




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